転生令嬢はゆめかわいいをお望み

しおだだ

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◇◇◇

57 ルチアーノ

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「うわっ、ごめん!!」

我に返ったルチアーノが、ばっとレイラから飛び退く。顔が真っ赤だ。

「ふふ。いいのよ」


レイラ主催のゆめかわお茶会、という名のお人形ごっこは仕切り直して再開された。


それぞれのカップルは優雅な時間を過ごして、レイを首から下げたノアと、夜色のアドリアンがくるくるとテーブルを回る。

こき使われる王子のなんと愉快なことか。
エマもそう思っているのか、繰り返し呼びつけていた。


「いつもこんなお茶会を開いていたの?」

「そうねえ、いつもはもっと小規模だけどね」


レイラとルチアーノは白いベンチにいた。思い出のあのベンチに。


「どうして誘ってくれなかったの?」


ルチアーノの首にも鮮やかなレイが掛かっている。


「あら。ルチアーノ様はわたくしに興味がなさそうだったわ」

「それは……っ!」

「わたくしも諦めてしまっていたのね…。ルチアーノ様はいつも忙しそうだったし、誘うのも悪いと思ってたわ」


ルチアーノは組んだ手を数回擦り合わせて、細く息を吐いた。

大きな手だ。以前より、ずっとずっと。


「むかし、ぼくたちがまだ出会ったばかりの頃、よくこの中庭に来ていた。ラズベリーの木を見にきただけとか生意気言って、トマを引っ張り回して。でも本当は、ぼくはレイラに会いに来ていたんだよ」

「え?」

「気恥ずかしくて、まともに顔も見れてなかったけど。ぼくの気持ちは、父にも、トマにも、侯爵にも筒抜けだったな」

「まあ……」


レイラは熱くなる頬を押さえる。


「でもレイラの近くにはいつもロイドさんがいてさ、ラベンダー色のドレスを好んで着てて、一番好きな色なの、って言われたとき、ショックで倒れるかと思った」

「え、それは……」

「うん、いまならわかるよ。レイラはピンクとか紫が好きなんだよね?でもあの頃のぼくはレイラにふられたと思ってショックで。ほら、まだ子供だったし」


ルチアーノはそう言ってくすくす笑うが、その瞳の奥はまだ傷ついた少年のままだった。


「そこからはなんとか穏便に婚約者でいられるようにって、そればかりで。トマにずいぶん呆れられたよ。たしかに大事なことが見えていなかった」

「ルチアーノ様…」

「レイラの側にはロイドさんがいて、二人で新しいことをはじめてて。ぼくは婚約者なのに何も知らなくて、蚊帳の外で。そのうちどんどんレイラの仲間が増えて、でも、ぼくはやっぱり部外者で」


「っ、ごめんなさい……!!」


レイラは堪らずルチアーノを抱き締めた。

そうだ。わかってもらえるはずがないと、はじめからルチアーノに話すことをやめてしまったのはレイラだ。


「ぼくがこんなだから、つけ入る隙がありすぎたんだよね。あの日も、ほら、ブノワトがぼくのところに来た、あの嵐の日」

「……っ!!」


はっと顔を上げたレイラの頬に、ルチアーノの手が添えられる。そしてゆるりと親指が目の下を撫でた。…安心させるように。


「後から考えれば、あの令嬢は、いいや侍女か、彼女は失礼なことばかりだった。あのときもそれは気づいていたのに、レイラに嫌われたのかと思ったら、もうどうしていいかわからなかった」

「あのときはたしかに怒っていたけれど…。ルチアーノ様を嫌いになった訳じゃないのよ」

「うん。それをね、後からでも聞ければよかったのに、ぼくはどうしてもできなくて」

「ルチアーノ様…」

「ぼくはなんて心が弱い人間なんだって、マルセルの家で鍛えてもらったりしたんだよ」

「まあ!」

それでルチアーノはあんなに剣が強いのか、とレイラは驚く。

「それでも結局レイラと向き合うことはできなかったけど」


ルチアーノは「はは」と薄く笑う。


「ごめんなさいっ」


レイラはぎゅうといっそうルチアーノにひっついた。いままでの隙間を埋めるように。


「ごめんなさい、わたくしも逃げていたわ。ルチアーノ様に伝える努力もしないで、あなたに見向きされないのも当然なのに、ルチアーノ様のせいばかりにして」

「レイラ……」

「ロイドはマリーが好きなのよ」

「…うん。今日の距離感見て理解した」

「みんなでたくさんいろんなものを作ったわ。お茶をして、いろんな格好をして。でも、そこにルチアーノ様がいたら、きっともっと楽しかったのね」

「レイラの、服…」


ルチアーノはレイラを上から下まで眺めて、きゅっと目を瞑った。


「ルチアーノ様?」

「ごめん、いままでレイラが着ていたドレスもワンピースも、ロイドさんが作っていると思っていたから。嫉妬してばかりで、きちんと褒めたこともなかったな、と思って…」

レイラは首を傾げる。

「ロイドが作ったっていうのは間違いじゃないわよ?」

「でも、レイラのデザインなんだろ?」

「ええ、そうね」


「あ――…」と呻いたルチアーノの頭がレイラの肩に落ちてくる。


「ルチアーノ様?」

「ああもう、自分がいやになる。どうしてもっとレイラをきちんと見ていなかったんだろう」


嘆いたルチアーノがぐりぐりと頭を押し付けてきて、レイラは堪らず笑い声を上げる。


「ちょっ、やだ、くすぐったい…!」


きゃはは、とレイラの軽やかな声に、中庭でカフェデートごっこをしている集団の視線が向けられる。


「なにあれ。めっちゃらぶらぶじゃん」

「人騒がせね、いままでなんだったのかしら」


トマとリーサの元に、どん!とロコモコ丼が届けられた。アドリアンの手によって。


「え、なにこれ、頼んでないけど…」

「ルチアーノはあれで溺愛束縛系だからな。考え直すならいまのうち!」


「レイラは結構そういうの好きそうだけど?」


それ頼んだのこっちよ、と横からエマがロコモコ丼を奪っていった。
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