転生令嬢はゆめかわいいをお望み

しおだだ

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レイラとルチアーノはひとしきり笑いあって、二人でベンチに凭れる。


「ハンナのこと、ごめん」


ルチアーノに切り出され、レイラは彼を振り仰ぐ。


「彼女とはなにもないよ。誓ってもいい。でも、はじめに入学パーティーで手を差し伸べてしまったのは謝る。ごめん」

「…うん。仕方ないわよ。でも、どうしてルチアーノ様だったのかしらって思ったわ」


どうしてハンナを助けたのがルチアーノだったのか。
他の誰でもよかったじゃない、とレイラは思った。思ってから後悔した。


「ごめん。でも、無意識に身体が動いてしまったんだ。レイラのときはできなかったから…」

「わたくしのとき?いつ?」


レイラはぱちくりと瞬きをする。


「ほらあの、婚約発表パーティーのとき」

「婚約発表のとき…ってあれ!?あのとき?」


レイラは驚いた。

確かに履き慣れないヒールでつまづいて、アドリアンに助けてもらったことがある。あんな前のことをまだ悔やんでいたのか、とレイラがルチアーノを見ると、彼は拗ねたように口を尖らせてた。


「当たり前。あのときもアドリアンはレイラに興味を持っていたのに」

なんだかレイラは呆れてしまった。

「あなたね…」

「ごめん」


謝るルチアーノの薄い頬をつまむ。


「わたくし悲しかったのよ。せっかくいっしょの学園に通えることになったのに、ルチアーノ様はわたくしを無視するし」

「無視なんて!」

「いいえ!パーティーのエスコートもなくて、どれだけ惨めだったか!その後もあなたのそばにはハンナがいて、失礼な噂ばかり流れるし、ダンスは一度もいっしょに踊ったことないし……」


レイラはぎゅうと唇を噛み締めた。


「レイラ、ごめん…」

「許さない、恨むわ…」


レイラの両頬を手のひらで包んで、こつんと額をあわせる。


「わたくしが悲しくて辛いときに側にいないんですもの。もうあなたなんて要らないって、そう思ったわ…」

「言わないでレイラ、ごめん」


鼻と鼻を擦り合わせて、ルチアーノは眉を下げる。


「ぼくもずっと嫉妬してた。レイラといつもいっしょにいるロイドさんにも、弟であるトマにも、学園で近くにいるアドリアンにも……。マルセルもいつの間にかレイラとお茶をする仲になってるし」

「マルセル様はイリスの婚約者よ…」


レイラはルチアーノの頬に置いていた指で、彼の唇をむにと潰す。


「知ってる。でもだめ。レイラとダンスをした男たちは片っ端から牽制したんだから」


ルチアーノはいたずらをするレイラの手を掴み、その指先に口づけた。


「牽制って、ばか」


レイラが視線を外す。


「ん」


ルチアーノがそっと顔を傾けた、そのとき――。


「いいなあ、仲直りしちゃって!ずるいなあ!」


アドリアンの大きな声が響く。

「んぐっ!」と妙な声で思い止まったルチアーノは、ごごごご、と怒りを湛えて振り向いた。


「アドリアン~~!!」

「わあ、マジギレしてる」

「当然だ!」


眼前に迫っていたルチアーノの顔が離れて、レイラはぼぼっ!と頬が熱くなる。

―――わたくし、いまなにを…っ!?

きゃー!となるレイラはふと気づいた。


レイラとルチアーノの手はまだ繋がったままだったから。


ルチアーノはこちらを見もせずアドリアンと言い争っているが、レイラが手を開くと、きゅっと指を絡めて握ってくる。

それは不思議な充足感だった。
足りなかったものが満たされていくような。


―――ふふ。


レイラは繋がれた手を見下ろしてうれしそうに微笑む。時折確かめるようににぎにぎと力を込めてみたりして。


ルチアーノはそれをなんとも言えずに横目で見ていた。

うれしいような、気恥ずかしいような。

叫び出したいような気もするが、なんて言えばいいのかわからず、結局もにょもにょと口を噤む。それをまたアドリアンが横からつんつんとからかってくるのだが。


「二人とも仲直りできたの?」

「長い痴話喧嘩だったわね」


イリスとエマがやって来て、その後ろに続いたマルセルがうんうんと頷いている。


「あんまり長いから信用がなくなるところだったわ。ルチアーノ様の」

トマを引き連れたリーサの恐い言葉に、ルチアーノの顔が引き攣る。


「お姫様のピンチに駆けつけられない王子様なんて失格だと、ずっと思ってたわ」

ベンチの背凭れから身を乗り出してロイドが囁く。

「ねえルチアーノ様、あなたずっと私を目の敵にしてたけど、本当にミスリードしていたのはトマ様よ」


「えっ!?」

ルチアーノは驚いてトマを見た。


「ルチアーノ様のことは信頼してるけど、レイラの婚約者としては、ちょっと……」

「トマはレイラが大好きだもんな!」

渋い顔で目を逸らすトマと、それを笑い飛ばすアドリアン。


ルチアーノは改めて己の立ち位置を見直すことになり、大きく項垂れた。


「そうだったのか…」


そんな彼をベンチに集まった友人たちが口々に冷やかしたり笑ったりしている。宥める者がいないのは……仕方ないかもしれない。


「よかったですね、お嬢様」

「マリー」

にこりとマリーに微笑みかけられて、レイラもうれしそうに笑った。


…それにしても。


レイラは白いベンチから友人たちを見渡して感銘を受けた。

なんて友達冥利に尽きる、ではない。
なんて壮麗な顔ぶれ、でもない。


―――なんてゆめかわいいのかしら!これこそ理想のドールパーティーだわ!!


それぞれタイプの違う彼ら彼女らに激しく胸を高鳴らせていた。


「……ほら。これがレイラだぜ。本当に大丈夫かよ、ルチアーノ様」


トマの杞憂ははてさて。
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