地平線のかなたで

羽月蒔ノ零

文字の大きさ
25 / 37
第四章

怪盗

しおりを挟む
 翌日のお昼頃、池野さんから「夕方までには絵が完成しそうです」と連絡が届いた。
 優莉と誠志郎にもそのことを伝え、すぐに池野さんを迎えに行けるよう、俺たちはあらかじめ集まっておくこととなった。
 
 誠志郎がレンタカーを借りてくれたらしく、車で家まで迎えに来てくれた。助手席には、すでに優莉が乗っている。
「よお咲翔。元気か?」
「今日は頑張りましょう!」
「元気だよ。おう。頑張ろう!」
 
 無事集合した俺たち3人は、池野さんから連絡が来るまで、都内をドライブすることにした。

「けどなんか納得いかないなあ。盗まれたものを取り返すのも罪になるの? 正当防衛みたいな感じで免責されないのかな?」眉毛を八の字にしながら優莉がそう言った。

「んー、盗まれた物を自分で取り返すとか、そういうのは確か『自力救済』っていうんだけど、日本では一部の例外を除いて原則『自力救済』は禁止されてるんだ。だから盗まれた物であってもちゃんと法律に基づいた手続きを踏まないと取り返せない。たとえ自分の物が盗まれたのが明らかだったとしても、日本は法治国家だから法律が絶対であって、力づくで物事を解決することを認めてしまうと、力のある者が幅を利かせるようになって、社会が混乱して無法地帯と化してしまうとか何とかそういう理由だったと思うけど……。何にせよ、ややこしい話だよなまったく。盗まれた物を取り戻したら駄目だなんて」

「んー、じゃあ私たちも泥棒になっちゃうわけか。なんか複雑だなあ。泥棒は泥棒でも、アルセーヌ・ルパンみたいな義賊だからよしとするか……」

「泥棒は泥棒だけど、法に触れない方法を今2つ思いついたぞ」
「お! どんなの?」
「ひとつは、俺たちが人間じゃない場合。人間以外なら窃盗罪には問われないから」
「なんじゃそりゃ」

「もうひとつは、実は俺たちの正体が異世界からやってきた謎の怪盗だったっていうもの。異世界からやって来た何者かが俺たち3人の体を借り、謎の怪盗としてあの絵を奪還して池野さんに返還し、事が済んだら異世界に帰ってしまったということにすればいい」

「なるほど! 謎の怪盗かあ。いいねえ。よし、それでいこう!」

「能面があるから、名前は『怪盗ノーメン』でいいかな?」
「えー、なんかいまいちだなあ。もっとかっこいいのがいいよ。んー、なんかいいのないかな……。そうだ! ゆりかもめっていうのはどう? 怪盗ゆりかもめ! なんかかっこよくない?」

「ゆりかもめかあ。確かにかっこいいかも。能面とまったく関係ないところもなんかおもしろいし」

「よし、今日の私たちは、異世界から碧風清流の絵を取り戻すためにやってきた、怪盗ゆりかもめだ!」

 車は特に目的地を定めることなく、気の赴くままに走っていた。
「私も車運転してみたいなあ。免許取ろうかなあ」
「おー、いいね。免許を持った人が数人いれば、交代で運転することで遠くまでも行ける。ミューと玲子さんは免許持ってるのかな? 今度聞いてみよう」

 特に目的地を決めることなく適当にドライブしていたが、
「少し遠くまで行ってみない? もし間に合いそうになければ時間を止めちゃえばいいし」と優莉が言うので、
「いいですね。では、スカイツリーにでも行ってみますか?」
「スカイツリーかあ。いいねえ。行こう!」ということになった。

 一行を乗せた車はスカイツリーを目指して順調に進んでいたが、途中で何か食べようということになり、道中にあったラーメン屋さんに寄ることとなった。

「ここはいわゆる家系いえけいラーメンのお店だ」
「何それ?」
「なんか、豚骨醤油味のラーメンで、お店の名前に「○○家」ってついてることが多いから「家系」って呼ばれてるらしい。ラーメンを注文すると、お好みは? って聞かれて、味の濃さ、麺の硬さ、油の量を選べるんだ。もちっとした太麺で、具はチャーシューとほうれん草とのりが入ってることが多いよ」

「なるほど。初めての場合はどういう風に注文するのがおすすめ?」
「んー、初めての場合は『薄め、少なめ』って注文するのがいいかな。結構濃厚こってりなスープだから」
「『薄め、少なめ』だね。よし。誠志郎は食べたことあるの? 家系ラーメン」
「ええ。このお店ではありませんが、何度か食べたことありますよ」 
「ほー、そうなんだ。じゃあ行ってみよう!」

 店内に入ると、「いらっしゃいませー!」と店員さんが威勢のいい声で迎えてくれた。
 券売機で「ラーメン」のボタンを押し、食券を持って、優莉、俺、誠志郎の順にカウンター席に着いた。

「お好みは?」優莉が最初に聞かれた。
「えーっと、う、薄め、少なめで」
「薄め、少なめ。お兄さんは?」
「僕は普通で」
「普通で。そちらのお兄さんは?」
「濃いめ、多めで」
「おおっ!」優莉が誠志郎の注文にびっくりしていた。
「濃いめ多めで。かしこまりました! 薄め少なめ、普通、濃いめ多めでーす」

 しばらくして、ラーメンが運ばれてきた。
「いただきます!」
 3人でラーメンを食べた。うまい。途中で優莉が、「ちょっとそっちのスープも飲ませて」と言って、自分の薄めスープと俺の普通スープ、誠志郎の濃いめスープをを飲み比べていた。

 3人とも無事に完食し、食器をカウンターの上の部分に置き、台拭きでテーブルを拭いて店をあとにした。

「いやあ、おいしかったよ。今度は私も普通で注文してみたいな」 
 どうやら気に入ってくれたようだった。

 また来たいので、お店の名前と場所をメモしておき、スカイツリーへの旅を再開した。

「あ! 見つけた!」優莉がビルの間にたたずむスカイツリーを見つけたようだ。しかしまだ少し遠い。
 その後も車を走らせること十数分、遂にスカイツリーのふもとへと到着した。

 近くに車を停め、スカイツリーを眺めた。
 まだ明るいのでライトアップはされていなかったが、ライトアップされていないスカイツリーもクールな感じがしてかっこよかった。

 セルフタイマーを使って俺と優莉と誠志郎とスカイツリーの4ショット写真を撮った。なかなか上手く撮れている。

「さすがに中に入るのは時間ないかなあ。それはまた今度にしよう。どうせなら5人で来たいねえ」
「そうだね。5人で……。来れるといいな」

 スカイツリーを眺めていると、池野さんから連絡があった。
「はい。鈴木です」
「あ、どうも、池野です。一応絵が完成しました。これからどうすればいいでしょう?」
「今から車で迎えに行きます。池野さんのご自宅の住所を教えてもらってもいいですか? もし抵抗があれば、最寄り駅の名前でも構いません。

「あ、はい。では住所を。東京都千代田区……」

 俺たち3人は池野さんのご自宅へと向かい、20分ほどで到着した。
「うわあ、おしゃれなマンションだなあ。私もこういうところに住みたいな」
「もしもし、鈴木です。到着しました」 
「了解です。今出ます」

 しばらくして、絵を持った池野さんが外に出てきた。
「無理を言って申し訳ありません。絵は無事に完成しましたか?」
「はい。我ながらまあまあの出来だと思います」
 そう言って池野さんは、絵を見せてくれた。

「おおー!」
 3人は呆気あっけに取られてしまった。その絵はまさにあの絵だった。3人が一瞬で心を奪われた、あの絵だ。とても美しく、繊細でいながら、強い愛の力を感じる。

「すごいなあ。本物みたいだ」
「いえいえ、私なんてまだまだ。本物の絵には、裏に祖母へのメッセージが書きこまれているんです。表面的にどれだけ似せたところで、あくまで偽物であり、本物になり変わることはできません」
「そうなんですかあ。なんだかロマンチックですなあ」
「あの、私はこれからどうすればいいのでしょうか? 絵は完成しましたが、これをどうやって本物とすり替えるのか……本当にそんなことが可能なんでしょうか?」

「大丈夫ですよ。心配ご無用です。とりあえず、あの美術館へ向かいましょう」俺は池野さんにそう伝えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...