不良くんは一途に愛してる!

鶴森はり

文字の大きさ
32 / 41
幕間

☓よ、☓。セカイで一番、☓☓☓のは。

しおりを挟む
 あの子と初めて会ったは、桜が満開になり薄紅色の雨が降る季節だった。

 幼稚園にはいなかった彼女は、引っ越しのご挨拶だとかで家まで来た。だけど人見知りなのか、あるいは引っ越しで見知らぬ土地に心細かったのか。小さな体をもっと縮こまらせて、母親らしきおばさんの後ろに隠れていた。

「ほら、白雪。挨拶しなさい」

 強い語気は責めるようで、白雪と呼ばれた女の子の手を掴む力も乱暴だった。引きずられるように、前に出された女の子に、思わず息を呑む。

「……っぁ……えっと、あの、ええっと」
「ほらはやく、失礼でしょう!」

「……っはい、ごめんなさい」

 白雪と呼ぶにふさわしい、柔らかな淡雪のような肌に、少しウェーブがかかった、たっぷりとした艷やかな長い黒髪。真っ白なレースのリボンでハーフツインテールにした姿は、まるで童話のお姫様のように、きらきらと輝いて可愛かった。

 ひらりとレースを揺らして頭を下げると、小鳥のさえずりのような声音で「はじめまして」と挨拶をする。
 にこりと微笑む愛らしさは、まるで、さっきまで読んでいた絵本の白雪姫そっくり。




 かわいい。名前も肌も顔も声も。おまけに謙虚でいじらしくて。同性かつ幼かった自分でも素直に思ってしまうほど。


「白雪ちゃんはかわいいわね」

「白雪ちゃん、泣かないで。ほら、わんちゃんはもういないわよ」

「白雪ちゃんは、礼儀正しいわねぇ」

「白雪ちゃんは、いい子ねぇ」

「白雪ちゃん」
「白雪ちゃん」
「白雪ちゃん」

 みんな。

 白雪ちゃんに優しかった。
 泣き虫で、犬に追いかけられて泣いたり、飴ごときでオーバーなほど喜んだり。素直なリアクションと容姿でみんなが夢中になった。

 ――許せなかった。その場所は――私のものだったのに。

 幼稚園でも大人からはとっても愛されていたのに。同世代で逆らう子なんていなかったのは、私が一番可愛かったからなのに。

 それをあの子が、全部、全部奪った。


「白雪ちゃん、そのリボン可愛い!」
「……っあ、あり、がとう。――ちゃんのヘアピンもきれいで、似合ってる」

 誰かに褒められて、雪の頬を赤らめて微笑した。上品に口元に手を添えて。大人に媚を売って近い年の子にまで、いい顔をする。

 うそつき。
 心では自分より可愛くないって馬鹿にしてるに決まってる。

 だってそうじゃない、白雪ちゃんは誰より。


「白雪ちゃんが、一番かわいい」


 ぴしり。
 鏡が割れるような音が胸の奥で響いて、痛みが走る。
 毒林檎のような赤が視界を染めて、吐き気がした。


「ほら! 取れるもんなら取ってみろよ!」
「か、返して、それはお母さんのリボンだから、なくしたら怒られるの」


 男の子も白雪を、からかう。

 涙目になってるけど構われて喜んでいるに決まってる。

 だって、だって私がそうだったから。男の子のいたずらなんて、好きの裏返しってお母さんが言ってたもの。 

 なのにあの子、大袈裟に困って。気弱そうなふりをするのよ。悲劇のお姫様みたいに怯えて。なんていうんだっけ。
 そう、下品よ、そういうの。

 私はリボンなんて買ってもらえない。欲しいとねだったら、「この前ゲームを買ってあげたばかりでしょ」って。
 お母さん、いつの間にか白雪ちゃんに夢中で、意地悪にななっちゃった。

 欲しいのに。
 白雪ちゃんには負けたくないのに。
 あの子が持っているものは私だって欲しいのに。
 買ってくれない。
 あの子が奪ったお姫様役も取り戻したいのに。
 どうしたらいいのか、必死に考えて。
 考えて考えて考えて考えて。

 思いついた唯一の方法は。

「ねぇ白雪ちゃん、そのリボン、私欲しいなぁ」


 ――あの子から貰うことだった。


 でも、いいよね。奪ったのはそっちからだもんね。
 白雪ちゃんは色んなもの持ってるんだから私が貰ったって。


 ……イイヨネ。



 彼女が身につけたものを貰って。

 私を裏切って、私より白雪ちゃんが可愛いって言った奴らに、報復し続けて私のほうが可愛いって認めさせていけば。
 また、またあの頃に戻れるよね。そうだよね。
 
 ねぇ。


「こんなの、だめだ、よ。可哀想だよ」

 裏切り者への制裁を下したときの白雪ちゃんの言葉。
 可哀想だって。
 上から目線だよ、ねぇ本当にこんな子が一番可愛いの。自分がよく見られたいからって綺麗事言ってるんだよ。

 自分がイジメれる番になったら、ほっとした顔するくせに辛そうなの。ほらね、本当は嫌なくせに。
 イジメられたくないくせに、自分がイジメられる方がマシだなんて可愛こぶるの。なんて……。
 そう、なんて浅ましいんだろう。

 ほら、ほら。
 ほらほらほらほらほらほら!

 白雪ちゃんはみんなが言うほど可愛くない。
 私のほうが、ずっと一番綺麗なの。そうだったはずなの。

 ……なのに、なんで、なんで。


「また、奪うんだ」


 今度は私の好きな人まで。酷い、酷い、醜い。ぜんっぜん可愛くない。
 どうしたらいいの、やっとお姫様に戻れたのに。
 周りにもちゃんと教えて、ようやく白雪ちゃんがだらしなくて弱虫だと嗤い始めたのに。先生もお母さんもみんなみんなみんな、私の元に戻ってきてくれたのに。私が一番にしてくれたのに。一番可愛いって、綺麗って、美しいって。

 なのに彼女がいたら、またすぐに奪われちゃうの。
 わたしから、お姫様を奪わないで。一番を取らないで。


 お願いだから。私を。

 ――……一番に、して。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...