優しい風に背を向けて水の鳩は飛び立つ (面倒くさがりの君に切なさは似合わない)

岬 空弥

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妻の行き先

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(遠征にも行っていないのに、なぜ何日も家に帰ってないんだ。毎日どこに行ってる・・・)

疲れた体に構っている場合ではなかった。今の自分は妻の近況が何一つ分からない。いくら仕事といえど、ほとんど帰って来ない夫に対して不満は絶対にあるだろう。
そして、毎日寂しい思いをしているジョナスをきっと周りの男も放っときはしないはずだ。

ロステルが悲しむことをジョナスは絶対しない。それは分かっているけれど、こんなに会えない日々が続いてしまうとさすがに自信がなくなってしまう。
ジョナスなら絶対大丈夫と信じていても・・・果たしてその愛はいつまで続くものなのか・・・ちっとも会えない夫への愛情は永遠に続くのだろうか。

いつも側にくっ付いて力いっぱい抱きしめた。逃げないように必死に繋ぎ止めていると、彼女は困ったように微笑んで自分を受け入れてくれた。
だが今は、それができる立場にいるのは他の男だ。周囲から聞かされるヤソックとの関係にどれほどの苛立ちを覚えたことだろう。いつも熱を帯びた瞳でジョナスをじっと見ていた男・・・。

ロステルはどうしようもない不安に耐えられなくなり、王宮に向かい全力で駆け出した。

「よう、ロステル!そんなに走ったら人にぶつかる・・・って、おい、どうした!お前、顔が真っ青だぞ」

ジョナスのいる第二騎士団へ向かい長い廊下を走り抜けるロステルに、以前の同僚が呼びかけた。
大丈夫か?と、腕を掴まれたロステルは慌てた様子で彼に尋ねた。

「ジョナスを知らないか!?」

「ん?ジョナス?・・・ああ、そういうことか!ははっ、そうか第一は鳥獣討伐に行ってたんだったな。久々に家に帰ったら奥さんがいなくて驚いたって話か?」

「ジョナスはどこだ!」

「おいおい、そんなに慌てなくても大丈夫だ。ジョナスは一週間くらい休暇を取ってるぞ」

「家にはいない」

「だから落ち着けって。お前、今日が何日か知ってるか?お前も早く休暇を申請して出発した方がいいんじゃないのか?」

そこまで言われて自分が何を言われているのかようやく理解したロステルは、ほっとするのと同時に、急に体の力が抜けてしまいその場でへなへなと床に座り込んでしまった。

「・・・収穫祭」

大きな息を吐きながらようやく言葉にしたロステルは、力なく同僚を見上げた。目の前の彼は自分を見下ろしながら 「早く休暇を申請に行け」 と笑っているが、ロステルは未だ動悸が収まらない状態であった。

(良かった・・・まだ誰にも奪われてない)


 毎年、この時期に行われるモンテナス伯爵領地での収穫祭。自然やその年の収穫への感謝をモンテナス伯爵家が中心となって行う大々的なお祭りである。領民と協力して町中を飾り付け、収穫された作物で皆に料理を振る舞う。たくさんの酒とご馳走を並べて歌と踊りで、その土地の神様に感謝の祈りを捧げるのだ。

水を自在に操れるジョナスの魔法は、モンテナス伯爵領でも大いに歓迎され、昨年の収穫祭でも準備で多忙を極める家族や領民からとても重宝されていた。
祭り当日などは得意の水魔法を惜しげもなく披露して領民からは大歓声が上がった。魔法で作られた美しい水の芸術品に大人も子供も皆が心を奪われ、祭りは大いに盛り上がった。

夫婦だというのに最近では思うように会うこともできない状態だったが、忘れずに実家の為に動いてくれたジョナスに感謝しながらもロステルは心底安心した。



 休暇の申請書類を片手に団長の執務室に向かうロステルは、去年の祭りで楽しそうに領民と笑う妻の顔を思い出して頬を緩めていた。
だが向こうから歩いて来る男と目が合うなり、先ほどまでの気の緩みは一気に消え失せてしまった。

(ヤソック)

挑戦的な視線を逸らすことなく歩いて来るヤソックに対し、ロステルもまた逸らすことなく相手の目を見続けた。
自分の目の前で足を止めたヤソックは、ロステルが持つ書類に軽く視線を落としたかと思うと、もう一度こちらを見据えて感情のこもらない冷淡な声で話しかけてきた。

「僕のパートナーを早く返してもらいたいんだけど」

「!?」

(こいつは何を言ってる)

こちらを蔑むように睨んでいるヤソックに、ロステルは強い嫌悪感を抱いた。

「領地の祭りっていつ終わるの?ジョナスが仕事を休んでまで行く必要あるのかなぁ。水魔法に用があるのなら第一騎士団にも何人かいるよね。なんで第二のジョナスなの?」

ヤソックは苛立った様子を隠そうともせず、早くジョナスを返せとばかりに矢継ぎ早に質問してきた。まるで自分のもののような言い方にロステルはギリリと歯を食いしばった。

「ジョナスは俺の妻だ」

その言葉に、ヤソックが殺意にもとれる憎しみのこもった目を向けてきたが、ロステルの後ろに見えた女性に気づくなり、ふっと口元を吊り上げた。

そうして、すっと表情をなくしたかと思うと、もうお前になど用はないとばかりにスタスタと歩き出した。すれ違う際にぼそりと呟いたヤソックの言葉は背後から聞こえてきた 「ロステルー!」 と自分の名を呼ぶ女性騎士の声でかき消されてしまった。


「そう言っていられるのも今のうちだよ」
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