32 / 75
ヤソックの本性
しおりを挟む
目覚めたばかりで意識が朦朧とした状態のロステルが正気に戻ったのは、ありえない場所から突如聞こえた悲痛な叫び声が、ジョナスのものだと気が付いたからだった。
大好きな妻の声を聞き間違えるはずなんてない。
では・・・ならば・・・、
自分が今、大切に抱えている人間は・・・ジョナスでは、ないの・・・か?
(こ、の、女は・・・誰だ・・・)
確かめなくてはいけないと分かっているが恐怖で体がピクリとも動かない。
だが、ドアの前に立ってこちらを見ているのは、間違いなく最愛の妻ジョナスだった。口元を手で覆い、目を大きく見開いているがその瞳にはじわじわと涙が溜まってきている。
いつの間に現れたのだろう、ヤソックが悲しそうな顔つきでジョナスを見つめ、彼女の肩に手を置いていた。
ロステルの全身がうるさいほどに脈打っていた。
これが取り返しのつかないことだと思い知らされたのは、ジョナスが何も言わずに走り去ってしまったからである。それまで妻だと思って触れていた女の頭から手を離すと、ロステルは慌ててベッドから飛び降りた。
だがジョナスを追いかけるつもりが、激しい頭痛に見舞われ床に膝をついてしまう。
「ジョナス!!ジョナス、ジョナス!!」
「ロステル、まだ寝ていないと駄目よ!」
頭がクラクラする。ジョナスではない不快な女の声に吐き気を覚える。
(ジョナスに酷い誤解を与えてしまった・・・早く追いかけて話をしないと)
痛む頭を押さえながら駆け出そうとしたロステルであったがドアを出ると直ぐに、強い突風に思いきり吹き飛ばされた。
「ロステル!!」
うめき声を漏らし廊下に転がるロステルに、先ほどまで一緒にいた女性騎士が走り寄った。まるで最愛の夫を心配する妻のようにロステルの名を何度も呼ぶ女性騎士は、涙目になりながら彼を守るように覆いかぶさった。
何が起こったのか理解できないロステルの目に入ったのは、こちらをじっと見据えるヤソックの姿だった。
冷たく据わった瞳とは裏腹に、にんまりと口角を上げた彼はすっと手を前に出した。
「ジョナスには、最初からお前なんて必要ないんだよ」
ヤソックはそう言うなり、ロステルに向かってもう一度風魔法を放った。
しがみ付くようにロステルを守っていた女性騎士もろとも勢いよく壁に激突する姿を見てヤソックは薄く笑った。
「ふっ、お前にはその女がお似合いだよ」
痛みに耐えてうずくまる二人にヤソックの声が聞こえたかどうかは分からない。お前達になど用はないとばかりに一瞥したヤソックは、ジョナスの後を追って歩き出した。
もし、この王宮内に彼女の逃げ場所があるとするならば、それは当然ここしかないだろう。洗濯メイドジョナスの本来の居場所。
夕日が辺りを赤く染め上げている中、一人ベンチに座る彼女の髪を柔らかい風がサラサラと揺らしていた。
この時間に仲間の姿はもうない。いつも所狭しと並んでいる洗濯物も当然全て片付いている。大きなタライや洗濯板がいくつも壁に立てかけて干してあった。
そんないつもの光景が一切目に入らないのは、自分の足元から視線を上げることもできない情けない自分のせいである。
あれほど止まらなかった涙が知らないうちに乾いていた。
自分達は大丈夫、絶対大丈夫と強く思わないといけなかったのは、もしかしたら自分に言い聞かせる為だったのかもしれない。
ロステルが他の女性と噂になっていると知った時から、本当は不安で仕方がなかったんだと思う。
メイド仲間やヤソックから聞いた話を鵜呑みにするつもりなんてなかった。夫であるロステルのことは自分が一番分かっていると思っていたから・・・。
噂話を耳にする度に嫌な気持ちに支配されてしまうのは、彼が自分以外の女性に笑顔など絶対に見せないことを知っているからだ。
なのに、ジョナスは見てしまった。
自分以外の女性に優しく微笑み、彼女の体を抱き寄せていた。彼女のキスを受け入れようとそっと目を閉じた夫の姿を・・・。
ジョナスには、もう自分への言い訳が思いつかない。こうしていつまで待っていても迎えに来ないことが自分よりも彼女を優先した証拠でもある。
自分が受け入れないだけで、答えはとっくに出ているのかもしれない。
大好きな妻の声を聞き間違えるはずなんてない。
では・・・ならば・・・、
自分が今、大切に抱えている人間は・・・ジョナスでは、ないの・・・か?
(こ、の、女は・・・誰だ・・・)
確かめなくてはいけないと分かっているが恐怖で体がピクリとも動かない。
だが、ドアの前に立ってこちらを見ているのは、間違いなく最愛の妻ジョナスだった。口元を手で覆い、目を大きく見開いているがその瞳にはじわじわと涙が溜まってきている。
いつの間に現れたのだろう、ヤソックが悲しそうな顔つきでジョナスを見つめ、彼女の肩に手を置いていた。
ロステルの全身がうるさいほどに脈打っていた。
これが取り返しのつかないことだと思い知らされたのは、ジョナスが何も言わずに走り去ってしまったからである。それまで妻だと思って触れていた女の頭から手を離すと、ロステルは慌ててベッドから飛び降りた。
だがジョナスを追いかけるつもりが、激しい頭痛に見舞われ床に膝をついてしまう。
「ジョナス!!ジョナス、ジョナス!!」
「ロステル、まだ寝ていないと駄目よ!」
頭がクラクラする。ジョナスではない不快な女の声に吐き気を覚える。
(ジョナスに酷い誤解を与えてしまった・・・早く追いかけて話をしないと)
痛む頭を押さえながら駆け出そうとしたロステルであったがドアを出ると直ぐに、強い突風に思いきり吹き飛ばされた。
「ロステル!!」
うめき声を漏らし廊下に転がるロステルに、先ほどまで一緒にいた女性騎士が走り寄った。まるで最愛の夫を心配する妻のようにロステルの名を何度も呼ぶ女性騎士は、涙目になりながら彼を守るように覆いかぶさった。
何が起こったのか理解できないロステルの目に入ったのは、こちらをじっと見据えるヤソックの姿だった。
冷たく据わった瞳とは裏腹に、にんまりと口角を上げた彼はすっと手を前に出した。
「ジョナスには、最初からお前なんて必要ないんだよ」
ヤソックはそう言うなり、ロステルに向かってもう一度風魔法を放った。
しがみ付くようにロステルを守っていた女性騎士もろとも勢いよく壁に激突する姿を見てヤソックは薄く笑った。
「ふっ、お前にはその女がお似合いだよ」
痛みに耐えてうずくまる二人にヤソックの声が聞こえたかどうかは分からない。お前達になど用はないとばかりに一瞥したヤソックは、ジョナスの後を追って歩き出した。
もし、この王宮内に彼女の逃げ場所があるとするならば、それは当然ここしかないだろう。洗濯メイドジョナスの本来の居場所。
夕日が辺りを赤く染め上げている中、一人ベンチに座る彼女の髪を柔らかい風がサラサラと揺らしていた。
この時間に仲間の姿はもうない。いつも所狭しと並んでいる洗濯物も当然全て片付いている。大きなタライや洗濯板がいくつも壁に立てかけて干してあった。
そんないつもの光景が一切目に入らないのは、自分の足元から視線を上げることもできない情けない自分のせいである。
あれほど止まらなかった涙が知らないうちに乾いていた。
自分達は大丈夫、絶対大丈夫と強く思わないといけなかったのは、もしかしたら自分に言い聞かせる為だったのかもしれない。
ロステルが他の女性と噂になっていると知った時から、本当は不安で仕方がなかったんだと思う。
メイド仲間やヤソックから聞いた話を鵜呑みにするつもりなんてなかった。夫であるロステルのことは自分が一番分かっていると思っていたから・・・。
噂話を耳にする度に嫌な気持ちに支配されてしまうのは、彼が自分以外の女性に笑顔など絶対に見せないことを知っているからだ。
なのに、ジョナスは見てしまった。
自分以外の女性に優しく微笑み、彼女の体を抱き寄せていた。彼女のキスを受け入れようとそっと目を閉じた夫の姿を・・・。
ジョナスには、もう自分への言い訳が思いつかない。こうしていつまで待っていても迎えに来ないことが自分よりも彼女を優先した証拠でもある。
自分が受け入れないだけで、答えはとっくに出ているのかもしれない。
11
あなたにおすすめの小説
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして
Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。
伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。
幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。
素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、
ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。
だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。
記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、
また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──……
そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。
※婚約者をざまぁする話ではありません
※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
後妻の条件を出したら……
しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。
格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。
だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。
しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる