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間違った行動
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ジルドナは、次の日も、その次の日もフローレンスに会いに行かなかった。一人で行動しているフローレンスを遠目に見ながら隣にはルミリアを置いた。フローレンスの姿を見つけるとすぐにルミリアの手を引き寄せ、楽しそうに会話をする振りをした。ルミリアとの会話の内容なんて覚えていない。ただ、フローレンスの前で親密そうにしていればいいのだ。
ジルドナとルミリアを見る度、フローレンスの顔は曇って行った。初日に見せた泣きそうな顔ではなかったが、ジルドナを見つけると、寂しそうに眉を下げて俯くのだ。そして、くるりと向きを変え、肩を落として違う方向にトボトボ去って行った。ジルドナは、自分のことを思って胸を痛めているフローレンスを狂おしいほど愛おしいと感じた。走って後を追い、愛しているのはお前だと力いっぱい抱きしめたい焦燥に駆られた。しかし、フローレンスが泣きついて来る姿をまだ見ていないと思うと、その衝動をぐっと我慢して、何事もなかったようにふるまった。
「なぁ、ジルドナ・・・。お前、フーバート嬢とうまくいってないのか?無理やり婚約させられたのは知っていたけど、それでも結構仲良くやってただろう? 全然彼女の教室にも行かなくなったんだろう?フーバート嬢と同じクラスの奴も不思議がって聞きに来たぞ?」
「別に何も変わらない。俺の婚約者はフローレンスだよ。でも・・・、まあ、ちょっとな・・・。」
「だが、あの女は・・・。」
「ああ。わかってる。」
「フーバート嬢、随分落ち込んでるって話だぞ・・・。こんなことしてて、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。彼女は俺に惚れてるからな、関係は壊れないよ。」
ジルドナは、自分で言った言葉に酔いしれた。
(今や、自惚れでもなんでもない。フローレンスは俺に嫉妬するほど夢中なのだ。フローレンスのことだから、自分の気持ちにまだ気付けていないのだろうが、まあ、気付くのも時間の問題だろう。)
その時のことを想像すると、何も知らない目の前の友人に、つい満面の笑みを見せてしまうのだった。
友人の心配を軽くかわし、その後も余裕を持って行動していたジルドナだったが、日数が経つにつれ、フローレンスの周辺に変化が訪れていることに気付いてしまうのだった。
ジルドナとルミリアのいちゃつきは、日を追うごとに激しくなっていく。それと言うのも、ジルドナを見るフローレンスの寂しそうな表情が、既に消えてしまっていたからだ。今や、二人を見てもフローレンスの表情に変化は見られない。それどころか、無表情の彼女は、人目もはばからず廊下で抱き合っている二人の傍を、何事もなかったかのように平然と通り過ぎて行くのだ。心を痛めて泣きついて来るどころか、最近では彼女の視界にすら入っていないように思えてならなかった。そんなフローレンスの様子が気になり、そっと彼女の教室を覗いたジルドナは衝撃を受けることになった。
いつも一人でポツンと席に座っていたフローレンスは、何人もの男女の輪の中で楽しそうに笑っているのだ。言葉を失ったジルドナの背中に嫌な汗が流れた。あんなに時間をかけてフローレンスの周りから他の奴を遠ざけたのに・・・。自分なしでは生きて行けないように他の奴には頼れない環境にしていたはずなのに・・・、ルミリアとの仲を見せつけることに時間を費やし、フローレンスを野放しにした結果、こんな短期間であんなにたくさんの人間の心を掴んだというのか・・・。
焦ったジルドナは、フローレンスが教室から出て行くのを確認すると、数人のクラスメイトを捕まえて、自分の婚約者に馴れ馴れしく話しかけるなと文句を言った。今までもこうやって、フローレンスに興味を持った奴を見つけては、自分の許可なく彼女に話しかけるなと牽制していたのだ。そうすればだいたいの奴らは 「婚約者を大切に思ってるんだね」 と、顔を引き攣らせながらも理解してくれたのだ。しかし、これは一体何だろう・・・。
「今更、なんですの?自分はあの男爵令嬢とべったりですのに、フローレンス様には友人も作らせないとか、いくらなんでもフローレンス様が可哀想ですわ!」
「そうだよ。別に話をするくらいいいだろう?自分は他の女とベタベタ触れ合っているくせに、何を言ってるんだ!?」
「フローレンス様だって、毎日、貴方達を見て辛そうにしていましたわ。でも、決して貴方達を責めたりしませんでしたのよ!彼女ったら、自分のことばかり悪く言って・・・。健気すぎて見ていられませんでしたわ。」
「それに、もうその婚約自体白紙に戻るんだろう?元々、嫌々結ばされた婚約だったんだから自由になれて良かったじゃないか!もう、そうやって気のある振りだって必要ないだろう?君の本当に好きな女のことだけ考えたらどうだ?」
「は!?・・・何言って・・・。婚約が白紙って・・・なんで・・・。」
ジルドナは、真っ青な顔で立ち尽くすしかなかった。目の前の者達は、もうジルドナの言葉に従わなかった。婚約者を盾にしていくら言っても、返ってくる言葉はフローレンスを擁護するものばかりだ。しかも、婚約者がいるにも関わらず他の女といちゃついている自分を皆が白い目で見てくるのだ。
何も考えられないジルドナが、呆然としながら廊下をフラフラ歩いていると、向こうからフローレンスが歩いて来るのが見えた。しかし、フローレンスは一人ではなかった。赤い髪の背の高い男と手を繋いで嬉しそうに見つめ合っている。
(あの、男は・・・誰だ?)
ジルドナは、立ち止まって二人を見つめていた。距離が縮まるにつれ、相手の男が誰なのかはっきりしてきた。
「嘘だろう・・・なんで、クレイズ公爵家の・・・。」
それは、一学年上の公爵家の次男、レイサス・クレイズだった。長身で派手な赤茶色の髪に、同色の鋭い目つきが特徴的だった。常に無表情で単独行動を好むせいか周りに人を寄せ付けない空気を纏っていた。学園の騎士科に属しており、女の影どころか男の友人とすら行動を共にしているのを見たことがなかった。そんな男が、今、フローレンスに寄り添い瞳を緩ませているのだ。二人とすれ違う時、そこにジルドナがいることに気付きもしないのか、フローレンスが視線を送ることはなかった。しかし、隣のレイサスはすれ違うギリギリまで、ジルドナを射貫くような視線を逸らすことはなかった。それは、明らかに 「これは自分の女だ」 と威圧していた。
(なん・・・だ・・これ・・・は・・・。俺は間違った・・・のか?)
ジルドナは、目の前が真っ暗になるのを感じた。そして数日後、実家からの手紙でフーバート侯爵家から婚約解消の話が来ていると知らされるのであった。
ジルドナとルミリアを見る度、フローレンスの顔は曇って行った。初日に見せた泣きそうな顔ではなかったが、ジルドナを見つけると、寂しそうに眉を下げて俯くのだ。そして、くるりと向きを変え、肩を落として違う方向にトボトボ去って行った。ジルドナは、自分のことを思って胸を痛めているフローレンスを狂おしいほど愛おしいと感じた。走って後を追い、愛しているのはお前だと力いっぱい抱きしめたい焦燥に駆られた。しかし、フローレンスが泣きついて来る姿をまだ見ていないと思うと、その衝動をぐっと我慢して、何事もなかったようにふるまった。
「なぁ、ジルドナ・・・。お前、フーバート嬢とうまくいってないのか?無理やり婚約させられたのは知っていたけど、それでも結構仲良くやってただろう? 全然彼女の教室にも行かなくなったんだろう?フーバート嬢と同じクラスの奴も不思議がって聞きに来たぞ?」
「別に何も変わらない。俺の婚約者はフローレンスだよ。でも・・・、まあ、ちょっとな・・・。」
「だが、あの女は・・・。」
「ああ。わかってる。」
「フーバート嬢、随分落ち込んでるって話だぞ・・・。こんなことしてて、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。彼女は俺に惚れてるからな、関係は壊れないよ。」
ジルドナは、自分で言った言葉に酔いしれた。
(今や、自惚れでもなんでもない。フローレンスは俺に嫉妬するほど夢中なのだ。フローレンスのことだから、自分の気持ちにまだ気付けていないのだろうが、まあ、気付くのも時間の問題だろう。)
その時のことを想像すると、何も知らない目の前の友人に、つい満面の笑みを見せてしまうのだった。
友人の心配を軽くかわし、その後も余裕を持って行動していたジルドナだったが、日数が経つにつれ、フローレンスの周辺に変化が訪れていることに気付いてしまうのだった。
ジルドナとルミリアのいちゃつきは、日を追うごとに激しくなっていく。それと言うのも、ジルドナを見るフローレンスの寂しそうな表情が、既に消えてしまっていたからだ。今や、二人を見てもフローレンスの表情に変化は見られない。それどころか、無表情の彼女は、人目もはばからず廊下で抱き合っている二人の傍を、何事もなかったかのように平然と通り過ぎて行くのだ。心を痛めて泣きついて来るどころか、最近では彼女の視界にすら入っていないように思えてならなかった。そんなフローレンスの様子が気になり、そっと彼女の教室を覗いたジルドナは衝撃を受けることになった。
いつも一人でポツンと席に座っていたフローレンスは、何人もの男女の輪の中で楽しそうに笑っているのだ。言葉を失ったジルドナの背中に嫌な汗が流れた。あんなに時間をかけてフローレンスの周りから他の奴を遠ざけたのに・・・。自分なしでは生きて行けないように他の奴には頼れない環境にしていたはずなのに・・・、ルミリアとの仲を見せつけることに時間を費やし、フローレンスを野放しにした結果、こんな短期間であんなにたくさんの人間の心を掴んだというのか・・・。
焦ったジルドナは、フローレンスが教室から出て行くのを確認すると、数人のクラスメイトを捕まえて、自分の婚約者に馴れ馴れしく話しかけるなと文句を言った。今までもこうやって、フローレンスに興味を持った奴を見つけては、自分の許可なく彼女に話しかけるなと牽制していたのだ。そうすればだいたいの奴らは 「婚約者を大切に思ってるんだね」 と、顔を引き攣らせながらも理解してくれたのだ。しかし、これは一体何だろう・・・。
「今更、なんですの?自分はあの男爵令嬢とべったりですのに、フローレンス様には友人も作らせないとか、いくらなんでもフローレンス様が可哀想ですわ!」
「そうだよ。別に話をするくらいいいだろう?自分は他の女とベタベタ触れ合っているくせに、何を言ってるんだ!?」
「フローレンス様だって、毎日、貴方達を見て辛そうにしていましたわ。でも、決して貴方達を責めたりしませんでしたのよ!彼女ったら、自分のことばかり悪く言って・・・。健気すぎて見ていられませんでしたわ。」
「それに、もうその婚約自体白紙に戻るんだろう?元々、嫌々結ばされた婚約だったんだから自由になれて良かったじゃないか!もう、そうやって気のある振りだって必要ないだろう?君の本当に好きな女のことだけ考えたらどうだ?」
「は!?・・・何言って・・・。婚約が白紙って・・・なんで・・・。」
ジルドナは、真っ青な顔で立ち尽くすしかなかった。目の前の者達は、もうジルドナの言葉に従わなかった。婚約者を盾にしていくら言っても、返ってくる言葉はフローレンスを擁護するものばかりだ。しかも、婚約者がいるにも関わらず他の女といちゃついている自分を皆が白い目で見てくるのだ。
何も考えられないジルドナが、呆然としながら廊下をフラフラ歩いていると、向こうからフローレンスが歩いて来るのが見えた。しかし、フローレンスは一人ではなかった。赤い髪の背の高い男と手を繋いで嬉しそうに見つめ合っている。
(あの、男は・・・誰だ?)
ジルドナは、立ち止まって二人を見つめていた。距離が縮まるにつれ、相手の男が誰なのかはっきりしてきた。
「嘘だろう・・・なんで、クレイズ公爵家の・・・。」
それは、一学年上の公爵家の次男、レイサス・クレイズだった。長身で派手な赤茶色の髪に、同色の鋭い目つきが特徴的だった。常に無表情で単独行動を好むせいか周りに人を寄せ付けない空気を纏っていた。学園の騎士科に属しており、女の影どころか男の友人とすら行動を共にしているのを見たことがなかった。そんな男が、今、フローレンスに寄り添い瞳を緩ませているのだ。二人とすれ違う時、そこにジルドナがいることに気付きもしないのか、フローレンスが視線を送ることはなかった。しかし、隣のレイサスはすれ違うギリギリまで、ジルドナを射貫くような視線を逸らすことはなかった。それは、明らかに 「これは自分の女だ」 と威圧していた。
(なん・・・だ・・これ・・・は・・・。俺は間違った・・・のか?)
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