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役立たず
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「わかった。では、しばらく勉強に精を出して、学園生活を楽しむといい。」
「そ、そうね! 少し休みなさいな。 大丈夫よ、今の貴女なら、これからいくらでも挽回できるわ。」
「あの・・・それで、私に婿を取らせるというのは、もう考えから外していただけませんか? 侯爵家を継ぐと言うのは、正直言いまして私には荷が重すぎるのです。ですから、私の婚約がなくなった後も、このまま次期当主はシオンでお願いしたいと思います。もちろん、シオンが一人前になるまで、私で役に立てることがありましたら、先ほど申しましたようにシオンと協力して頑張って行きますので、どうか―――」
「ああ。大丈夫だ。うちの跡取りはシオンだ。知らないうちに、お前には要らぬプレッシャーをかけていたようだな。すまなかったな。だが、安心しなさい。もう、そんなことは考えなくていい。お前は、しばらく何も考えず心を休めなさい。」
義父の言葉に安心したフローレンスは、ほっと胸を撫で下ろすと、軽く微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。これで安心して勉強に励むことができます。」
両親との話が終わった後、ゆっくりしていきなさいと言ってくれた母親に、今は一人になりたいと理由をつけて断ると、フローレンスは、シオンに挨拶することなく逃げるように馬車に乗り込んだ。
その様子を二階の窓からシオンがじっと見ていたことなど全く気付かなかったフローレンスは、そのまま学園に戻って行った。
「逃げないとか言ってたくせに・・・。」
唇を噛みしめ、シオンは睨むようにフローレンスを見つめていた。本当は、一瞬でも目を離したくないほど見つめていたいのに、無常にもフローレンスの乗った馬車はシオンからどんどん遠ざかって行く。
(こんなに好きなのに、なんで!!久々に会えて、僕は嬉しくて嬉しくて仕方なかったのに・・・。なのになんで!!なんで!!なんで!!)
シオンの握り締めた手が小刻みに震えていた。
自分に向けるフローレンスの愛情は、決して恋愛感情ではない。シオンがどんなにフローレンスに甘い言葉を掛けようが、どんなに素直な気持ちを伝えようが、フローレンスからは家族としての愛情しかもらえないのだ。それでも、学園に入る前までは、いつだってフローレンスの一番はシオンだった。フローレンスの瞳には常にシオンが映っていたし、フローレンスの頭の中はシオンでいっぱいだった。だから、男として見られていなくてもあの頃は満たされていた。でも、今は違う。明らかにあの頃とは違うのがはっきりわかった。
学園にいる間、ジルドナにはフローレンスの番犬をやってもらうつもりでいた。シオンが入学するまでの一年間、たとえ、フローレンスの悪評が剥がれたとしても、ジルドナが何としてでも護っていてくれるだろうと確信していた。既に婚約者の立場にあるジルドナであれば、焦ってフローレンスとの関係を無理やり深めようとすることもないだろうと思った。なのに、たった一年すらもジルドナはシオンの期待に応えてはくれなかったのだ。シオンが学園に入学さえすれば、それらしい理由を付けて二人の婚約を解消に向かわせる予定だった。ジルドナは、それまでのただの男避けだったのに。
「役立たず。」
フローレンスの乗った馬車が遠ざかって見えなくなっても、シオンは窓から離れなかった。今までのフローレンスなら、絶対にシオンを拒むことなどなかった。しかし、今日の態度は明らかに違う・・・。完全に拒まれたどころか、自分から逃げて行ったのだ。
それは、この数か月の間でフローレンスの気持ちが変わってしまった証拠だった。フローレンスは、ジルドナへの恋心を知り、それに気付くと同時に失恋したようなものだ。ならば、シオンを拒む程の余裕はどこから来るのか・・・。
「僕も動く必要があるな・・・。」
シオンは、静かに振り返る。そして、つい先ほどまで自分の部屋にフローレンスがいたことを思い出した。彼女の香りを感じ、その体に触れ、口づけをした。苦しいほどの愛しさが体を駆け巡るが、それを抑えるかのように大きく息を吐くと、目を閉じて軽く頭を振った。
今まで、何度こうしてフローレンスへの思いを封じて来たことだろう・・・。
「フローレンスは誰にも渡さない。・・・姉さんは僕のものだ。」
一人呟いたシオンは、そのまま部屋を出ると、父親の執務室に向かって歩き出した。
「そ、そうね! 少し休みなさいな。 大丈夫よ、今の貴女なら、これからいくらでも挽回できるわ。」
「あの・・・それで、私に婿を取らせるというのは、もう考えから外していただけませんか? 侯爵家を継ぐと言うのは、正直言いまして私には荷が重すぎるのです。ですから、私の婚約がなくなった後も、このまま次期当主はシオンでお願いしたいと思います。もちろん、シオンが一人前になるまで、私で役に立てることがありましたら、先ほど申しましたようにシオンと協力して頑張って行きますので、どうか―――」
「ああ。大丈夫だ。うちの跡取りはシオンだ。知らないうちに、お前には要らぬプレッシャーをかけていたようだな。すまなかったな。だが、安心しなさい。もう、そんなことは考えなくていい。お前は、しばらく何も考えず心を休めなさい。」
義父の言葉に安心したフローレンスは、ほっと胸を撫で下ろすと、軽く微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。これで安心して勉強に励むことができます。」
両親との話が終わった後、ゆっくりしていきなさいと言ってくれた母親に、今は一人になりたいと理由をつけて断ると、フローレンスは、シオンに挨拶することなく逃げるように馬車に乗り込んだ。
その様子を二階の窓からシオンがじっと見ていたことなど全く気付かなかったフローレンスは、そのまま学園に戻って行った。
「逃げないとか言ってたくせに・・・。」
唇を噛みしめ、シオンは睨むようにフローレンスを見つめていた。本当は、一瞬でも目を離したくないほど見つめていたいのに、無常にもフローレンスの乗った馬車はシオンからどんどん遠ざかって行く。
(こんなに好きなのに、なんで!!久々に会えて、僕は嬉しくて嬉しくて仕方なかったのに・・・。なのになんで!!なんで!!なんで!!)
シオンの握り締めた手が小刻みに震えていた。
自分に向けるフローレンスの愛情は、決して恋愛感情ではない。シオンがどんなにフローレンスに甘い言葉を掛けようが、どんなに素直な気持ちを伝えようが、フローレンスからは家族としての愛情しかもらえないのだ。それでも、学園に入る前までは、いつだってフローレンスの一番はシオンだった。フローレンスの瞳には常にシオンが映っていたし、フローレンスの頭の中はシオンでいっぱいだった。だから、男として見られていなくてもあの頃は満たされていた。でも、今は違う。明らかにあの頃とは違うのがはっきりわかった。
学園にいる間、ジルドナにはフローレンスの番犬をやってもらうつもりでいた。シオンが入学するまでの一年間、たとえ、フローレンスの悪評が剥がれたとしても、ジルドナが何としてでも護っていてくれるだろうと確信していた。既に婚約者の立場にあるジルドナであれば、焦ってフローレンスとの関係を無理やり深めようとすることもないだろうと思った。なのに、たった一年すらもジルドナはシオンの期待に応えてはくれなかったのだ。シオンが学園に入学さえすれば、それらしい理由を付けて二人の婚約を解消に向かわせる予定だった。ジルドナは、それまでのただの男避けだったのに。
「役立たず。」
フローレンスの乗った馬車が遠ざかって見えなくなっても、シオンは窓から離れなかった。今までのフローレンスなら、絶対にシオンを拒むことなどなかった。しかし、今日の態度は明らかに違う・・・。完全に拒まれたどころか、自分から逃げて行ったのだ。
それは、この数か月の間でフローレンスの気持ちが変わってしまった証拠だった。フローレンスは、ジルドナへの恋心を知り、それに気付くと同時に失恋したようなものだ。ならば、シオンを拒む程の余裕はどこから来るのか・・・。
「僕も動く必要があるな・・・。」
シオンは、静かに振り返る。そして、つい先ほどまで自分の部屋にフローレンスがいたことを思い出した。彼女の香りを感じ、その体に触れ、口づけをした。苦しいほどの愛しさが体を駆け巡るが、それを抑えるかのように大きく息を吐くと、目を閉じて軽く頭を振った。
今まで、何度こうしてフローレンスへの思いを封じて来たことだろう・・・。
「フローレンスは誰にも渡さない。・・・姉さんは僕のものだ。」
一人呟いたシオンは、そのまま部屋を出ると、父親の執務室に向かって歩き出した。
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