花言葉は「私のものになって」

岬 空弥

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自分を守る術

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「アレイドなんぞのせいで、可哀想に。」

 ミズリーの話を聞いて、学園でのユニーナが、いかに追い詰められていたのか知ったアレイドの父親は、腹立たしいとでも言うようにボソリと呟くと、ギロリとアレイドを睨みつけたが、アレイドはと言うと、今にも倒れてしまいそうなほど顔色を悪くして黙って前を向いていた。しかし、膝に置いた手に落ち着きはなく、そして、その瞳には何も映っていないようだった。

この時、ユニーナがなぜ他の女生徒とは行動せず、ライナーとばかり一緒にいるのかを知ったアレイドは、事あるごとにライナーと行動を共にするユニーナを責め立てていたことを思い出していた。もし、ユニーナが自分の言うことを素直に聞いてライナーと友人をやめたなら、彼女はずっと一人で孤独な学園生活を送ることになっていたのだ。なのに、そんなことも知らずに、自分は、どれだけライナーのことで、彼女につらく当たっただろう。自分の浅はかな考えでユニーナを深く傷つけていたのかと思うと、アレイドは居た堪れない気持ちが込み上げてくるのだった。

「そんな心配な日々を送っていたのだけれど、ある日を境にユニの表情が変わったの。それまでは、いつも暗い顔で部屋に籠ってばかりいたユニが、急に庭に出て花を植えたり、外に買い物に出かけたりし始めたの。買い物って言っても友人なんて一人もいないから、いつも弟のリョシューを連れて出かけていたわね。リョシューもユニの表情が明るくなったことをとても喜んで二人で楽しそうに外出していたの。それまで何を聞いても大丈夫としか言わなかったけれど、今のユニだったら、何があったのか話してもらえそうだと思って、思い切って聞いてみたら・・・。」


「お姉様、私ね、多分吹っ切れたんだと思うの。ずっと自分が惨めで情けなくて、悔しくて寂しくて・・・本当は、とても辛かったの。でも、もう大丈夫よ。私ね、技を身に付けたの。よく考えたら、私が失って困るものは、家族以外には何もないってことにやっと気が付いたの。だって、私を必要としてくれる人は、家族だけなんですもの。そうとわかれば、もう何も怖くないわ。私ね、これですっごく気持ちが楽になったのよ。」

「それがアレイド君の言っている、何も見えない、聞こえない、感じないってやつか?」

スワルスの言葉に、ミズリーは黙って頷いた。

「あの子は元々そんな所があったの。何かに集中すると周りの音も景色も全て遮断してしまうの。凄い集中力よ!ただ、それが許されるのは子供のうちだけ。大人でそれをやってしまえば、要らぬ誤解を受けたり、人に不愉快な思いをさせてしまうでしょう?だからお父様とお母様で子供のうちに注意して、何事にもあまり集中しすぎないように言い聞かせていたの。本人がそれを覚えていたのかはわからないけれど、自分には失うものなどないと言い聞かせた上で、心を閉ざす術を思い出したみたいなの。」

「失って困る家族以外の言葉など聞く必要がないと?」

「ええ。そうでもしないと、自分が壊れるって気付いたのかもしれないわね・・・。」

「・・・なんてことだ・・・。しかし、じゅつ、って・・・。では、アレイド君のことは本当に見えていないし、聞こえてもいない?」

「ええ。たぶん。だから術なのよ。」

「だが、そんなことあるのか?」

スワルスがチラリと男爵に目をやると、彼は真顔で頷いていた。

「ならば・・・。やはりユニーナには、私の従弟との縁談を進めた方が良さそうだな。」

「そっ、そんな!! 待ってください!!」

「先ほどから聞いていれば、どうも君は、自分のことばかりを優先する人間のようだ。悪いが私としては、君よりもユニの方が大切なんだ。今の話を聞く限り、君と一緒にいるユニが幸せになれるとは思えない。私の従弟が相手なら、少なくともユニが現実逃避する必要はないだろう?」

「大切にします!!今度は絶対に間違えません。どうかもう一度だけチャンスをください。」

「君が大切にするのは、ユニ以外の令嬢達なのだろう?これからもそうしたらいいじゃないか。そんな意味のわからないことに、なぜユニが付き合わなくてはいけないんだ?」

「もう、そんな馬鹿な考えは持ちません。ユニだけを、ユニだけを大切にします!ですから、」

「君のせいでユニはずっと寂しい思いをしていたんだろう?君が他所の令嬢を可愛がってユニを孤独にさせたんだ。しかも、やっとできた、たった一人の友人に暴力まで振るって。君はどこまでユニに辛い思いをさせれば気が済むんだ?」

「そ、それは・・・。」

「嫉妬だろう? ははは、君は他の令嬢達と散々イチャイチャしてユニに嫌な思いをさせてきたのに、ユニが友人に助けられただけで随分怒るんだな!なあ、本当は婚約者である君が助けるべきものだったんだろう?」

スワルスの意見は、あまりに正論だった。アレイドのどんな言い訳も彼にはまるで通用しない。アレイドが何も言えず青ざめていると、更に畳みかけるかのようにスワルスは追い打ちをかけてきた。

「話を聞いていると、どうやら君は、感情のコントロールがあまり上手ではないようだね。貴族としては致命的な欠陥に感じるが、まあ、君の人生だからね、私がとやかく言うことではない。そのまま好きに生きればいい。だがね、そこに私の義妹が関わると言うのなら話は別だ。 なあ、君は、このままだと怒りの感情を持つたびに、ユニに暴力をふるうよね!?」

「そ、そんな!! しません!! 絶対そんなことしません!!」

「いやいや、困ったな・・・、ユニの友人は、何も悪いことなどしていないのに君に殴られたんだろう?あと、無抵抗の女性の手も捻り上げたって聞いているよ?いくらユニに危害を加えた相手だとしても、そこまでする必要あるのかな? それってつまりは、君が女性や子供相手でも容赦なく暴力的になるって証明なのではないかな?」

(ユニに手を上げるかどうかは別として、いや、きっと嫌われるのを恐れて、アレイドがユニに暴力を振るうことは間違ってもないだろうが、ユニに手を上げた憎たらしい令嬢には、手をひねり上げるくらいやってもいいのではないだろうか・・・。)

などと、保護者三人はこっそり思ったけれど、変に口を挟んでスワルスの怒りを買うのは恐ろしいので、誰も口には出さなかった。
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