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悔しいけれど嫉妬

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「はっ!? えっ!?・・・臭い? 僕、臭いの!?えっ?」

アレイド様は顔を引き攣らせ、落ち着かない様子で自分の服の臭いを嗅ぐと、その場から数歩後退りしました。

「今だって臭いますよね!? 臭いですよね!?・・・最近は少しかマシにはなりましたが、いつだってあなたからは女性の香りがプンプンしていました。今もとても臭くて不快です! あなたにどんな理由があれど、私以外の女性の体に触れているのは事実です。それは、とてもとても不快です! 他所の女の香りを漂わせて私に近づくのは止めてください! そして! 浮気しまくっているあなたに、他の男と楽しそうにするな、など! 言われたくありません!!」

「浮気って・・・そんな・・・ごめん。そんなつもりはなかったんだよ・・・。え?ユニ?どうし―――」

「言い訳などいりません!! そんな上っ面の謝罪などで許せるものではありません!! 私は怒っています!! 頭から湯気が出るほど!! ・・・こうして涙が出るほど、怒っています!! なぜだかわかりますか!?」

大声を張り上げてアレイド様に怒鳴りつけている間、私の目からは次々と涙が溢れては、床に落ちてゆくのでした。アレイド様は、すぐにそれに気付き、慌ててハンカチを取り出すと、申し訳なさそうにそれを差し出してきました。しかし、私は悔しくてそのハンカチを受け取ることができません。自分の手で乱暴に涙を拭うと、慌ててアレイド様がハンカチを押し付けてきます。

「ユニ、落ち着いて。そんなにゴシゴシこすっては目が腫れてしまうよ。これ、使って。」

「いいえ!いりません!! そんなことより、私の質問に答えてください!!」

「ユニ、ごめん。泣かせるつもりはなかったんだよ。」

「嫉妬ですっ!!」

「えっ?」

私は目を閉じて、胸に手を当てました。なんとか無理やり心を落ち着けると、今度は震える声を抑えてもう一度言いました。

「・・・嫉妬です。・・・私、貴方がお姉様と一緒に居ても不思議と嫉妬は感じませんでした。お姉様には逆立ちしても敵わないと、幼い頃からの経験でわかっていたのでしょう・・・。ですから、貴方からお姉様の香りがしたとしても、私は何も感じなかったでしょう・・・。お姉様が望むなら、私は二人の恋を応援したいとすら思っていましたから。
ですが、他の女性の香りを身にまとったあなたは許せませんでした。私は、大切なお姉様だったからこそ、大好きなあなたを譲ったつもりでいました。あなたのことが大好きだったから。お姉様のことが大好きだったから。私は自分の気持ちを抑えて身を引こうとしていたのです。なのに、あなたときたら、・・・私の気も知らないで・・・。なにが、気が付いたら囲まれていたですか、なにが―――」

しかし私が話終わるのを待たずに、アレイド様が力強く抱きしめてきました。

「ユニ、大好きだよ。大好きだよ。・・・ねえ、ユニ、今日も、今も、嫉妬してくれてるの?今も、僕のこと好きでいてくれてるの?」

「・・・なんですか・・・。悪いですか!?」

「っ!! ユニ!!」

「ん・・・・・。」

抱きしめていたアレイド様の腕の力が少し緩むと、その手が私の頭の後ろに回され、二人の唇が重なりました。

「ユニ、愛してる。大好きだよ。もう絶対離さないからね。」

何度も囁かれる、大好きという言葉の分だけ口づけの回数も増えて行き、段々と息が苦しく頭がぼんやりとしてきた頃、ようやくアレイド様は唇を離してくれました。

「これ以上は、僕も辛くなってしまうからね・・・。」

照れたような可愛らしい笑みを見せたアレイド様に、恥ずかしくて顔を赤くした私は、この甘い空気にいたたまれなくなり、

「だから、香水臭いって言ってます。」

と、ぐいっとアレイド様の胸を押すと、苦笑いを浮かべ困った様子のアレイド様が、私の目元に残った涙を指で優しく拭いながら言いました。

「もう他の女性に触れさせないし、君が隣にいない時は、女性には近づかないようにするよ。」

「本当ですか? この前も同じ言葉を聞いたような気がしますが!!」

私がジロリと疑いの眼差しを向けると、

「ああ、絶対だよ。約束する! 僕はもう、君の香りしか纏わない。」

そう言って、また優しく抱きしめてくれました。

「約束を破った時は、仕返ししますからね。」

「ん? 仕返しって?」

「もちろん、仕返しですから。他の男性の香りを漂わせて、あなたに嫌な思いをさせます。」

アレイド様が抱きしめていた手を離したかと思うと、私の肩を両手で掴みました。

「はっ!? なんで? 誰と触れ合う気なの? ねえ、誰?どんな奴なの!?」

焦りと怒りのまじったような顔で、アレイド様が早口でまくし立ててきました。

(え?突然なに? いや、誰って・・・ライナー? リョシューとか・・・。あと、スワルス様もいるわね。こうして数えると、協力してくれる人が何人かいるのね。最悪、お父様もいるけど・・・お父様の香りは嫌だわ。)

「駄目だよ!!ユニも僕以外の男に触れたりしたら駄目だからね!!絶対駄目!!ユニ!約束して!!」

「・・・・。」

「ユニ!?」

「そんなことは、自分がちゃんと守ってから言ってください。」

「うっ・・・うん。わかったよ・・・。」
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