1 / 25
突然の告白
しおりを挟む
少し腰を屈めたエリシアが、艶やかな黒髪をさらりと揺らしながらユーレットの顔を嬉しそうに覗き込んだ。
「おはよう!」
いつもと同じようにベンチで本を読んでいたユーレットがその声に顔を上げると、長すぎる前髪で顔の半分を隠した自分の姿が、彼女の黒い瞳に映り込んでいた。
白く透き通った肌に、この国では珍しい黒曜石の瞳。洗練された仕草は美しく、女性にしては少し高めの身長が彼女のスタイルの良さを引き立てていた。一見すると、どこか近寄りがたい雰囲気を持つ美人令嬢の彼女であったが、自分に向ける微笑みは殊更に甘い。
あえて無表情を取り繕い 「うん」 とだけ返事をするも、そんなことはどうでもよいとばかりに、彼女はユーレットに体を寄せてベンチに座ると細く長い指先でユーレットの前髪をスッと横に流してその薄茶色の瞳を覗き込んだ。
「今日も良い天気ね!うふふっ、今日も朝から大好きなユーレットに会えて嬉しいわ。きっと良い一日になるわね!」
そう言って頬を染め上げてにっこり微笑むエリシアは、当たり前のようにユーレットの手を取った。
16歳になったばかりのユーレットは、未だ成長期の真っ最中だった。ほっそりとしたエリシアの両手に包まれた自分の手が彼女よりも小さいことにチクリと胸が痛むのを感じる。
「もう教室に行く」
乱暴に手を離したユーレットは、彼女に目を向けることなく立ち上がると背を向けて歩き出した。
「あっ、待ってユーレット。途中まで一緒に行きましょう」
慌てて後を追いかけるエリシアが、ユーレットの隣に並んで歩き出す。
残念なことに、未だ成長途中であるユーレットの身長は、二歳年上のエリシアの肩までしか届いていなかった。
『突然ごめんなさい。でも・・・もう、我慢できないくらいあなたが好きなの。迷惑かけないようにするし、絶対邪魔するような真似もしないから、どうか・・・あの、・・・お友達になってはいただけませんか?』
そう言って、一人ベンチに座って本を読んでいたユーレットを驚かせたのは、彼が学園に入学してまだ一週間の頃だった。
その言葉通り、彼女はどんなユーレットも大好きな様子であった。彼女に言わせれば、この国にありふれている自分の茶色い髪と瞳は、どんな高価な宝石よりも価値があるらしいし、成長期ならではのすぐに裏返ってしまうガラガラ声に両手で口を押さえ 「ゾクゾクするわっ!」 と、一人で身悶えていたりもする。
寝癖が――、などというミスをおかしでもすれば、あらゆる角度から 「かわいい!」 と、30回ほど唱えた上で直さないでしばらくそのままでいてほしいと涙目で懇願される始末であった。
そんな一方的な愛情をぶつけてくるエリシアに対しユーレットの態度はというと、まるで興味がないような感情のこもらないものが大半であった。
取り立てて人の目を引く容姿でもないユーレットは、アルゴーツ伯爵家の次男でしかない。幼い頃より文武両道で優れた容姿の兄と比べられ過ぎたせいもあってか何事に対しても関心や興味が持てなくなっていた。やる気のないユーレットに人より秀でた所は見当たらない。
そんな自分が、昔からの名家であるコットワール侯爵家の一人娘にこれほどまでの好意を寄せられる理由がどうしてもわからない。
そしてそれは、ユーレットの周りの人間から見ても理解しがたいことの一つであった。
何一つ努力せずにコットワール侯爵家への切符を手に入れてしまったユーレットを爵位が用意されていない次男、三男である友人達は当然良く思わなかった。
「騙されているんだろ? お前をからかって陰で友人と笑ってるとかさ」
「身長差がすごいな。姉弟どころか親子みたいだぞ。 彼女は美人だけど、俺は小さくて可愛らしい女の子が好みだなぁ」
「この国では珍しい髪色だけど、やはり黒って暗い印象を与えるよな・・・。俺はやっぱり金糸のような眩しい髪色に目が行ってしまうよ」
ユーレットも馬鹿ではない。これがモテない男のやっかみであることくらい知っている。
しかし、分かっていながらも年若いユーレットの気分を悪くすることに、彼らは少なからずも成功していたのだった。
「おはよう!」
いつもと同じようにベンチで本を読んでいたユーレットがその声に顔を上げると、長すぎる前髪で顔の半分を隠した自分の姿が、彼女の黒い瞳に映り込んでいた。
白く透き通った肌に、この国では珍しい黒曜石の瞳。洗練された仕草は美しく、女性にしては少し高めの身長が彼女のスタイルの良さを引き立てていた。一見すると、どこか近寄りがたい雰囲気を持つ美人令嬢の彼女であったが、自分に向ける微笑みは殊更に甘い。
あえて無表情を取り繕い 「うん」 とだけ返事をするも、そんなことはどうでもよいとばかりに、彼女はユーレットに体を寄せてベンチに座ると細く長い指先でユーレットの前髪をスッと横に流してその薄茶色の瞳を覗き込んだ。
「今日も良い天気ね!うふふっ、今日も朝から大好きなユーレットに会えて嬉しいわ。きっと良い一日になるわね!」
そう言って頬を染め上げてにっこり微笑むエリシアは、当たり前のようにユーレットの手を取った。
16歳になったばかりのユーレットは、未だ成長期の真っ最中だった。ほっそりとしたエリシアの両手に包まれた自分の手が彼女よりも小さいことにチクリと胸が痛むのを感じる。
「もう教室に行く」
乱暴に手を離したユーレットは、彼女に目を向けることなく立ち上がると背を向けて歩き出した。
「あっ、待ってユーレット。途中まで一緒に行きましょう」
慌てて後を追いかけるエリシアが、ユーレットの隣に並んで歩き出す。
残念なことに、未だ成長途中であるユーレットの身長は、二歳年上のエリシアの肩までしか届いていなかった。
『突然ごめんなさい。でも・・・もう、我慢できないくらいあなたが好きなの。迷惑かけないようにするし、絶対邪魔するような真似もしないから、どうか・・・あの、・・・お友達になってはいただけませんか?』
そう言って、一人ベンチに座って本を読んでいたユーレットを驚かせたのは、彼が学園に入学してまだ一週間の頃だった。
その言葉通り、彼女はどんなユーレットも大好きな様子であった。彼女に言わせれば、この国にありふれている自分の茶色い髪と瞳は、どんな高価な宝石よりも価値があるらしいし、成長期ならではのすぐに裏返ってしまうガラガラ声に両手で口を押さえ 「ゾクゾクするわっ!」 と、一人で身悶えていたりもする。
寝癖が――、などというミスをおかしでもすれば、あらゆる角度から 「かわいい!」 と、30回ほど唱えた上で直さないでしばらくそのままでいてほしいと涙目で懇願される始末であった。
そんな一方的な愛情をぶつけてくるエリシアに対しユーレットの態度はというと、まるで興味がないような感情のこもらないものが大半であった。
取り立てて人の目を引く容姿でもないユーレットは、アルゴーツ伯爵家の次男でしかない。幼い頃より文武両道で優れた容姿の兄と比べられ過ぎたせいもあってか何事に対しても関心や興味が持てなくなっていた。やる気のないユーレットに人より秀でた所は見当たらない。
そんな自分が、昔からの名家であるコットワール侯爵家の一人娘にこれほどまでの好意を寄せられる理由がどうしてもわからない。
そしてそれは、ユーレットの周りの人間から見ても理解しがたいことの一つであった。
何一つ努力せずにコットワール侯爵家への切符を手に入れてしまったユーレットを爵位が用意されていない次男、三男である友人達は当然良く思わなかった。
「騙されているんだろ? お前をからかって陰で友人と笑ってるとかさ」
「身長差がすごいな。姉弟どころか親子みたいだぞ。 彼女は美人だけど、俺は小さくて可愛らしい女の子が好みだなぁ」
「この国では珍しい髪色だけど、やはり黒って暗い印象を与えるよな・・・。俺はやっぱり金糸のような眩しい髪色に目が行ってしまうよ」
ユーレットも馬鹿ではない。これがモテない男のやっかみであることくらい知っている。
しかし、分かっていながらも年若いユーレットの気分を悪くすることに、彼らは少なからずも成功していたのだった。
144
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~
バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。
幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。
「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」
その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。
そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。
これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。
全14話
※小説家になろう様にも掲載しています。
王子と婚約するのは嫌なので、婚約者を探すために男装令嬢になりました
Blue
恋愛
ガルヴァーニ侯爵家の末娘であるアンジェリーナは困った事になっていた。第二王子が一方的に婚約者になれと言ってきたのだ。バカな上に女癖もよろしくない。しかも自分より弱い男に嫁ぐなんて絶対に嫌なアンジェリーナ。第二王子との婚約が正式に決まってしまう前に、自分より強い素敵な人を探すために、色々な人の力を借りて彼女は強い者たちが集まる場所に探しに行くことにしたのだった。
会えば喧嘩ばかりの婚約者と腹黒王子の中身が入れ替わったら、なぜか二人からアプローチされるようになりました
黒木メイ
恋愛
伯爵令嬢ソフィアと第一王子の護衛隊長であるレオンの婚約は一年を迎えるが、会えば口喧嘩、会わなければ音信不通というすれ違いの日々。約束を破り続けるレオンと両親からの『式だけでも早く挙げろ』という圧に我慢の限界を迎えたソフィアは、ついに彼の職場である王城へと乗り込む。
激しい言い争いを始めた二人の前に現れたのは、レオンの直属の上司であり、優雅な仮面の下に腹黒な本性を隠す第一王子クリスティアーノ。
王子は二人が起こした騒動への『罰』として、王家秘伝の秘薬をレオンに服用させる。その結果――なんとレオンとクリスティアーノの中身が入れ替わってしまった!全ては王子の計画通り。
元に戻るのは八日後。その間、ソフィアはこの秘密がバレないよう、文字通り命がけで奔走することとなる。
期限付きの入れ替わり生活は、不器用な婚約者との関係をどう変えるのか?
そして、この騒動を引き起こした腹黒王子の真の目的とは?
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※他サイトからの転載。
この記憶、復讐に使います。
SHIN
恋愛
その日は、雲ひとつない晴天でした。
国と国との境目に、2種類の馬車と数人の人物。
これから起こる事に私の手に隠された煌めく銀色が汗に湿り、使用されるのを今か今かとまっています。
チャンスは一度だけ。
大切なあの人の為に私は命をかけます。
隠れ前世の記憶もちが大切な人のためにその知識を使って復讐をする話し。
リハビリ作品です気楽な気持ちでお読みください。
SHIN
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
「君と勝手に結婚させられたから愛する人に気持ちを告げることもできなかった」と旦那様がおっしゃったので「愛する方とご自由に」と言い返した
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
デュレー商会のマレクと結婚したキヴィ子爵令嬢のユリアであるが、彼との関係は冷めきっていた。初夜の日、彼はユリアを一瞥しただけで部屋を出ていき、それ以降も彼女を抱こうとはしなかった。
ある日、酒を飲んで酔っ払って帰宅したマレクは「君と勝手に結婚させられたから、愛する人に気持ちを告げることもできなかったんだ。この気持ちが君にはわかるか」とユリアに言い放つ。だからユリアも「私は身を引きますので、愛する方とご自由に」と言い返すのだが――
※10000字前後の短いお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる