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幼馴染のリーシャ

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 最近、エリシアの口数が減ったことにユーレットは気が付いていた。

ユーレットを見つめる瞳は以前と変わらず慈愛に満ちていたが、ふと二人の間の静けさに気が付くと、決まって彼女はどこか物悲しそうに空を見上げていることが多くなっていた。

今までの彼女なら目に焼き付ける勢いでユーレットだけを見つめていた。毎日たいした会話があったわけではない。それでも彼女はいつも嬉しそうにユーレットに話しかけていた。
いつだってエリシアは全力でユーレットに愛を伝えていたのだから。

「なにかあったのか?」

本から顔を上げることなく、いかにもつまらなそうに尋ねてくるユーレットに、一瞬目を丸くしたエリシアだったが、直ぐににっこりと口角を上げると離れていたユーレットとの距離を詰めて座り直した。

「私を心配してくれるの?まあユーレット、あなたってばなんて優しい人なのかしら!・・・もう、ユーレットったら、これ以上好きにさせてどうするつもりなの!?私、本当に困ってしまうわ!そんな優しい言葉をかけられたら、嬉しくて今日一日勉強が手に付かなくなってしまうじゃないの!!」

「・・・・・」

「ん?なあに?」

「ん」

何か言いたそうにチラリと顔をこちらに向けたユーレットが自分の手を差し出すと 「え?」 と、エリシアはきょとんとした顔で首を傾げている。

「手、繋がないのか?」

「えっ!?ユーレット!! いいの!?本当!?やだ、ユーレット嬉しい、大好き!!一番大好き!!」

エリシアがあまりに大喜びするものだから結局元気のない理由は分からないままになってしまったが、そんな態度を見る限り、彼女の変わらない愛情に確信は持てた。
しかし、安心すると同時に心に沸き上がってきたのは、先の見えない二人の関係性であった。

(もし、彼女に飽きられたら・・・)

もし、嫌われたら。もし、怒らせたなら。もし、彼女が自分への興味を失ったなら・・・。
自分達は恋人ではない。婚約者でもない。それどころか、彼女の好意に甘えて自分の気持ちすら伝えていなかった。


進展しない関係を不安に感じながらも、それでも手をこまねいているユーレットに、その日は突然訪れたのだった。





 リーシャは幼馴染だ。子供の頃に兄も交えて三人でよく遊んだ。子供っぽい外見とは違ってしっかり者の彼女だから、未だに姉の気分が抜けてないのだろうと思った。
だから自分は、彼女の言葉を止めるのが遅れてしまったんだと思う。




「いい加減ユーレットを解放してあげてください」

それは突然のことであった。
いつもの時間、いつもの場所。自分の隣には、まるで花がほころぶような美しい笑顔のエリシアがいた。
いつもとなんら変わらない光景の中に突如現れたリーシャは、面識などないはずのエリシアに向かって声を荒げたのだ。

「爵位の高いあなたが、相手の迷惑も考えずに自分の気持ちを強引に押し付けているのです。何も言い返せずに困っている彼の気持ちも少しは考えてあげてください」

「なっ、リーシャ、なに言って・・・ やめろ、失礼だろう!!」

「なによっ!!困ってるんでしょう!?あなたの代わりにはっきり断ってあげてるんじゃない!!」

「リーシャ、いい加減にしろ!そんなこと頼んでないだろ!!」

慌てて止めに入ったけれど、自分達の言い争いに気づいた周囲の人間が、なんだ、どうした?と、集まって来てしまった。いつもエリシアと一緒にいる令嬢達も異変に気づいて駆け寄って来た。そして、焦って周囲を見渡している際、ふいに視界に入ったエリシアの顔にユーレットは呼吸が止まった。

こんな状況の中、彼女は今にも泣きそうな顔で、それでも必死に笑顔を作っていた。
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