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動かなければ何も得られない

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 実は、ユーレットが普段どんなふうに友人達にからかわれているかエリシアは知っていたのだ。

「私の身長がこんなに大きいばかりにユーレットに恥を掻かせてしまっているの・・・。この黒い髪と目の色も・・・男性からの評判はよくないみたいで・・・。それでも彼は何も言わずに私と話をしてくれるの・・・」

そう言ったエリシアの瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
辛そうな姿を見ていられなくなった友人達は、唇を噛みしめてエリシアから視線を逸らす。そして、幼稚な男ユーレットに心の中で打ち鳴らすのだ。  
・・・舌打ちを。

(チッ、なんでエリシアほどの女性が、あんなつまらない男なんかと!)

(エリシアは、コットワール侯爵家の次期当主よ。彼女を狙ってる人なんて山ほどいるっていうのに、なんであんな男の為に彼女がここまで胸を傷める必要があるの!?)

(可哀想なエリシア。ようやく見つけた愛する人が、あんな未熟な男だったなんて。しかも・・・チッ、なによ、あの前髪! 薄気味悪い!)

これがエリシアの友人達の・・・、いや、周囲の人間達の本音である。
恋を知り、以前よりずっと笑顔の増えたエリシアに目を細めている反面、ユーレット本人や彼を取り囲む環境を知るにつれて、よりにもよってなんでこいつ!?と、彼女達は不快でならないのだ。
自分達の周りには、まばゆいほどに日々美しくなってゆくエリシアをぜひ紹介してほしいという兄弟、従兄弟がたくさんいる。あんな感じの悪い男なんかより、よっぽど彼女を幸せにしてくれることだろう。

しかし、

「ユーレットがね、私の作ったお菓子を食べてくれたの。美味しい?って聞いたら、うん。って・・・。自分の作ったものを食べてもらえるってこんなに嬉しいものなのね!」

嬉しくて嬉しくて仕方がないという笑顔でユーレットの話をしたがるエリシアを前に、あんな子供のような男はやめて自分の親戚と付き合えなどとは、友人であってもさすがに言えなかった。それほど彼女は初めての恋を楽しんでいたし、ユーレットのおかげで世界が色付いて見えるとまで言い、その場でくるくる踊って喜びを表現していたりもするのだった。


 その後も、エリシアとユーレットの関係は変わることなく続いていた。
自分の気持ちを素直に伝えてにっこり微笑むエリシアは今日も幸せそうであったし、ユーレットのそっけない態度も相変わらずであった。

ただ一つ変化があったとするならば、月日が経つごとに少しずつ成長して行くユーレットの体と共に、心も少しずつだが成長し始めたことだろうか・・・。

最近、ユーレットの視線はひっきりなしにエリシアを追うようになっていた。顔が赤くなるような気がして、二人の時はあまり顔を上げないように気を付けていた。嬉しくて尻尾を振る犬のように思われたくないので常に冷静を装うのも忘れない。

だが、いつまでもこのままの関係でいいとは、さすがのユーレットも思っていなかった。

彼女に慕われるだけで満たされていた心が、いつからか物足りなさを感じている。
それはもう随分前からだ。
自分からは何一つ動こうとはしないくせに、大好きだと言いながらも一向にそれ以上踏み込んで来ないエリシアに苛立ちすら感じていた。

本当は、誘ってくれれば一緒に外出だってするし、こちらの顔色を窺ってせっかく繋いだ手を離さなくたっていいのに。
もっと二人の時間を増やしても良かったし、お願いしてくれれば、なんだって自分のできる範囲で叶える努力はする。

それに・・・言ってくれれば・・・男と女として、付き合うことだってできるのに。


しかし、思っているだけで何も動こうとしないユーレットになど、得られるものは何もなかった。
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