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空気の読めない男の登場
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次の日から、レナートは頻繁にアリッサの前に現れるようになった。常に爵位の高い令息に囲まれていたアリッサだったが、貴族令息達のほぼ頂点に君臨するロゼット公爵家のレナートが相手となると、彼を差し置いてアリッサに話しかけようとする者は、この学園では王族であるアランド第一王子殿下くらいのものだろう。
他の令息達を厳しい視線で牽制したレナートは、あくまでも紳士的にアリッサの手を取るが、時間が許す限りその手を離そうとはしなかった。
始めのうちは、レナートに話しかけられても顔を赤らめるばかりで、一言返事をするのがやっとだったアリッサも一日一日と時が過ぎて行くにつれ多少の受け答えくらいはできるようになってきた。可愛らしい外見とは裏腹に、どこか達観しているようなところがあったアリッサだったが、ずっとあこがれ続けた大きな金髪の王子様の前では、どこまでも少女のように可憐で従順であった。
しかし、それは決してレナートに好かれたいが為のあざとさや計算などではなかった。レナートの一挙一動に瞳を輝かせ、彼の低い声に心を揺さぶられ、鋭く切れ長の青い瞳に見つめられるごと、心臓の止まる思いをしているアリッサの自制のきかない深すぎる純愛から来るものなのだ。
顔を赤くしてばかりで、素直に甘えてくれないアリッサに対し、多少の戸惑いを感じていたレナートであったが、アリッサが照れながらも徐々に自分の愛情に応えてくれるようになると、これまで以上に、身も心もどんどんのめり込んでいった。
「アリッサ、今日は貴女の為に、我が家で特別に作らせたクッキーを持って来ました。アリッサのお口に会うといいのですが。」
レナートはそう言うと、アリッサの瞳を真っすぐに見つめ、手を取り優しくクッキーの入った包み紙を持たせた。レナートに見つめられたアリッサは、ほんのりと頬を染めると、
「ありがとうございます。とても嬉しいです。」
と、はにかみながらも嬉しそうな笑みを浮かべた。
「アリッサ、私が食べさせてあげますよ。 さあ、ここに座ってください。」
アリッサをベンチに座らせたレナートは、その横にぴったりと体を寄せるように座ると、紙袋の中から取り出した一枚のクッキーをそっとアリッサの小さな口元に持って行った。
アリッサが恥ずかしそうにカリッと食べる様子をにっこり微笑みながらも、食い入るように見つめていたレナートは、そのクッキーを今度はアリッサに持たせた。
自分の齧ったクッキーを持たされたアリッサが、きょとんとレナートを見つめると、「お味はどうでしたか?」と、熱のこもった瞳でレナートは聞いて来た。
「あ、はい。とても美味しいです。」
「それは良かった。では、今度はアリッサが私に食べさせてください。」
驚くアリッサに自分の顔を近づけたレナートが大きく口を開けると、一瞬戸惑ったアリッサは、恐る恐るクッキーをレナートの口に近付けた。レナートは、その大きな口のままパクリと一口で食べてしまうと。アリッサの手を取り、クッキーの付いた人差し指をペロリと舐めたのだった。
「レ、ナート、様!?」
「どうかしましたか? アリッサ。」
顔を赤くして戸惑うアリッサとは逆に、モグモグとクッキーを食べているレナートの顔は、満足そうに口角を上げ、爽やかに微笑んでいるのだった。
(レナート様、甘いです!しかも、私の指をペロっと!それも私が齧ったクッキーを! そんなに素敵に微笑まれてしまったら、私はもう、心臓が持ちそうにありません。どうしよう、遠くから見ているだけで幸せだった、あのレナート様と、毎日こんなに近くでお話できるなんて。)
アリッサの心の中は、幸せいっぱいの喜びの声で溢れていた。しかし、残念なことに口数の少ない彼女がそれをレナートに伝えることは、きっとこの先もないだろう。だが、レナートには気付いてもらえなくても、アリッサの人生でこれほどの幸せを感じる毎日は初めてのことだった。
「やあ、アリッサ。ここに居たんだね。随分と探してしまったよ。」
爽やかな笑みを浮かべた空気の読めない男、アランド殿下が現れたのは、ピタリと寄り添ったレナートに二枚目のクッキーを食べさせてもらっている時だった。
「殿下、ご機嫌麗しゅうございます。殿下のお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした。」
口の中のクッキーを慌てて飲み込んだアリッサは、急いで立ち上がると、深々と頭を下げた。
「いいんだよ、アリッサ。私と君の仲だ。そんなに畏まらないでおくれ。それより、こんなひと気のない場所で、レナートと一体何をしているのかな?」
殿下の冷たい瞳は、一応立ち上がりはしたが、明らかに不満を顔に出して目つきを悪くしているレナートに注がれていた。
「これは、アランド殿下。殿下こそ、このような場所まで私のアリッサに何か御用でもおありでしたか?」
「ふーん・・・。私のアリッサねぇ・・・。」
アランド殿下のレナートを見る瞳は、益々冷たくなっていった。
他の令息達を厳しい視線で牽制したレナートは、あくまでも紳士的にアリッサの手を取るが、時間が許す限りその手を離そうとはしなかった。
始めのうちは、レナートに話しかけられても顔を赤らめるばかりで、一言返事をするのがやっとだったアリッサも一日一日と時が過ぎて行くにつれ多少の受け答えくらいはできるようになってきた。可愛らしい外見とは裏腹に、どこか達観しているようなところがあったアリッサだったが、ずっとあこがれ続けた大きな金髪の王子様の前では、どこまでも少女のように可憐で従順であった。
しかし、それは決してレナートに好かれたいが為のあざとさや計算などではなかった。レナートの一挙一動に瞳を輝かせ、彼の低い声に心を揺さぶられ、鋭く切れ長の青い瞳に見つめられるごと、心臓の止まる思いをしているアリッサの自制のきかない深すぎる純愛から来るものなのだ。
顔を赤くしてばかりで、素直に甘えてくれないアリッサに対し、多少の戸惑いを感じていたレナートであったが、アリッサが照れながらも徐々に自分の愛情に応えてくれるようになると、これまで以上に、身も心もどんどんのめり込んでいった。
「アリッサ、今日は貴女の為に、我が家で特別に作らせたクッキーを持って来ました。アリッサのお口に会うといいのですが。」
レナートはそう言うと、アリッサの瞳を真っすぐに見つめ、手を取り優しくクッキーの入った包み紙を持たせた。レナートに見つめられたアリッサは、ほんのりと頬を染めると、
「ありがとうございます。とても嬉しいです。」
と、はにかみながらも嬉しそうな笑みを浮かべた。
「アリッサ、私が食べさせてあげますよ。 さあ、ここに座ってください。」
アリッサをベンチに座らせたレナートは、その横にぴったりと体を寄せるように座ると、紙袋の中から取り出した一枚のクッキーをそっとアリッサの小さな口元に持って行った。
アリッサが恥ずかしそうにカリッと食べる様子をにっこり微笑みながらも、食い入るように見つめていたレナートは、そのクッキーを今度はアリッサに持たせた。
自分の齧ったクッキーを持たされたアリッサが、きょとんとレナートを見つめると、「お味はどうでしたか?」と、熱のこもった瞳でレナートは聞いて来た。
「あ、はい。とても美味しいです。」
「それは良かった。では、今度はアリッサが私に食べさせてください。」
驚くアリッサに自分の顔を近づけたレナートが大きく口を開けると、一瞬戸惑ったアリッサは、恐る恐るクッキーをレナートの口に近付けた。レナートは、その大きな口のままパクリと一口で食べてしまうと。アリッサの手を取り、クッキーの付いた人差し指をペロリと舐めたのだった。
「レ、ナート、様!?」
「どうかしましたか? アリッサ。」
顔を赤くして戸惑うアリッサとは逆に、モグモグとクッキーを食べているレナートの顔は、満足そうに口角を上げ、爽やかに微笑んでいるのだった。
(レナート様、甘いです!しかも、私の指をペロっと!それも私が齧ったクッキーを! そんなに素敵に微笑まれてしまったら、私はもう、心臓が持ちそうにありません。どうしよう、遠くから見ているだけで幸せだった、あのレナート様と、毎日こんなに近くでお話できるなんて。)
アリッサの心の中は、幸せいっぱいの喜びの声で溢れていた。しかし、残念なことに口数の少ない彼女がそれをレナートに伝えることは、きっとこの先もないだろう。だが、レナートには気付いてもらえなくても、アリッサの人生でこれほどの幸せを感じる毎日は初めてのことだった。
「やあ、アリッサ。ここに居たんだね。随分と探してしまったよ。」
爽やかな笑みを浮かべた空気の読めない男、アランド殿下が現れたのは、ピタリと寄り添ったレナートに二枚目のクッキーを食べさせてもらっている時だった。
「殿下、ご機嫌麗しゅうございます。殿下のお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした。」
口の中のクッキーを慌てて飲み込んだアリッサは、急いで立ち上がると、深々と頭を下げた。
「いいんだよ、アリッサ。私と君の仲だ。そんなに畏まらないでおくれ。それより、こんなひと気のない場所で、レナートと一体何をしているのかな?」
殿下の冷たい瞳は、一応立ち上がりはしたが、明らかに不満を顔に出して目つきを悪くしているレナートに注がれていた。
「これは、アランド殿下。殿下こそ、このような場所まで私のアリッサに何か御用でもおありでしたか?」
「ふーん・・・。私のアリッサねぇ・・・。」
アランド殿下のレナートを見る瞳は、益々冷たくなっていった。
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