38 / 95
一触即発
しおりを挟む
「ふーん・・・。私のアリッサねぇ・・・。」
アランド殿下のレナートを見る瞳は、益々冷たくなっていく。
「レナート、それは婚約者でもない女性に対して使う言葉ではないよね。」
「お言葉ですが、私とアリッサの気持ちは通じ合っております。殿下の先ほどのお言葉の方が、周りからの誤解を招くことになるかと思われますが・・・。」
それは間違いなく、先ほど殿下がアリッサに向かって言った「私と君の仲」を指していた。
さすがロゼット公爵家の嫡男だけあって、殿下が相手でもレナートは全く引く気配を見せなかった。そんな二人の睨み合いをハラハラしながら見守っていたアリッサだったが、これ以上アランド殿下の機嫌を損ねるのは、レナートにとって得策ではないと判断した。
「あの、殿下。」
「なんだい?アリッサ。」
アリッサに話しかけられたアランド殿下は、それまでの冷たい表情を一変させ、美しくアリッサに微笑みかけた。
「私に、御用がおありなのではございませんか?」
アリッサが、恐る恐る用件を尋ねると、アランド殿下は、満面の笑みでアリッサの手を取った。
「そうだったね、アリッサ。長い間待たせてしまってすまなかった。最近の私は公務に追われていてね、君との時間を作れなかったんだ。私が居ない間、大変だっただろう? でも、もう大丈夫だよ。また今日から、私がアリッサの勉強に協力するからね。」
「勉強?」
隣から地を這うような低い声が聞こえたと思ったら、目の据わったレナートがアリッサとアランド殿下の間に無理やり入って来た。その拍子にアランド殿下から離れたアリッサの手を掴むと、なんとか怒りを抑えているレナートがアランド殿下に向かってその誘いを断った。
「これからは、殿下のお手を煩わせることもありません。アリッサの勉強は私が見ますので、どうぞ、ご心配されませぬよう。」
レナートの威圧的な物言いに対し、ピクリと方眉を上げて、一瞬、不快そうな顔をしたアランド殿下だったが、直ぐに王族特有の笑みを顔に張り付けると、
「君では無理なのでは?」
と、感情のこもらない冷たい言葉をレナートに浴びせた。しかし、それに対してもレナートは負けてはいなかった。
「私はロゼット公爵家の嫡男です。それに見合った知識と教養は、既に身に付いております。いくら私のアリッサより学年が一つ下とて、何も問題はないでしょう。それに、万が一困ったことがあったとしても、私には、あの姉がついておりますので、何もご心配には及びません。」
「なにせ、あの姉ですので。」と、最後にもう一度、念を押すかのように言ったレナートは、既に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
そんな不快な笑みを向けられたアランド殿下だったが、さすが王族とでも言うのか、表情一つ変えることなく涼しげな眼差しでレナートを見ている。
「ああ、確かに。エステルダにだったら、安心してアリッサをお願いできるね。そうだね、私には公務だけでなく、生徒会もあるしね・・・。うん、わかったよ。 アリッサ、これから勉強のことは、エステルダに協力してもらうといいよ。彼女の知識と教養は、他の令嬢では追いつけない程に優れているからね。・・・ただね、アリッサ、覚えておいて。君が困っている時は、必ず私が助けに行く。今まで通りアリッサの為なら、私はなんでも相談に乗るよ。だから―――」
「殿下!アリッサには、もう私が付いておりますので、殿下のお手を煩わせるようなことにはなりませんので。」
これにはさすがのアランド殿下も、人の話を遮ってまで割って入って来るレナートに対し、動じていないさまを続けることは難しかった。
すっと顔から表情を抜くと、普段のアランド殿下とは思えないような低い声でレナートの名を呼んだ。
「レナート。お前は今から談話室だ。」
その言葉に、アリッサはビクっと肩を強張らせたが、レナートはあくまでも冷静だった。アランド殿下と同じように顔から表情を失くしたレナートも低い声で「はい。」と返事をすると、アリッサの肩に手を置いた。
「あのっ、レナート様!!」
心配そうな表情を浮かべたアリッサに、レナートは優しく微笑んだ。
「少し殿下とお話してきます。アリッサは教室で待っていてください。」
「あのっ、殿下。あの、これは、全て私のせいなのです。 殿下、どうか、悪いのは私ですので、処罰でしたら、どうか、私に!!」
「ははっ、大丈夫だよ、アリッサ。別にレナートを取って食いはしないよ。」
「ですが、元はと言えば、私の頭が悪いせいです。 あの・・・、私が、お優しいお二人に甘えてしまったせいで、このようにお二人の気分を害することになってしまったのです。ですから、諸悪の根源は、やはり私なのです。ですので、どうか罰するのでしたらこの私を。」
ついに、アランド殿下の前で膝を付いたアリッサを見て、アランド殿下は困ったように眉を下げると優しく手を差し出した。
「アリッサ、諸悪の根源などと、そんな大げさな・・・。さあ、立って。アリッサは何も悪くないんだよ。」
「私も少し大人げなかったね。」と言って、アリッサを立ち上がらせたアランド殿下は、ごめんね。と言いながら、アリッサの制服の汚れを掃ってくれた。その姿を睨むように見続けていたレナートは、一切の表情を失くすと、アランド殿下に許しを請うアリッサの姿をその冷たい瞳に映していた。
アランド殿下のレナートを見る瞳は、益々冷たくなっていく。
「レナート、それは婚約者でもない女性に対して使う言葉ではないよね。」
「お言葉ですが、私とアリッサの気持ちは通じ合っております。殿下の先ほどのお言葉の方が、周りからの誤解を招くことになるかと思われますが・・・。」
それは間違いなく、先ほど殿下がアリッサに向かって言った「私と君の仲」を指していた。
さすがロゼット公爵家の嫡男だけあって、殿下が相手でもレナートは全く引く気配を見せなかった。そんな二人の睨み合いをハラハラしながら見守っていたアリッサだったが、これ以上アランド殿下の機嫌を損ねるのは、レナートにとって得策ではないと判断した。
「あの、殿下。」
「なんだい?アリッサ。」
アリッサに話しかけられたアランド殿下は、それまでの冷たい表情を一変させ、美しくアリッサに微笑みかけた。
「私に、御用がおありなのではございませんか?」
アリッサが、恐る恐る用件を尋ねると、アランド殿下は、満面の笑みでアリッサの手を取った。
「そうだったね、アリッサ。長い間待たせてしまってすまなかった。最近の私は公務に追われていてね、君との時間を作れなかったんだ。私が居ない間、大変だっただろう? でも、もう大丈夫だよ。また今日から、私がアリッサの勉強に協力するからね。」
「勉強?」
隣から地を這うような低い声が聞こえたと思ったら、目の据わったレナートがアリッサとアランド殿下の間に無理やり入って来た。その拍子にアランド殿下から離れたアリッサの手を掴むと、なんとか怒りを抑えているレナートがアランド殿下に向かってその誘いを断った。
「これからは、殿下のお手を煩わせることもありません。アリッサの勉強は私が見ますので、どうぞ、ご心配されませぬよう。」
レナートの威圧的な物言いに対し、ピクリと方眉を上げて、一瞬、不快そうな顔をしたアランド殿下だったが、直ぐに王族特有の笑みを顔に張り付けると、
「君では無理なのでは?」
と、感情のこもらない冷たい言葉をレナートに浴びせた。しかし、それに対してもレナートは負けてはいなかった。
「私はロゼット公爵家の嫡男です。それに見合った知識と教養は、既に身に付いております。いくら私のアリッサより学年が一つ下とて、何も問題はないでしょう。それに、万が一困ったことがあったとしても、私には、あの姉がついておりますので、何もご心配には及びません。」
「なにせ、あの姉ですので。」と、最後にもう一度、念を押すかのように言ったレナートは、既に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
そんな不快な笑みを向けられたアランド殿下だったが、さすが王族とでも言うのか、表情一つ変えることなく涼しげな眼差しでレナートを見ている。
「ああ、確かに。エステルダにだったら、安心してアリッサをお願いできるね。そうだね、私には公務だけでなく、生徒会もあるしね・・・。うん、わかったよ。 アリッサ、これから勉強のことは、エステルダに協力してもらうといいよ。彼女の知識と教養は、他の令嬢では追いつけない程に優れているからね。・・・ただね、アリッサ、覚えておいて。君が困っている時は、必ず私が助けに行く。今まで通りアリッサの為なら、私はなんでも相談に乗るよ。だから―――」
「殿下!アリッサには、もう私が付いておりますので、殿下のお手を煩わせるようなことにはなりませんので。」
これにはさすがのアランド殿下も、人の話を遮ってまで割って入って来るレナートに対し、動じていないさまを続けることは難しかった。
すっと顔から表情を抜くと、普段のアランド殿下とは思えないような低い声でレナートの名を呼んだ。
「レナート。お前は今から談話室だ。」
その言葉に、アリッサはビクっと肩を強張らせたが、レナートはあくまでも冷静だった。アランド殿下と同じように顔から表情を失くしたレナートも低い声で「はい。」と返事をすると、アリッサの肩に手を置いた。
「あのっ、レナート様!!」
心配そうな表情を浮かべたアリッサに、レナートは優しく微笑んだ。
「少し殿下とお話してきます。アリッサは教室で待っていてください。」
「あのっ、殿下。あの、これは、全て私のせいなのです。 殿下、どうか、悪いのは私ですので、処罰でしたら、どうか、私に!!」
「ははっ、大丈夫だよ、アリッサ。別にレナートを取って食いはしないよ。」
「ですが、元はと言えば、私の頭が悪いせいです。 あの・・・、私が、お優しいお二人に甘えてしまったせいで、このようにお二人の気分を害することになってしまったのです。ですから、諸悪の根源は、やはり私なのです。ですので、どうか罰するのでしたらこの私を。」
ついに、アランド殿下の前で膝を付いたアリッサを見て、アランド殿下は困ったように眉を下げると優しく手を差し出した。
「アリッサ、諸悪の根源などと、そんな大げさな・・・。さあ、立って。アリッサは何も悪くないんだよ。」
「私も少し大人げなかったね。」と言って、アリッサを立ち上がらせたアランド殿下は、ごめんね。と言いながら、アリッサの制服の汚れを掃ってくれた。その姿を睨むように見続けていたレナートは、一切の表情を失くすと、アランド殿下に許しを請うアリッサの姿をその冷たい瞳に映していた。
0
あなたにおすすめの小説
惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。
ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。
同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。
※♡話はHシーンです
※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。
※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
閨から始まる拗らせ公爵の初恋
ボンボンP
恋愛
私、セシル・ルース・アロウイ伯爵令嬢は19歳で嫁ぐことになった。
何と相手は12歳年上の公爵様で再々婚の相手として⋯
明日は結婚式なんだけど…夢の中で前世の私を見てしまった。
目が覚めても夢の中の前世は私の記憶としてしっかり残っていた。
流行りの転生というものなのか?
でも私は乙女ゲームもライトノベルもほぼ接してこなかったのに!
*マークは性表現があります
■マークは20年程前の過去話です
side storyは本編 ■話の続きです。公爵家の話になります。
誤字が多くて、少し気になる箇所もあり現在少しずつ直しています。2025/7
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
水都 ミナト
恋愛
最高峰の魔法の研究施設である魔塔。
そこでは、生活に不可欠な魔導具の生産や開発を行われている。
最愛の父と母を失い、継母に生家を乗っ取られ居場所を失ったシルファは、ついには戸籍ごと魔塔に売り飛ばされてしまった。
そんなシルファが配属されたのは、魔導具の『メンテナンス部』であった。
上層階ほど尊ばれ、難解な技術を必要とする部署が配置される魔塔において、メンテナンス部は最底辺の地下に位置している。
貴族の生まれながらも、魔法を発動することができないシルファは、唯一の取り柄である周囲の魔力を吸収して体内で中和する力を活かし、日々魔導具のメンテナンスに従事していた。
実家の後ろ盾を無くし、一人で粛々と生きていくと誓っていたシルファであったが、
上司に愛人になれと言い寄られて困り果てていたところ、突然魔塔の最高責任者ルーカスに呼びつけられる。
そこで知ったルーカスの秘密。
彼はとある事件で自分自身を守るために退行魔法で少年の姿になっていたのだ。
元の姿に戻るためには、シルファの力が必要だという。
戸惑うシルファに提案されたのは、互いの利のために結ぶ契約結婚であった。
シルファはルーカスに協力するため、そして自らの利のためにその提案に頷いた。
所詮はお飾りの妻。役目を果たすまでの仮の妻。
そう覚悟を決めようとしていたシルファに、ルーカスは「俺は、この先誰でもない、君だけを大切にすると誓う」と言う。
心が追いつかないまま始まったルーカスとの生活は温かく幸せに満ちていて、シルファは少しずつ失ったものを取り戻していく。
けれど、継母や上司の男の手が忍び寄り、シルファがようやく見つけた居場所が脅かされることになる。
シルファは自分の居場所を守り抜き、ルーカスの退行魔法を解除することができるのか――
※他サイトでも公開しています
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる