青き瞳に映るのは桃色の閃光

岬 空弥

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私は貴方を守ります

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「わかったよ、私も、アリッサを困らせたかった訳ではないんだ。だから、もうそんな悲しそうな顔はしないでおくれ。さあ、いつものように笑顔を見せて、大人げない態度を取ってしまった私を許しておくれ。」

アランド殿下は、アリッサを立たせるとその頬に手を当て、まるで愛おしいものでも愛でるかのようにスリスリとアリッサの頬を親指で撫でるのだった。

レナートの無礼な態度によって完全に気分を悪くしていたアランド殿下だったが、いつになく必死に詫びる健気なアリッサの姿にすっかり心を奪われてしまった。アランド殿下は、レナートがその場に存在していることすら忘れ、アリッサの美しい髪を指先に絡めとり、その大きな緑色の瞳に魅入られるようにうっとりと見つめていた。そして、見つめられているアリッサはと言うと・・・、アランド殿下の気持ちが昂るほどにその瞳からは、光が失われていくのであった。

今や存在を忘れられたレナートだったが、二人から決して目を逸らすことはなかった。その顔は、先ほどと変わらない無表情ではあったが、力を入れ過ぎたレナートの拳は、二人を見ている間中、ずっと小刻みに震えていた。

愛らしく俯くアリッサを充分に堪能したアランド殿下は、ようやく満足したのか来た時と同じように爽やかな笑みを携えて戻って行った。その際、チラリとレナートに視線を移したが、特に表情を変えることもなく、興味を失ったかのように声も掛けずに通り過ぎて行った。

アランド殿下の姿が見えなくなるまで、その場に残されたレナートとアリッサは、声を出すこともしなかった。しかし、アランド殿下の姿が見えなくなると直ぐに、レナートは強い力でアリッサの手を引いた。

「レナート様?どうされましたか?もう教室に戻らなければならなりません。あのっ、レナート様、どちらへ?」

すっかり殿下に邪魔をされてしまったが、レナートとの貴重な昼休みは、もう終わりの時間だった。早く教室に戻らなければ、午後の授業に間に合わなくなってしまうというのに、アリッサの声などまるで届いていないかのように、レナートの歩くスピードは速いままだ。

「レナート様!」

いくらアリッサが声をかけても、レナートが止まることはなかった。それどころか、長い足でどんどんスピードを上げて行くのだ。しかし、そこはアリッサ。息一つ切らすことなく余裕でついて行けてしまう。 そうして、レナートがようやく足を止めた場所は、学園の隅にある高い塔のような建物だった。

(ここは、前にヴィスタの言っていた避雷針のある建物。)

アリッサが珍しそうに塔を見上げている間に、レナートは塔の入り口の鍵を開けた。

「え?」

どうやって入り口の鍵を開けたのか理解する前に、アリッサは再びレナートに手を引かれ塔の中に連れ込まれてしまった。
数は少ないが、小さな窓からの光は入って来る。しかし、中はとても薄暗く、目が慣れるまで時間がかかりそうだったが、ドアを閉めたレナートがガチャリと鍵を閉める音が聞こえたと同時に、アリッサはレナートに強く抱きしめられた。その力はまるで、二度と離さないとでも言っているかのようにとても強く、体の大きなレナートに抱き込まれたアリッサは呼吸をするのがやっとの状態だった。

「アリッサ、なぜ殿下にあのように媚びへつらう真似をしたのですか?」

抱きしめる力とは逆に、レナートの声は冷淡で、抑揚どころか感情のこもらない無機質なものであった。

「・・・レナート様、一体どうされたのですか?」

「なぜ殿下の前で膝を付くような真似を!?」

「レナ―――」

「なぜ、触れさせたっ!!」

頭の上からいきなり大声で怒鳴られたアリッサの体がビクリと跳ねた。

「アリッサなら、殿下の手などスルリとかわせたはずです。そんなに私は頼りないですか?貴女に守っていただかねばならないほど、私は子供に見えましたか!?」

「・・・・・・。」

それは、アリッサが恐怖を感じる程の怒りであった。本人は必死で感情を抑えているのであろうが、レナートが言葉を発する度に、体から漏れ出すような怒りをアリッサは敏感に感じ取っていた。

「私は、確かにアリッサの弟と同じ年齢です。アリッサはそうやってヴィスタ殿を守って来たのでしょう。私も、今まで何度も姉に支えられてきました。ですが、私は貴女の弟ではない。それに、そもそもたった一つしか違わないのに―――」

「守りますっ!!」

言葉を遮るようにアリッサはレナートの胸に潰されながら叫んだ。

「はっ!? アリッサ、私は貴女に守られたいなどとは思っていません。」

「守ります。私は、それでもレナート様を守るのです。自分の犠牲などで済むのなら、そのようなもの、私はいくらでも払います。貴方を守れるのであれば、私はどんな犠牲も払うんです!! 誰に何を言われようが、私は貴方の為に、命尽きるまで戦います!!」

「子供の頃から・・・、貴方は私の、たった一つの希望だったのですから・・・。」

最後の絞り出すようなアリッサの言葉を受け、目を見開いたレナートは自分の器の小ささを痛感させられると共に、一気に冷静な自分が戻って来ることがわかった。
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