39 / 95
私は貴方を守ります
しおりを挟む
「わかったよ、私も、アリッサを困らせたかった訳ではないんだ。だから、もうそんな悲しそうな顔はしないでおくれ。さあ、いつものように笑顔を見せて、大人げない態度を取ってしまった私を許しておくれ。」
アランド殿下は、アリッサを立たせるとその頬に手を当て、まるで愛おしいものでも愛でるかのようにスリスリとアリッサの頬を親指で撫でるのだった。
レナートの無礼な態度によって完全に気分を悪くしていたアランド殿下だったが、いつになく必死に詫びる健気なアリッサの姿にすっかり心を奪われてしまった。アランド殿下は、レナートがその場に存在していることすら忘れ、アリッサの美しい髪を指先に絡めとり、その大きな緑色の瞳に魅入られるようにうっとりと見つめていた。そして、見つめられているアリッサはと言うと・・・、アランド殿下の気持ちが昂るほどにその瞳からは、光が失われていくのであった。
今や存在を忘れられたレナートだったが、二人から決して目を逸らすことはなかった。その顔は、先ほどと変わらない無表情ではあったが、力を入れ過ぎたレナートの拳は、二人を見ている間中、ずっと小刻みに震えていた。
愛らしく俯くアリッサを充分に堪能したアランド殿下は、ようやく満足したのか来た時と同じように爽やかな笑みを携えて戻って行った。その際、チラリとレナートに視線を移したが、特に表情を変えることもなく、興味を失ったかのように声も掛けずに通り過ぎて行った。
アランド殿下の姿が見えなくなるまで、その場に残されたレナートとアリッサは、声を出すこともしなかった。しかし、アランド殿下の姿が見えなくなると直ぐに、レナートは強い力でアリッサの手を引いた。
「レナート様?どうされましたか?もう教室に戻らなければならなりません。あのっ、レナート様、どちらへ?」
すっかり殿下に邪魔をされてしまったが、レナートとの貴重な昼休みは、もう終わりの時間だった。早く教室に戻らなければ、午後の授業に間に合わなくなってしまうというのに、アリッサの声などまるで届いていないかのように、レナートの歩くスピードは速いままだ。
「レナート様!」
いくらアリッサが声をかけても、レナートが止まることはなかった。それどころか、長い足でどんどんスピードを上げて行くのだ。しかし、そこはアリッサ。息一つ切らすことなく余裕でついて行けてしまう。 そうして、レナートがようやく足を止めた場所は、学園の隅にある高い塔のような建物だった。
(ここは、前にヴィスタの言っていた避雷針のある建物。)
アリッサが珍しそうに塔を見上げている間に、レナートは塔の入り口の鍵を開けた。
「え?」
どうやって入り口の鍵を開けたのか理解する前に、アリッサは再びレナートに手を引かれ塔の中に連れ込まれてしまった。
数は少ないが、小さな窓からの光は入って来る。しかし、中はとても薄暗く、目が慣れるまで時間がかかりそうだったが、ドアを閉めたレナートがガチャリと鍵を閉める音が聞こえたと同時に、アリッサはレナートに強く抱きしめられた。その力はまるで、二度と離さないとでも言っているかのようにとても強く、体の大きなレナートに抱き込まれたアリッサは呼吸をするのがやっとの状態だった。
「アリッサ、なぜ殿下にあのように媚びへつらう真似をしたのですか?」
抱きしめる力とは逆に、レナートの声は冷淡で、抑揚どころか感情のこもらない無機質なものであった。
「・・・レナート様、一体どうされたのですか?」
「なぜ殿下の前で膝を付くような真似を!?」
「レナ―――」
「なぜ、触れさせたっ!!」
頭の上からいきなり大声で怒鳴られたアリッサの体がビクリと跳ねた。
「アリッサなら、殿下の手などスルリとかわせたはずです。そんなに私は頼りないですか?貴女に守っていただかねばならないほど、私は子供に見えましたか!?」
「・・・・・・。」
それは、アリッサが恐怖を感じる程の怒りであった。本人は必死で感情を抑えているのであろうが、レナートが言葉を発する度に、体から漏れ出すような怒りをアリッサは敏感に感じ取っていた。
「私は、確かにアリッサの弟と同じ年齢です。アリッサはそうやってヴィスタ殿を守って来たのでしょう。私も、今まで何度も姉に支えられてきました。ですが、私は貴女の弟ではない。それに、そもそもたった一つしか違わないのに―――」
「守りますっ!!」
言葉を遮るようにアリッサはレナートの胸に潰されながら叫んだ。
「はっ!? アリッサ、私は貴女に守られたいなどとは思っていません。」
「守ります。私は、それでもレナート様を守るのです。自分の犠牲などで済むのなら、そのようなもの、私はいくらでも払います。貴方を守れるのであれば、私はどんな犠牲も払うんです!! 誰に何を言われようが、私は貴方の為に、命尽きるまで戦います!!」
「子供の頃から・・・、貴方は私の、たった一つの希望だったのですから・・・。」
最後の絞り出すようなアリッサの言葉を受け、目を見開いたレナートは自分の器の小ささを痛感させられると共に、一気に冷静な自分が戻って来ることがわかった。
アランド殿下は、アリッサを立たせるとその頬に手を当て、まるで愛おしいものでも愛でるかのようにスリスリとアリッサの頬を親指で撫でるのだった。
レナートの無礼な態度によって完全に気分を悪くしていたアランド殿下だったが、いつになく必死に詫びる健気なアリッサの姿にすっかり心を奪われてしまった。アランド殿下は、レナートがその場に存在していることすら忘れ、アリッサの美しい髪を指先に絡めとり、その大きな緑色の瞳に魅入られるようにうっとりと見つめていた。そして、見つめられているアリッサはと言うと・・・、アランド殿下の気持ちが昂るほどにその瞳からは、光が失われていくのであった。
今や存在を忘れられたレナートだったが、二人から決して目を逸らすことはなかった。その顔は、先ほどと変わらない無表情ではあったが、力を入れ過ぎたレナートの拳は、二人を見ている間中、ずっと小刻みに震えていた。
愛らしく俯くアリッサを充分に堪能したアランド殿下は、ようやく満足したのか来た時と同じように爽やかな笑みを携えて戻って行った。その際、チラリとレナートに視線を移したが、特に表情を変えることもなく、興味を失ったかのように声も掛けずに通り過ぎて行った。
アランド殿下の姿が見えなくなるまで、その場に残されたレナートとアリッサは、声を出すこともしなかった。しかし、アランド殿下の姿が見えなくなると直ぐに、レナートは強い力でアリッサの手を引いた。
「レナート様?どうされましたか?もう教室に戻らなければならなりません。あのっ、レナート様、どちらへ?」
すっかり殿下に邪魔をされてしまったが、レナートとの貴重な昼休みは、もう終わりの時間だった。早く教室に戻らなければ、午後の授業に間に合わなくなってしまうというのに、アリッサの声などまるで届いていないかのように、レナートの歩くスピードは速いままだ。
「レナート様!」
いくらアリッサが声をかけても、レナートが止まることはなかった。それどころか、長い足でどんどんスピードを上げて行くのだ。しかし、そこはアリッサ。息一つ切らすことなく余裕でついて行けてしまう。 そうして、レナートがようやく足を止めた場所は、学園の隅にある高い塔のような建物だった。
(ここは、前にヴィスタの言っていた避雷針のある建物。)
アリッサが珍しそうに塔を見上げている間に、レナートは塔の入り口の鍵を開けた。
「え?」
どうやって入り口の鍵を開けたのか理解する前に、アリッサは再びレナートに手を引かれ塔の中に連れ込まれてしまった。
数は少ないが、小さな窓からの光は入って来る。しかし、中はとても薄暗く、目が慣れるまで時間がかかりそうだったが、ドアを閉めたレナートがガチャリと鍵を閉める音が聞こえたと同時に、アリッサはレナートに強く抱きしめられた。その力はまるで、二度と離さないとでも言っているかのようにとても強く、体の大きなレナートに抱き込まれたアリッサは呼吸をするのがやっとの状態だった。
「アリッサ、なぜ殿下にあのように媚びへつらう真似をしたのですか?」
抱きしめる力とは逆に、レナートの声は冷淡で、抑揚どころか感情のこもらない無機質なものであった。
「・・・レナート様、一体どうされたのですか?」
「なぜ殿下の前で膝を付くような真似を!?」
「レナ―――」
「なぜ、触れさせたっ!!」
頭の上からいきなり大声で怒鳴られたアリッサの体がビクリと跳ねた。
「アリッサなら、殿下の手などスルリとかわせたはずです。そんなに私は頼りないですか?貴女に守っていただかねばならないほど、私は子供に見えましたか!?」
「・・・・・・。」
それは、アリッサが恐怖を感じる程の怒りであった。本人は必死で感情を抑えているのであろうが、レナートが言葉を発する度に、体から漏れ出すような怒りをアリッサは敏感に感じ取っていた。
「私は、確かにアリッサの弟と同じ年齢です。アリッサはそうやってヴィスタ殿を守って来たのでしょう。私も、今まで何度も姉に支えられてきました。ですが、私は貴女の弟ではない。それに、そもそもたった一つしか違わないのに―――」
「守りますっ!!」
言葉を遮るようにアリッサはレナートの胸に潰されながら叫んだ。
「はっ!? アリッサ、私は貴女に守られたいなどとは思っていません。」
「守ります。私は、それでもレナート様を守るのです。自分の犠牲などで済むのなら、そのようなもの、私はいくらでも払います。貴方を守れるのであれば、私はどんな犠牲も払うんです!! 誰に何を言われようが、私は貴方の為に、命尽きるまで戦います!!」
「子供の頃から・・・、貴方は私の、たった一つの希望だったのですから・・・。」
最後の絞り出すようなアリッサの言葉を受け、目を見開いたレナートは自分の器の小ささを痛感させられると共に、一気に冷静な自分が戻って来ることがわかった。
0
あなたにおすすめの小説
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。
ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。
同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。
※♡話はHシーンです
※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。
※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
閨から始まる拗らせ公爵の初恋
ボンボンP
恋愛
私、セシル・ルース・アロウイ伯爵令嬢は19歳で嫁ぐことになった。
何と相手は12歳年上の公爵様で再々婚の相手として⋯
明日は結婚式なんだけど…夢の中で前世の私を見てしまった。
目が覚めても夢の中の前世は私の記憶としてしっかり残っていた。
流行りの転生というものなのか?
でも私は乙女ゲームもライトノベルもほぼ接してこなかったのに!
*マークは性表現があります
■マークは20年程前の過去話です
side storyは本編 ■話の続きです。公爵家の話になります。
誤字が多くて、少し気になる箇所もあり現在少しずつ直しています。2025/7
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
水都 ミナト
恋愛
最高峰の魔法の研究施設である魔塔。
そこでは、生活に不可欠な魔導具の生産や開発を行われている。
最愛の父と母を失い、継母に生家を乗っ取られ居場所を失ったシルファは、ついには戸籍ごと魔塔に売り飛ばされてしまった。
そんなシルファが配属されたのは、魔導具の『メンテナンス部』であった。
上層階ほど尊ばれ、難解な技術を必要とする部署が配置される魔塔において、メンテナンス部は最底辺の地下に位置している。
貴族の生まれながらも、魔法を発動することができないシルファは、唯一の取り柄である周囲の魔力を吸収して体内で中和する力を活かし、日々魔導具のメンテナンスに従事していた。
実家の後ろ盾を無くし、一人で粛々と生きていくと誓っていたシルファであったが、
上司に愛人になれと言い寄られて困り果てていたところ、突然魔塔の最高責任者ルーカスに呼びつけられる。
そこで知ったルーカスの秘密。
彼はとある事件で自分自身を守るために退行魔法で少年の姿になっていたのだ。
元の姿に戻るためには、シルファの力が必要だという。
戸惑うシルファに提案されたのは、互いの利のために結ぶ契約結婚であった。
シルファはルーカスに協力するため、そして自らの利のためにその提案に頷いた。
所詮はお飾りの妻。役目を果たすまでの仮の妻。
そう覚悟を決めようとしていたシルファに、ルーカスは「俺は、この先誰でもない、君だけを大切にすると誓う」と言う。
心が追いつかないまま始まったルーカスとの生活は温かく幸せに満ちていて、シルファは少しずつ失ったものを取り戻していく。
けれど、継母や上司の男の手が忍び寄り、シルファがようやく見つけた居場所が脅かされることになる。
シルファは自分の居場所を守り抜き、ルーカスの退行魔法を解除することができるのか――
※他サイトでも公開しています
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる