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第二十一話

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 仕事柄、身分制度が起因の問題をよく目にするヴィンスは、この封建的な社会が早く変化することを願っていた。

「これでも僕たちの若い頃から比べたら、幾分かマシにはなって来ているんだろうけどね」
店内を片付けながら、エルサが相槌を打つ。
「身分の差が無くなるとことは決して無いでしょうけど、爵位家と庶民の壁が少しでも低く、柔なものになれば良いわね」
「次の代……はまだ無理かな。ウィルの孫が国を納める頃には、この国にも大きな変化が生まれているかもしれない。昔馴染みから聞いた話によると、湾を挟んだ半島にあるブリティーナ大帝国の次期王妃は、貴族では無い一般庶民の出らしいよ。皇太子とは学園の同級生で、長い付き合いの中で別れたりくっ付いたりを繰り返した末に結婚したそうだ。子供もたくさんいて、継承問題もどこ吹く風だって。それから、大洋に浮かぶ島国のジピーナの皇后は、海外育ちで高学歴で、堪能な語学能力を活かして外交官として活躍していたキャリアウーマンらしい。こちらは皇帝が長らく想いを寄せてやっと振り向いてくれた相手だとか。他国ではこうして君主でさえ恋愛を経て結婚しているんだから、時代は確実に変化して来ていると思うよ。この国でも何年、何十年後には、魔道具使いの王妃が登場するかもしれないね」
悪戯な笑顔を見せながら、ヴィンスがエルサに言う。
「そうねぇ……一介の魔道具使いの少女に求婚する王太子なんて、誰かさんくらいのものよ」
フフ、と笑いながらエルサは答えた。

 王都の裏通りにある『Bar V&E』は、今日もひっそりと営業している。次に扉を開くのは、一杯のカクテルを飲みに来た客か、それとも『娘の将来について相談事がある』客か……。

               ~Fin~
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