不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ

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第一章

18、恋がそうさせるのかな ※オーティス視点

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 結局、心配で付いてきてしまった。

(ああ、ほら。あんなにも楽しそうに笑って。そんな可愛い顔を見せたらダメでしょう? ランデルが貴方に惚れてしまいます)

 パティスリーハノンから遠く離れた木陰。人目を避けるようにそこに隠れ、悶々としながら双眼鏡を覗いていた私は突然視界が悪くなって双眼鏡を離した。
 目の前を黒い火の玉――『闇の精霊』がひゅるりと横切る。

(まずい)

『オーティス様、闇の精霊を呼び出してはなりません。通報されますよ!』
『嵐を巻き起こしてもいけません。尾行しているのをフィル様に気付かれてしまいますぞ』

 外出前にポミィとポックスからあれほど念を押されたのにやってしまった。

 最近の私の失敗はこれだけじゃない。自分から友人を作るよう提案したくせに、嫉妬ばかりして心から祝福することもできない。ランデルの挨拶にもまともに答えずにフィル様に嫌な思いをさせてしまったと思う。

 己の度量の狭さと自制心のなさにどんよりしていると、聞き慣れた声がしてピンと背筋が伸びた。


「な~にしてるの?」

 背後からポンと肩を叩いてきた人物に心当たりがありすぎて頭が痛い。ゆっくり振り返り、興味を持たれないよう平然を装い真顔で答えた。

「セガール様、こちらで何を?」

「お忍びで買い物」

 近くの馬車を指差すセガール様に「そうですか」と心のこもっていない返事をすれば彼の口角が更に上がった。

「オーティス~、双眼鏡なんて覗いて君こそ何してるの? それ貸してくれる?」

(み、見られていたか……)
 彼は私の手から双眼鏡を取り上げるとパティスリーハノンを覗き見た。

「なーるほど、面白い事してる。これは放っておけないね。さあ、我々もパティスリーハノンに行こう!」

「お忍び……」
「い~のい~の」

 やはりそうなったか。セガール様はそういうお方だ。「乗った乗った」と上機嫌に語尾を跳ね上げ、無理矢理私をキャビンに押し込む。王太子と目の据わった私を乗せて馬車は走りだした。



 ◇◇◇

「――で、あれは何? フィルはデート中?」
「違います。あれはフィル様のご友人です」
「へぇ、フィルに……じゃあ兄として弟の友人に挨拶しなきゃ」

 まずい、そんなことをしたら私が尾行していたことがバレてしまう。

 馬車はセガール様が鼻歌を歌っている間に目的地へ到着。颯爽と馬車から降りる美しい王太子と、おまけで付いてきた大魔法師の登場にパティスリーハノン周辺の民から歓声が上がった。


 即座にフィル様のいた二階窓際席を見上げてみたのだが、そこにいたはずの彼の姿がない。まさか……。

「兄上? ……オーティス!?」

 終わった……騒がしくなった店先で結局フィル様と鉢合わせてしまった。セガール様、「あらら、出てきちゃった」じゃないですよ。

「フィル、久しぶり。元気だった?」
「はい、元気でした!」
「こちらは?」

「俺の友人ランデル・ウォルマンです」
「ウォルマン……ああ伯爵家の! フランコにもこんなに可愛い弟がいたんだ。ランデル、フィルをよろしく頼むよ」

 緊張気味に挨拶をしたランデルが「フィル様の生涯の友になりたいと願っております」と続けると、フィル様の頬がほんのり赤くなった。

 自分でもこういう所がいけないんだと思う。フィル様が楽しそうにランデルと話していようが、スイーツを堪能していようが、頬を染めていようが怒ってはダメなのに。
 私は七つも年上なのだから大人の余裕を……余裕を……よゆ……


「――オーティス! 黒い奴!」
「え? ……あっ、すみません」

 強風と地響きがピタリと止む。フィル様が手を引いてくださらなければ、大量の闇の精霊を放出するところだった。瞬間的だったとはいえ、直径十数メートル以内に起きた突然の天変地異に民が騒ついている。


「皆さん、大丈夫ですよ落ち着いてください」 
 フィル様が率先してして声を出すと、ランデルやセガール様もそれに続く。私はといえば、本来真っ先に動かなければならない立場なのに、原因が自分とあって申し訳なさから控えめに声をかけることしかできない。

 ふと視線を感じて振り向いた。ランデルとバチッと目が合う。

 ――今、笑った?

 ランデルがよく見ないと分からないくらい小さな笑みを私に見せた。あの若僧、とんでもない食わせ者かもしれない。

「オーティス顔色が悪いぞ? 大丈夫か? 兄上、最近オーティスの様子がおかしいので早めに帰してやってください」
「分かったよ」
 セガール様は珍しく申し訳無さそうな顔をこちらに向けた。

「皆さん落ち着いたようなので、俺たち失礼します」

 フィル様の前では格好良くいたいのに大人の余裕どころか空回りしてばかりだ。変わるチャンスは今なのに……変わりたいのに。


「ま、待ってくださいフィル様!」

「ん?」

 ランデルとどんなに楽しい時間を過ごしても構わない。ただ、最後に帰ってくるのは私の所であってほしい。

「ご友人と……思い切り楽しんできてください。貴方の帰りを屋敷で待ってます!」

 言えた。ランデルに嫉妬して今朝素直に言えなかったことがようやく言えた。

「うん、楽しんでくる! 明日帰るから待ってて!」

 フィル様が満面の笑みで手を振ってくれている。私の大好きな笑顔だ。

「……大声出すなんてらしくないね。恋がそうさせるのかな?」
 腕組みをしたセガール様がトンと私の肩にぶつかってきた。
「揶揄わないでください」と彼を流し見ると、いつものような含みのある笑みではなく優しい笑顔がそこにはあった。


「セガール様……陛下に願い出たフィル様との婚約が、待つように言われてからなかなか進展しません」

「そうなの? 誰かが邪魔してるのかな。それとも陛下が手放したくないのかもね」

 そんな事を話していると、フィル様とランデルの行く先で、走り回る小さな子供が恰幅の良い貴族の男にぶつかった。わざとらしく尻もちをついたその男は子供に対して必要以上に怒鳴りつけている。ランデルは子供の前に立ち塞がり、フィル様は貴族の男に手を貸して何やら話をしているようだ。

「あんなにも小さかったフィルが大きくなったね……」

 セガール様と私は、自分たちの出る幕がないほど成長したフィル様を遠い目で見つめた。
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