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第一章
17、友情はケーキと共に
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ランデルとお出掛け当日。その日の王都は朝から快晴だった。…………ただしオーティスの屋敷を除いてである。
「なあ、フィル。ここだけ風凄くない?」
うん、凄いというか暴風だ。
「それにあれ、魔物いるじゃん」
「ヤバっ」と言ってランデルはケラケラ笑っている。
「……うーん」
あれは魔物ではなくオーティスなんです。そしてこの暴風は彼の心が大荒れだからだそうですよ。
何がそんなに心を乱しているのか。黒い火の玉のようなモノでびっちり覆われたオーティスはまさに魔物。お見送りしてくれるのは嬉しいけど、迎えに来てくれたウォルマン家の馬車馬が酷く怯えている。大慌てで馬を宥めている御者さん、すみません。
見習い使用人ぽよぽよズはオーティスから避難中のようで、執事ポックスと侍女ポミィが荒れ狂う天候の中見送りに来てくれた。
「オーティス、ポックス、ポミィ。行ってくるね」
「お気を付けていってらっしゃいませ」
震えるポックスとポミィの声に、地獄の使者のようなオーティスの「気をづげでぐだざい……」が混じる。俺は後ろ髪を引かれる思いでウォルマン家の馬車に乗り、屋敷を後にした。
◇◇◇
「ランデル、見てみろよ。さすがパティスリーハノン。凄い行列だな!」
「お勧めケーキの入れ替え初日だからね」
さすが王都の超人気菓子店。店先にはすでに長蛇の列ができていて、俺たちの番が来る前に売り切れになってしまいそうだ。
「大丈夫かな……」と俺が肩を落とすとランデルは「こっちに来て」と手招きした。
店の裏側には細かな装飾が施された立派なドアがあって、ドアベルを鳴らすとすぐさま支配人が現れ俺たちは二階窓際席へと案内されたのだった。
「俺、初めて二階に来た」
「実は予約しておいたんだ」
「俺のために……わざわざ?」
「もちろん。喜んでくれた?」
ドヤ顔で笑うランデルに向かって大袈裟ってくらいにこくこく頷く。イケメンな上に用意周到、格好良すぎるって!
その後、さほど待たずに今月のお勧めケーキと紅茶が登場。
丸いプレート皿の上で甘く香る季節のモンブランケーキとアップルパイ。葡萄のシャーベットに生クリームとブルーベリーのジャムまで添えられた完璧な盛り合わせに俺たちの目が輝いた。
「ランデルランデル!!」
そわそわする俺にランデルが「じゃあ、いただく?」とニヤリと笑う。
俺たちは同時にモンブランケーキを頬張った。
(うっっっまぁぁぁあ~~~!!!!)
鼻をすーっと抜けていく栗の香り。ただでさえ美味しいケーキが、大好きな友達ランデルのおかげでもっともっと美味しく感じる。
これが青春なんだなぁ……と丸く大きな目を糸目にしてにんまり微笑んだ。
「フィルってさ、可愛いな」
「え?」
春の日差しのような眼差しについ見入ってしまった。
「あぁ、ごめん。フィルは男だから可愛いは嬉しくないか」
そんなことない。恥ずかしくてちょっと照れくさいけど、その言葉は嬉しい。王宮に連れてこられたばかりの頃。味方のいないあの場所で……
『フィルは可愛いね』
頭を撫でながら優しく笑ってくれたセガール兄上の姿が幼心に深く染み付いた。この人は俺の味方なんだってロックオンしてからは、会いに来てくれるたびに子うさぎのように兄上の後ろをぴょこぴょこ付いて回ったっけ。
「――だから俺にとって『可愛い』は最高の褒め言葉だよ」
「うわぁ……王宮怖ぇ」
ランデルのフォークを持つ手が完全に止まってしまった。初めての友達に浮かれて、話さなくていい事まで喋りすぎてしまったようだ。
「ごめん。この話ちょっと重かったな」
「そんなことないって。よく耐えてきたな。頑張った、すげぇよ。フィルの事を知れて嬉しい。話してくれてありがとう」
「……うん。話のついでに一つ聞いてもいいか?」
「どーぞ」
少し踏み込んだ質問。言いにくいけど、ランデルの気持ちが知りたい。
「ランデルはどうして俺のそばにいてくれるんだ? 俺を嫌ってる奴らから、嫌がらせ……とかされてないといいんだけど……」
少し身構えていたランデルは、答える前に目尻を下げてふわりと表情を和らげた。
「俺がそばにいるのは、あの日フィルが話しかけてくれたからだよ。誰も寄せ付けなかったフィルが俺を選んでくれた、そう思ったら感動してさ。前は随分尖ってるなって思ってたけど、環境がそうさせたわけだし。何より話してみたら良い奴で一緒にいて楽しいんだ。もしもフィルの悪口を言う奴がいたら俺が返り討ちにしてやるよ」
今日の俺、何度も泣きそうになってる……嬉しくて泣きそうなんだ。
「……ありがとう」
ランデルの言葉、きっと一生忘れない。
「ほら、フィルもケーキ食べようぜ」
また一つ、ランデルとの仲が深まったような気がして胸が温かくなった。
「なあ、フィル。ここだけ風凄くない?」
うん、凄いというか暴風だ。
「それにあれ、魔物いるじゃん」
「ヤバっ」と言ってランデルはケラケラ笑っている。
「……うーん」
あれは魔物ではなくオーティスなんです。そしてこの暴風は彼の心が大荒れだからだそうですよ。
何がそんなに心を乱しているのか。黒い火の玉のようなモノでびっちり覆われたオーティスはまさに魔物。お見送りしてくれるのは嬉しいけど、迎えに来てくれたウォルマン家の馬車馬が酷く怯えている。大慌てで馬を宥めている御者さん、すみません。
見習い使用人ぽよぽよズはオーティスから避難中のようで、執事ポックスと侍女ポミィが荒れ狂う天候の中見送りに来てくれた。
「オーティス、ポックス、ポミィ。行ってくるね」
「お気を付けていってらっしゃいませ」
震えるポックスとポミィの声に、地獄の使者のようなオーティスの「気をづげでぐだざい……」が混じる。俺は後ろ髪を引かれる思いでウォルマン家の馬車に乗り、屋敷を後にした。
◇◇◇
「ランデル、見てみろよ。さすがパティスリーハノン。凄い行列だな!」
「お勧めケーキの入れ替え初日だからね」
さすが王都の超人気菓子店。店先にはすでに長蛇の列ができていて、俺たちの番が来る前に売り切れになってしまいそうだ。
「大丈夫かな……」と俺が肩を落とすとランデルは「こっちに来て」と手招きした。
店の裏側には細かな装飾が施された立派なドアがあって、ドアベルを鳴らすとすぐさま支配人が現れ俺たちは二階窓際席へと案内されたのだった。
「俺、初めて二階に来た」
「実は予約しておいたんだ」
「俺のために……わざわざ?」
「もちろん。喜んでくれた?」
ドヤ顔で笑うランデルに向かって大袈裟ってくらいにこくこく頷く。イケメンな上に用意周到、格好良すぎるって!
その後、さほど待たずに今月のお勧めケーキと紅茶が登場。
丸いプレート皿の上で甘く香る季節のモンブランケーキとアップルパイ。葡萄のシャーベットに生クリームとブルーベリーのジャムまで添えられた完璧な盛り合わせに俺たちの目が輝いた。
「ランデルランデル!!」
そわそわする俺にランデルが「じゃあ、いただく?」とニヤリと笑う。
俺たちは同時にモンブランケーキを頬張った。
(うっっっまぁぁぁあ~~~!!!!)
鼻をすーっと抜けていく栗の香り。ただでさえ美味しいケーキが、大好きな友達ランデルのおかげでもっともっと美味しく感じる。
これが青春なんだなぁ……と丸く大きな目を糸目にしてにんまり微笑んだ。
「フィルってさ、可愛いな」
「え?」
春の日差しのような眼差しについ見入ってしまった。
「あぁ、ごめん。フィルは男だから可愛いは嬉しくないか」
そんなことない。恥ずかしくてちょっと照れくさいけど、その言葉は嬉しい。王宮に連れてこられたばかりの頃。味方のいないあの場所で……
『フィルは可愛いね』
頭を撫でながら優しく笑ってくれたセガール兄上の姿が幼心に深く染み付いた。この人は俺の味方なんだってロックオンしてからは、会いに来てくれるたびに子うさぎのように兄上の後ろをぴょこぴょこ付いて回ったっけ。
「――だから俺にとって『可愛い』は最高の褒め言葉だよ」
「うわぁ……王宮怖ぇ」
ランデルのフォークを持つ手が完全に止まってしまった。初めての友達に浮かれて、話さなくていい事まで喋りすぎてしまったようだ。
「ごめん。この話ちょっと重かったな」
「そんなことないって。よく耐えてきたな。頑張った、すげぇよ。フィルの事を知れて嬉しい。話してくれてありがとう」
「……うん。話のついでに一つ聞いてもいいか?」
「どーぞ」
少し踏み込んだ質問。言いにくいけど、ランデルの気持ちが知りたい。
「ランデルはどうして俺のそばにいてくれるんだ? 俺を嫌ってる奴らから、嫌がらせ……とかされてないといいんだけど……」
少し身構えていたランデルは、答える前に目尻を下げてふわりと表情を和らげた。
「俺がそばにいるのは、あの日フィルが話しかけてくれたからだよ。誰も寄せ付けなかったフィルが俺を選んでくれた、そう思ったら感動してさ。前は随分尖ってるなって思ってたけど、環境がそうさせたわけだし。何より話してみたら良い奴で一緒にいて楽しいんだ。もしもフィルの悪口を言う奴がいたら俺が返り討ちにしてやるよ」
今日の俺、何度も泣きそうになってる……嬉しくて泣きそうなんだ。
「……ありがとう」
ランデルの言葉、きっと一生忘れない。
「ほら、フィルもケーキ食べようぜ」
また一つ、ランデルとの仲が深まったような気がして胸が温かくなった。
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