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第一章
16、ウォルマン兄弟 ※ランデル視点
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――その頃、ウォルマン伯爵邸。
「フランコ兄さん、ただいま~」
「おかえりランデル。アカデミーはどうだった? 誰かに虐められてないか?」
「兄さん心配症。虐められてないし楽しいよ」
「ふっ、それならいい」
これは長年続くお決まりのやり取り。軽く口の端を上げだフランコ兄さんは、ちょっとズレた瓶底眼鏡の縁をくいっと指先で触ってぐちゃぐちゃに散らかった作業台の上で再び魔道具の作成に取りかかった。
兄は無駄にでかく育った俺とは真逆で、小柄でちんまりとしている。だが、その可愛い見た目を裏切るなかなかストイックな男だ。
俺はあくびをしながら定位置、兄の対面側に腰掛けて作業台の端に頬杖をついた。作業風景を見るのって面白い。この世に無い物を一から作り上げるってまじで凄い。
「兄さん、これ何? 新しい魔道具?」
作業台に置かれた二つの指輪。その小さな方を手に取ってまじまじと観察してみる。飾りの無いシンプルなシルバーの指輪は女性の小指サイズだろうか。
「それは、小さい方の指輪を持っている人がどこにいるのかを特定する魔道具さ」
「凄っ、どうやって?」
「ランデル、この指輪を嵌めてごらん」
すっかり眠気が吹き飛んだ。ワクワクしながら言われた通り大きい方の指輪を嵌めてみる。
「いいかい、嵌めた指輪をよく見てろよ?」
兄さんは小さな指輪を魔法で浮かすと、それを部屋の端から端へゆっくり移動させる。
「あ……」
「ふふふふ、分かったかい?」
「指輪から出てる薄い光の線が、小さい指輪を追いかけてた。まるで北を指す方位磁針みたいだ」
「この指輪を活用すれば、意中の人とバッタリ出交わす! なんていう運命の演出ができるのさ。『よく会いますねぇ』『偶然って重なるものですねぇ』って会話のきっかけを作ってくれること間違いなし!! ……ただ、意中の人に指輪を渡して肌身離さず持っていてもらうという絶対条件が高レベル過ぎて、結局役に立たないボツ魔道具だよ……」
確かに。それは難易度が高いな……。
兄さんはボツ魔道具だってしょげてるけど、役に立つ物もたくさん作ってきた。砕いた魔法石を散りばめた自動で回るプロペラ。あれなんか季節に応じて涼しい風と暖かい風を出してくれて、これまでの発明品の中でも特に役に立ってる。
それから、子供の「高い高いして」攻撃から大人を守るための安全ビッグクッション。あれは小さな子供のいる親戚からめちゃくちゃ喜ばれてた。
クッションにダイブすればポヨンと空中に跳ね上がって下からの風圧で暫く浮かんでいられる。ゆっくりと圧が下がるのでクッションの上に安全に着地できるという物だ。
親戚の子供から、次はお人形遊びがもっと楽しくなる喋るぬいぐるみを開発してくれと頼まれていたな。俺は魔力を持たないし発明のいろははさっぱりだけど、「兄さんは凄い」これは自信を持って言える。
「全然ボツじゃないって。これ付けて隠れんぼとか最強じゃん。鬼は簡単に全員捕まえられるし、逃げる方になっても絶対捕まらない的な? わがまま貴族の子供には喜ばれるかも」
「おっ、そうだな……上位貴族の子なら下位の子供たちに指輪を嵌めさせることだって簡単にできる」
「だろだろ!? これは凄い発明だよ。ボツにするなんて勿体無いって。やっぱり兄さんは目の付け所が普通の魔法師と違うなぁ。さすが魔術界の異端児! 天才! 国一番の発明家!」
「そ、そうかなぁ。ぐふふふっ」
機会さえあれば、きっとオーティス・サンドリッチのように世間から認められるはず。
(オーティス・サンドリッチ……)
ふとフィルを迎えに来ていた彼を思い出した。
「ねえ……兄さんって今でもオーティス・サンドリッチのことが嫌い?」
兄のちんまりした体が震えだした。熱気で瓶底眼鏡が白く曇る。
「オ、オーティス……!? あいつのせいで俺はいつも一番になれない。職場であいつを見かけるたびに発狂しそうになるよ!」
昔からフランコ兄さんはオーティス・サンドリッチのことが嫌いだ。その影響もあって、俺も彼を良く思っていない。もちろん能力が高いのは一も二もなく認めてるけど、そこにフィルが絡むと胸の中がもやもやするのだ。
「俺、今日初めてあの人と話したけど、挨拶もまともに返さないんだぜ」
「あいつは昔からそんな感じだ。何考えてるか分かんない人形みたいな奴なのさ」
「人形? 俺は手に取るようにあの人の気持ちが分かったけど? 兄さん……俺、オーティス・サンドリッチの心ん中掻き乱すくらいはできるかも」
掻き回されておかしくなってフィルに嫌われちまえ。
「待てランデル、あいつは恐ろしい奴だ! そんなことしたら可愛いお前に何が起こるか……」
「大丈夫、悪い事をするわけじゃないから」
俺はただ、好いている友達と仲良くするだけ。フィルにもっと好かれたい。
「ランデル……」
「兄さん」
「ふふふふふふははははは!!!!」
二人の不気味な笑い声が屋敷に響き渡る。
「静かになさい二人共! なんてはしたない笑い方をしているの!? 気持ち悪い」
「お母様、すみません……」
勝気な母に叱られ、しゅんと伏せる息子二人。表では素直に謝りながらも、その胸の中では不敵な笑みを浮かべていた。
「フランコ兄さん、ただいま~」
「おかえりランデル。アカデミーはどうだった? 誰かに虐められてないか?」
「兄さん心配症。虐められてないし楽しいよ」
「ふっ、それならいい」
これは長年続くお決まりのやり取り。軽く口の端を上げだフランコ兄さんは、ちょっとズレた瓶底眼鏡の縁をくいっと指先で触ってぐちゃぐちゃに散らかった作業台の上で再び魔道具の作成に取りかかった。
兄は無駄にでかく育った俺とは真逆で、小柄でちんまりとしている。だが、その可愛い見た目を裏切るなかなかストイックな男だ。
俺はあくびをしながら定位置、兄の対面側に腰掛けて作業台の端に頬杖をついた。作業風景を見るのって面白い。この世に無い物を一から作り上げるってまじで凄い。
「兄さん、これ何? 新しい魔道具?」
作業台に置かれた二つの指輪。その小さな方を手に取ってまじまじと観察してみる。飾りの無いシンプルなシルバーの指輪は女性の小指サイズだろうか。
「それは、小さい方の指輪を持っている人がどこにいるのかを特定する魔道具さ」
「凄っ、どうやって?」
「ランデル、この指輪を嵌めてごらん」
すっかり眠気が吹き飛んだ。ワクワクしながら言われた通り大きい方の指輪を嵌めてみる。
「いいかい、嵌めた指輪をよく見てろよ?」
兄さんは小さな指輪を魔法で浮かすと、それを部屋の端から端へゆっくり移動させる。
「あ……」
「ふふふふ、分かったかい?」
「指輪から出てる薄い光の線が、小さい指輪を追いかけてた。まるで北を指す方位磁針みたいだ」
「この指輪を活用すれば、意中の人とバッタリ出交わす! なんていう運命の演出ができるのさ。『よく会いますねぇ』『偶然って重なるものですねぇ』って会話のきっかけを作ってくれること間違いなし!! ……ただ、意中の人に指輪を渡して肌身離さず持っていてもらうという絶対条件が高レベル過ぎて、結局役に立たないボツ魔道具だよ……」
確かに。それは難易度が高いな……。
兄さんはボツ魔道具だってしょげてるけど、役に立つ物もたくさん作ってきた。砕いた魔法石を散りばめた自動で回るプロペラ。あれなんか季節に応じて涼しい風と暖かい風を出してくれて、これまでの発明品の中でも特に役に立ってる。
それから、子供の「高い高いして」攻撃から大人を守るための安全ビッグクッション。あれは小さな子供のいる親戚からめちゃくちゃ喜ばれてた。
クッションにダイブすればポヨンと空中に跳ね上がって下からの風圧で暫く浮かんでいられる。ゆっくりと圧が下がるのでクッションの上に安全に着地できるという物だ。
親戚の子供から、次はお人形遊びがもっと楽しくなる喋るぬいぐるみを開発してくれと頼まれていたな。俺は魔力を持たないし発明のいろははさっぱりだけど、「兄さんは凄い」これは自信を持って言える。
「全然ボツじゃないって。これ付けて隠れんぼとか最強じゃん。鬼は簡単に全員捕まえられるし、逃げる方になっても絶対捕まらない的な? わがまま貴族の子供には喜ばれるかも」
「おっ、そうだな……上位貴族の子なら下位の子供たちに指輪を嵌めさせることだって簡単にできる」
「だろだろ!? これは凄い発明だよ。ボツにするなんて勿体無いって。やっぱり兄さんは目の付け所が普通の魔法師と違うなぁ。さすが魔術界の異端児! 天才! 国一番の発明家!」
「そ、そうかなぁ。ぐふふふっ」
機会さえあれば、きっとオーティス・サンドリッチのように世間から認められるはず。
(オーティス・サンドリッチ……)
ふとフィルを迎えに来ていた彼を思い出した。
「ねえ……兄さんって今でもオーティス・サンドリッチのことが嫌い?」
兄のちんまりした体が震えだした。熱気で瓶底眼鏡が白く曇る。
「オ、オーティス……!? あいつのせいで俺はいつも一番になれない。職場であいつを見かけるたびに発狂しそうになるよ!」
昔からフランコ兄さんはオーティス・サンドリッチのことが嫌いだ。その影響もあって、俺も彼を良く思っていない。もちろん能力が高いのは一も二もなく認めてるけど、そこにフィルが絡むと胸の中がもやもやするのだ。
「俺、今日初めてあの人と話したけど、挨拶もまともに返さないんだぜ」
「あいつは昔からそんな感じだ。何考えてるか分かんない人形みたいな奴なのさ」
「人形? 俺は手に取るようにあの人の気持ちが分かったけど? 兄さん……俺、オーティス・サンドリッチの心ん中掻き乱すくらいはできるかも」
掻き回されておかしくなってフィルに嫌われちまえ。
「待てランデル、あいつは恐ろしい奴だ! そんなことしたら可愛いお前に何が起こるか……」
「大丈夫、悪い事をするわけじゃないから」
俺はただ、好いている友達と仲良くするだけ。フィルにもっと好かれたい。
「ランデル……」
「兄さん」
「ふふふふふふははははは!!!!」
二人の不気味な笑い声が屋敷に響き渡る。
「静かになさい二人共! なんてはしたない笑い方をしているの!? 気持ち悪い」
「お母様、すみません……」
勝気な母に叱られ、しゅんと伏せる息子二人。表では素直に謝りながらも、その胸の中では不敵な笑みを浮かべていた。
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