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デリクの婚約者
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『公爵令嬢シャーロット・クドカロフ』――デリクの婚約者である。
デリクという婚約者がいながらシャーロットは同級生の『カルロ』という子爵令息にぞっこんで、王立学園時代、彼女はずっとデリクのことを蔑ろにしていた。噂によるとパーティーに参加しても二人別々にいたようだ。
デリクが昨夜「双方に愛のない婚約で」と言ったとおり、子供の頃に親同士が決めた婚約。シャーロットが婚約を解消したがっている事は周知の事実だったが、色々事情があるのかそう簡単にはいかないらしい。
現在もカルロとの関係が続いているからこそ、デリクとは結婚せず婚約状態が続いているのだろう。
(媚薬の魔法陣を使おうとしたってことは、シャーロット様の気が変わったのかしら。あんなに可愛いデリク様を見たら、さすがのシャーロット様だって気持ちが揺らぐわよね。っというか彼女、魔法陣が失敗したのを私のせいにしようとしたわよね)
嫌なことを思い出してしまった。媚薬の魔法陣を自分のせいにされたからか。もしくはデリクを大事にしない事に対してなのか、よく分からないがリリアはムカムカと腹が立ってきた。
今まで魔法陣にしか興味しかなかった頭の中はすっかりデリクで占領されてしまっている。先ほど見た彼の笑顔に影響されて、リリアはあっさりデリクの味方になっていた。
(デリク様のこと何も知らないのに……なんて単純な……)
自分自信を鼻で笑うと、作業台を兼ねたカウンターに座るリリアは止まっていた右手を動かした。新しい魔法陣作成の依頼を受けていて、資料をめくりながらメモをとっていく。従来からあるものを組み合わせて新たな陣を考えるのは大好きな作業だ。しかしどうもはかどらない。小さな溜息が漏れた。
「リリア……どうした? 大丈夫か?」
「えっ!? あっ、はい」
右を向いて驚いた。腰を屈めたデリクがリリアを心配そうに覗き込んでいる。しかも、かなりの至近距離でだ。
(ぜ、全然気が付かなかった! それにまた『リリア』って……。溜息の原因がご自分だとまったく疑ってないんだわ)
責めるようにデリクをじとりと睨みつければ、目と鼻の先にあるデリクの顔が僅かに後ろに逸れた。大きく開かれた目は瞬きを忘れてしまったのか開きっぱなしだ。次第に眉が下がり、困りながらも目を合わせ続けるデリクはもうこれ以上耐えきれないと目を瞑った。が、もう一度目を開けて、真っ赤な顔で負けるものかとリリアを見返してくる。
(やっぱり面白いっ。この方は、王立学園にいた頃のあのデリク様と本当に同一人物なのかしら)
リリアはコロコロと表情の変わるデリクに耐えきれず吹き出してしまった。
「ふふふっ、ごめんなさいデリク様」
デリクは、なぜリリアが急に笑い出したのか分からないようだ。再度目を丸くして頭上にはてなマークをたくさん浮かべている。
「デリク様って面白い人だったんですね」
「……面白い?」
デリクの両眉がグッと持ち上がる。まずい……咄嗟にリリアは下を向いた。心配してわざわざ様子を見に来てくれた人に対して、睨みつけたうえに急に吹き出して面白い人呼ばわり。さすがに失礼だった。
中腰だったデリクは俯いたリリアの顔が見えるようにしゃがみ込むと、「面白い」と言われた理由を知りたそうに彼女の薄いグリーンの瞳をじっと見つめている。
「すみませんでした」
「謝らなくていい。それより、俺は面白いのか?」
「……はい……想像していたより……」
「そうか」
怒らせてしまったのかと萎縮していたリリアはデリクの顔を見て一瞬心臓が止まったような気がした。怒るどころか、目尻を下げてにこにこと機嫌良くリリアを見上げているのだ。
(面白いって言われて喜んでる? ああ……やっぱり魔法みたいな笑顔だ)
リリアの口元が弧を描いた。デリクが笑うとどうも一緒に笑ってしまう。
「さっき、悩んでいるように見えたけど」
再び中腰になったデリクがリリアに顔を寄せると、リリアの心臓がちょっとうるさくなった。
「ええっと……はい。いくつか試行錯誤中のものがあるんですけど、資料になる魔導書が少なくて足踏み状態なんです」
「どんな魔法陣?」
「真実を口にしてしまうものとか……他には、あっ、あれよりハレンチなものもありますよ」
デリクが媚薬の魔法陣をハレンチと言っていたことを思い出してわざとからかってみる。
「ハレンっ……まったく君は!」
案の定デリクの顔が赤くなる。
「……ちなみに、あの魔法陣の試作は自分で試したのか?」
「媚薬のですか? あれは知り合いのご夫婦に頼みました。私は一緒に使う相手がいませんから」
リリアが言い終わると同時に、バン!! と思い切りデリクが机に手をついた。リリアの体がビクッと跳ねる。
「じゃあ、今誰とも付き合っていないんだな!? 婚約者もいない完全独り身、正真正銘のフリーで合ってるな!?」
小さな魔術店にデリクの声が響いた。
「…………まぁ、そうですね」
(事実だけどそこまで強調して言わなくても……お客がいなくて良かった)
リリアは魔術が好きで恋より夢中になってきたけれど、恋に興味がないわけではない。デリクのようにかっこいい男性が間近にいればドキドキするし、ご縁があるのならいつかは結婚もしてみたいと思っている。
「なあリリア、魔導書なら――」
――チリンチリン。
デリクの話を遮るようにドアベルが鳴った。
デリクという婚約者がいながらシャーロットは同級生の『カルロ』という子爵令息にぞっこんで、王立学園時代、彼女はずっとデリクのことを蔑ろにしていた。噂によるとパーティーに参加しても二人別々にいたようだ。
デリクが昨夜「双方に愛のない婚約で」と言ったとおり、子供の頃に親同士が決めた婚約。シャーロットが婚約を解消したがっている事は周知の事実だったが、色々事情があるのかそう簡単にはいかないらしい。
現在もカルロとの関係が続いているからこそ、デリクとは結婚せず婚約状態が続いているのだろう。
(媚薬の魔法陣を使おうとしたってことは、シャーロット様の気が変わったのかしら。あんなに可愛いデリク様を見たら、さすがのシャーロット様だって気持ちが揺らぐわよね。っというか彼女、魔法陣が失敗したのを私のせいにしようとしたわよね)
嫌なことを思い出してしまった。媚薬の魔法陣を自分のせいにされたからか。もしくはデリクを大事にしない事に対してなのか、よく分からないがリリアはムカムカと腹が立ってきた。
今まで魔法陣にしか興味しかなかった頭の中はすっかりデリクで占領されてしまっている。先ほど見た彼の笑顔に影響されて、リリアはあっさりデリクの味方になっていた。
(デリク様のこと何も知らないのに……なんて単純な……)
自分自信を鼻で笑うと、作業台を兼ねたカウンターに座るリリアは止まっていた右手を動かした。新しい魔法陣作成の依頼を受けていて、資料をめくりながらメモをとっていく。従来からあるものを組み合わせて新たな陣を考えるのは大好きな作業だ。しかしどうもはかどらない。小さな溜息が漏れた。
「リリア……どうした? 大丈夫か?」
「えっ!? あっ、はい」
右を向いて驚いた。腰を屈めたデリクがリリアを心配そうに覗き込んでいる。しかも、かなりの至近距離でだ。
(ぜ、全然気が付かなかった! それにまた『リリア』って……。溜息の原因がご自分だとまったく疑ってないんだわ)
責めるようにデリクをじとりと睨みつければ、目と鼻の先にあるデリクの顔が僅かに後ろに逸れた。大きく開かれた目は瞬きを忘れてしまったのか開きっぱなしだ。次第に眉が下がり、困りながらも目を合わせ続けるデリクはもうこれ以上耐えきれないと目を瞑った。が、もう一度目を開けて、真っ赤な顔で負けるものかとリリアを見返してくる。
(やっぱり面白いっ。この方は、王立学園にいた頃のあのデリク様と本当に同一人物なのかしら)
リリアはコロコロと表情の変わるデリクに耐えきれず吹き出してしまった。
「ふふふっ、ごめんなさいデリク様」
デリクは、なぜリリアが急に笑い出したのか分からないようだ。再度目を丸くして頭上にはてなマークをたくさん浮かべている。
「デリク様って面白い人だったんですね」
「……面白い?」
デリクの両眉がグッと持ち上がる。まずい……咄嗟にリリアは下を向いた。心配してわざわざ様子を見に来てくれた人に対して、睨みつけたうえに急に吹き出して面白い人呼ばわり。さすがに失礼だった。
中腰だったデリクは俯いたリリアの顔が見えるようにしゃがみ込むと、「面白い」と言われた理由を知りたそうに彼女の薄いグリーンの瞳をじっと見つめている。
「すみませんでした」
「謝らなくていい。それより、俺は面白いのか?」
「……はい……想像していたより……」
「そうか」
怒らせてしまったのかと萎縮していたリリアはデリクの顔を見て一瞬心臓が止まったような気がした。怒るどころか、目尻を下げてにこにこと機嫌良くリリアを見上げているのだ。
(面白いって言われて喜んでる? ああ……やっぱり魔法みたいな笑顔だ)
リリアの口元が弧を描いた。デリクが笑うとどうも一緒に笑ってしまう。
「さっき、悩んでいるように見えたけど」
再び中腰になったデリクがリリアに顔を寄せると、リリアの心臓がちょっとうるさくなった。
「ええっと……はい。いくつか試行錯誤中のものがあるんですけど、資料になる魔導書が少なくて足踏み状態なんです」
「どんな魔法陣?」
「真実を口にしてしまうものとか……他には、あっ、あれよりハレンチなものもありますよ」
デリクが媚薬の魔法陣をハレンチと言っていたことを思い出してわざとからかってみる。
「ハレンっ……まったく君は!」
案の定デリクの顔が赤くなる。
「……ちなみに、あの魔法陣の試作は自分で試したのか?」
「媚薬のですか? あれは知り合いのご夫婦に頼みました。私は一緒に使う相手がいませんから」
リリアが言い終わると同時に、バン!! と思い切りデリクが机に手をついた。リリアの体がビクッと跳ねる。
「じゃあ、今誰とも付き合っていないんだな!? 婚約者もいない完全独り身、正真正銘のフリーで合ってるな!?」
小さな魔術店にデリクの声が響いた。
「…………まぁ、そうですね」
(事実だけどそこまで強調して言わなくても……お客がいなくて良かった)
リリアは魔術が好きで恋より夢中になってきたけれど、恋に興味がないわけではない。デリクのようにかっこいい男性が間近にいればドキドキするし、ご縁があるのならいつかは結婚もしてみたいと思っている。
「なあリリア、魔導書なら――」
――チリンチリン。
デリクの話を遮るようにドアベルが鳴った。
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