伯爵令息は愛を叫びたい〜だが諸事情があって叫べません。なのでこっそり思い出作りを始めます〜

新川はじめ

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俺とダンスを①

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「シュレイバー侯爵の呪いは解けました。デリク様とミシェル様の呪いも消えているか確認しましょう」

 デイヴィッドの気持ちが少し落ち着いた頃、リリアは声をかけた。彼は鼻をすすり頷く。

「ブレイン嬢ありがとう。孫たちをよろしく頼むよ」

 可視化の魔法陣の中央に立ったデリクとミシェルをデイヴィッドとウィルバートが不安げに見守る。リリアが手を伸ばしてデリクたちの足元から頭のてっぺんまで呪いの確認をしてみたが、黒い煙は現れなかった。

「お二人の呪いも解けています。良かったですね」

 デリクとデイヴィッドはホッと一息ついた。笑顔を取り戻したミシェルとウィルバートは手を取り合って喜びを爆発させている。

「ありがとうリリア」

「いいえ」――デリクにそう答えようとしたリリアに、ミシェルが飛びつくように抱きついた。

「リリア様! ありがとうございました!!」
「ミシェル様、これからは嫌ってほど男性からアプローチされますよ」
「まあ、それは大変そう」
 無邪気に笑い合うリリアとミシェルにウィルバートは狼狽る。デリクはそんな彼らを眺めて柔らかく微笑んだ。



 ◇◇◇

 オリビアの墓地でウィルバートと別れたリリアたち。彼らがシュレイバー家のタウンハウスに帰ると、デイヴィッドの娘――デリクたちの叔母ジェナが待っていた。呪いの元凶であるデイヴィッドの顔を見るなり「お父様! 説明してください!」と鬼の形相で問いただす。

「わしのせいですまなかった」
 肩身を狭くして謝る父親を見ても、やはり簡単には許せるわけがない。ジェナは涙を滲ませそっぽを向いた。

 その後、デリクたちの父とジェナ、二人の呪いを確認すると無事に呪いが解けていることを確認できた。これで今回の依頼は無事解決と言っていいだろう。

「ブレイン嬢、ありがとう。改めてお礼をさせてちょうだい」
 深く頭を下げるデリクの母に、リリアは少し驚いてしまった。

「い、いいえ、そんな。お支払いくださった分だけで十分です」
「ダメですリリア様! しっかりとお礼をさせてください」
 ミシェルは、焦って断るリリアの腕に自分の両腕をグッと絡めた。

「ミシェル様……」
「それに、わたくしたちお友達になったんですからお茶会もしましょうよ」
「それなら」
 ミシェルの可愛さに負けてリリアはこくっと頷いた。

「リリア、疲れただろう? 早く帰って休んだ方がいい。俺が送っていくよ」
「え? デリク様が?」
「お兄様ずるい! 私も……」

 デイヴィッドは、同行しようとするミシェルの手を掴んで静止した。

「デリクに任せなさい」

 真剣な祖父の顔にミシェルの眉尻が下がる。
「わたくしも……。うーん、分かりました。お兄様! リリア様を無事に送り届けてくださいね」

 デリクはデイヴィッドに頭を下げ、ぷうと頬を膨らませたミシェルに「任せろ」と一言告げて笑顔を見せた。



 ◇◇◇

 疲れたリリアを気遣ってか、タウンハウスから魔術店に到着するまでデリクはリリアに話しかけなかった。
 魔力を大量に使って疲れたリリアは馬車に揺られながらうとうとと浅い眠りにつき、たまに彼女の頭がガクッと揺れるのをデリクは愛おしそうに眺めていた。


「ニールさん、戻りました。今回も店番ありがとうございました。デリク様も送ってくださってありがとうございました」
「おかえりなさいませ、リリアお嬢様。あれ、デリク様も」
「なあ、リリア。少しでいいんだ、店を閉じてもらえないかな……」
「いいですけど……」

 やや下を向いたデリクは、お腹の前で手を組んで親指の先を擦り合わせている。

「わ、わたくし外でお待ちしております。リリアお嬢様、あとで今日のご報告をいたします」
 ニールは一礼すると、瞬間移動? と疑ってしまうほど素早く店を出ていった。リリアは『CLOSE』と書かれた看板を出して扉の鍵を閉めた。

「デリク様、紅茶を召し上がりますか?」
「いや、お構いなく」

 デリクが話しだすのをじっと待ち続けるが、なかなか口を開こうとしない。結局デリクは、
「ごめん、なんでもない。ニールを呼んでくるよ」
 そう告げてリリアに背を向けた。

 このままデリクが行ってしまったら、もう二度と二人きりで話をすることはないだろう。そんな考えがリリアを酷く動揺させた。気付いた時にはデリクを呼び止めていた。

「デ、デリク様! 二日後、クドカロフ公爵邸で行われる夜会に行かれますよね? 実は私も参加するんです」
「えっ!? エスコートはどこの令息が!?」

「違います違います。シャーロット様の護衛を任されました」
「シャーロットの護衛を?」

 軽く流されて終わるかと思いきや、デリクは勢いよく振り返りリリアに詰め寄った。その反応に護衛を引き受けてはダメだったかと冷や汗をかく。

「ですから、二日後またお会いできますね」

 リリアはデリクに笑ってほしくて、誘うように笑ってみせた。しかし、デリクは真顔のまま焼き付けるようにリリアの笑顔を見入っている。そして顔を伏せてしまった。

「ねえリリア、どうしよう……」
「ど、どうしました?」
「俺……ダンスの仕方を、忘れてしまった……かも」
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