上 下
72 / 251

第72話 チ-ム

しおりを挟む


「きゃああああああああああ!!」

「いやだああああああああ!!」

「ゲギャギャギャギャギャギャ!」

メアとセシルの叫び声に混じり不気味な笑い声をあげているのは、片方の目が飛び出てもう片方の目の周辺は頭蓋骨の一部が見えている。それでいて両足はない魔物。
ゴブリンゴーストだ。
浮遊している、いわゆる幽霊というやつ。

「叫ぶほどのものか?」

「だって気持ち悪いんだもん! きゃあああ! まだ追ってくる~!」

メアがそう言う気持ちは分からなくもない。
ゴブリンゴ-ストは見た目がグロテクス過ぎる。

「ムッ! しつこい!」

セシルが進行方向の右側にある樹に向かって飛び移り、重力に逆らうように水平に屈んだ。
そして勢いよく樹を蹴り2体のゴブリンゴ-ストに右脚を伸ばす。

「えっ!?」

しかし、セシルの蹴りはあっけなく無効化される。
セシルはゴブリンゴ-ストを突き抜けた。
というのも、ゴブリンゴ-ストは見えはするのだが実体がない。
セシルの物理攻撃が通じるはずもない。

それを知らないであろうセシルは体制を整えてお得意の回し蹴りを3発ゴブリンゴ-ストに放つ。

「効かない!?」

だが、お得意の格闘攻撃も実体のないゴブリンゴ-ストにとっては何の意味も持たない。
2体のゴブリンゴ-ストもセシルの蹴りの迫力にビクついた様子を見せたが、効かないと分かったのだろう。
自らのグロテクスな顔をセシルの前に突き出して驚かす。

セシルは悲鳴をあげることもせず、ただただ顔色が青ざめていく。

「メア、それもコイツらには通じない」

地面を這うようにメアの氷魔法が駆け、2体のゴブリンゴ-ストの真下から氷柱が上がった。
2体のゴブリンゴ-ストは固まったようなフリをしているが、両目が分かりやすく動く。
2体のゴブリンゴ-ストは氷柱をあっさりと擦り抜けた。

セシルが氷柱攻撃を合図にして俺とメアの元に戻って来る。

「だったらどうしたらいいの!?」

「放っておけばいい。そのうち、何処かへ行く」

ゴブリンゴ-ストはまだ俺たちの側を離れようとしない。俺たちの周りを何度も旋回している。

「気になる~」

セシルが上目で回るゴブリンゴ-ストを気にしつつ言う。

「気にしない気にしない! 先を急ぎましょう!」

メアが早歩きで俺とセシルの先を行く。

そんな俺たちの周りを旋回する2体のふざけたゴブリンゴ-ストを気にしながら、カディアフォレスト東にある関所を目指す。





それからも2体のゴブリンゴ-ストは飽きもせず俺たちの周りにいた。
メアもセシルも既に慣れてしまったようだ。

「見た目は嫌だけど、何もして来ないだけまだマシね」

「変な顔~」

セシルがゴブリンゴ-ストをおちょくるように木の枝で突く。
木の枝はゴブリンゴ-ストの頭を突き抜けている。

「ゲギャギャ……ギャ……」

ゴブリンゴ-ストは困惑したような表情をして、遂には俺たちの元から去って行った。

「行っちゃった」

「あれでも魔物なの?」

初めゴブリンゴ-ストを見た時とは打って変わった様子の2人。

「あれでもレベルは26。人間驚かして動揺させて、他の魔物に少なからず貢献しているんだよ」

ゴブリンゴ-ストの攻撃は怯える人間に対しての精神的なものでしかない。
ゴブリンゴ-ストに限って言えばレベルなんてあって無いようなもの。

「ふ~ん。でも、少し安心しちゃったよ」

「安心?」

「魔物なんて人間を襲うだけだと思ってたけど、あんな無害な魔物もいるんだね」

どの口がそれを言うのか。
メアは今でこそ平気そうな感じだが、ゴブリンゴ-ストを見た瞬間なんてこの世の絶望みたいな顔してたくせに。

ゴブリンゴ-ストも俺たちを驚かしていたようだが、選んだ相手が悪かったようだ。

その後も深い深い森の中を歩いて行く。
小腹が空いて、バタリアで買い込んだ保存性の高いビ-フジャ-キ-を食べる。
ついでに樹に実る森の果実も頂く。魔物は人間を襲い食うが、こうした人間が食べる物も嫌いではない。
森の果実は魔物には勿体ないくらいに美味しい。
セシルはこれでもかというくらいに頬張っている。
メアは歩きながら果実を食べている。

「このペ-スじゃあ夜までかかりそうだな。下手すれば此処で野宿」

「野宿!?」

「わーい! 野宿野宿!」

聞こえないように言ったつもりだったが、2人には筒抜けだったようだ。

「セシル、分かっているのか? こんな森の夜で野宿ーー魔物に襲って下さいって言っているようなもの」

「セシルは強い!」

セシルは近くにあった自身と同じくらいの小岩を蹴り砕いた。

「頼もしいな。メア、そういうことだ。優秀な警備もいる」

「だけどっ! ……いいわ! それは! さっ、早く先を急ぎましょう!」

メアはスタスタと先を行く。

時々、俺は思う。メアの勇者ランクから見ても、特別、凄まじく強い勇者というわけでもない。
シ-ラ王国の隣接街、セイクリッドで出会った時から一緒にいるが、よく今まで生きて来れたなと思う。
まあそれは俺にも言えることではあるが、勇者という職業はいつ死が訪れてもおかしくない。
強さはある程度自身の努力で高められるが、運ばかりはどうにもならない。
生まれ持った素質とも言える。

この魔物時代、多くの大衆、勇者が死に、それでもなお今に生きる人々は運がいい。
そういう意味では俺たちは運がある。

「やっと骨があるやつが現れたな」

「レベルは……78!? 私、まだ勇者ランク6よ!?」

「皆で戦えば問題なし!」

セシルが辺りの樹を利用して大きく跳躍した。

「グオオオオオオオオ!!」


ギガントマンティコア
LV.78
ATK.110
DEF.79

巨大な翼を広げ俺たちを威嚇する咆哮が辺りの樹々を大きく揺さぶる。
大獅子の魔物だ。

セシルが強力な蹴りをギガントマンティコアの額に放つが、振る頭の力で飛ばされてしまう。

「タイミングを待てセシル! お前は強いが、まずは相手の力量を知ることが大切だ」

小さく頷くセシル。

「セシルが強いのはこの5日間で充分わかったわ。だけど、その強さが全ての相手に通じるわけじゃない。セシル言ったよね? 皆で戦えば問題はないって。順序、それが大切よ!」

メアの氷魔法がギガントマンティコアの四つの足を封じた。
セシルはメアが言わんとしていることを理解したのか、動けなくなったギガントマンティコアの額に再び蹴りを入れた。

「グオオオオン!?」

ギガントマンティコアの叫び声が上がる。

「そうよ、セシル。私たちは仲間。チ-ムで戦えば倒せない魔物も倒せる!」

メアの氷魔法がギガントマンティコアの胴体まで上がっていく。

「討伐は任せろ」

動けない相手を斬るのは忍びないが、相手は魔物。
宝剣アスティオンを鞘から抜いて駆ける。魔物特効特性を失った今、神剣にするにはひたすら魔物を斬るしか道はない。
撃技+5が乗った斬撃をギガントマンティコアに放った。
しおりを挟む

処理中です...