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第73話 成長した勇者
しおりを挟む空を斬るかの如く大きく鋭い斬撃はギガントマンティコアにヒットした。
ギガントマンティコアの巨体が辺りの樹々ごと倒れ、胴から下を覆う氷が砕け散った。
撃技+5の斬撃を至近距離で食らったギガントマンティコアはたまったものではないだろう。
そんな時、何か得体の知れない音が聞こえた。
「あの斬撃を受けてまだ立つの!?」
撃技+5の斬撃を真正面から受けて立つギガントマンティコア。
突然聞こえた音の正体も気になるところだが、今は目の前の敵に集中。
「しぶといな」
起き上がったギガントマンティコアにすかさずの斬撃。
ギガントマンティコアが顔を上に背け、そしてたてがみの色が青白くなっていく。
「2人とも! 耳を塞げ!」
斬撃を食らって尚、ギガントマンティコアは両前脚で大地を踏みしめた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
確認出来るだけでも数十本の樹々が折れて吹き飛んでいる。樹が樹に衝突し、さらに折れる。
ギガントマンティコアの前方周囲の地面が大きくえぐられた。
特別、何か放出したわけではない。
ただの咆哮。
だが、その咆哮は対象を吹き飛ばし破壊した。それほどの咆哮。
「うるさ過ぎ!! 2人とも大丈夫なの!?」
「俺は大丈夫だ」
問題はセシル。
耳が聞こえ過ぎるが故にギガントマンティコアの咆哮は相当堪えていそうだ。
樹の幹にいたセシルはギガントマンティコアの咆哮によって飛ばされ、遠くでうずくまっているようだ。
ギガントマンティコアは魔物。
俺やメアよりも、弱っていると見えるセシルを狙うのは当然のこと。
ギガントマンティコアが大地を揺らしながらうずくまるセシルに向かう。
「行かせるか!」
4発の斬撃をそれぞれギガントマンティコアの前脚の爪辺りと後脚に放つ。
崩れ落ち、メアがギガントマンティコアの頭上に特大の氷ハンマーを作り出す。
「グオオンンッ!?」
特大の氷ハンマーはギガントマンティコアの頭にクリ-ンヒットした。
巨体が砂埃をあげて地面に倒れた。
「セシル!」
メアが急いでセシルの元へ走って行く。
無造作に倒れた樹々の間を駆け抜けながら跳ぶように向かう。
「大丈夫そうだな。それにしてもコイツ、まだ立つのか?」
セシルの元に着いたメアの表情を見る限りでは大丈夫なように見える。
そして倒れたギガントマンティコアは再び起き上がった。
「グオオオン!!」
巨大な前脚が地面に深く叩きつけられた。
その瞬間、まるで水面に大岩を落としたかのように地面が波打った。
「馬鹿力め!」
観察眼で示したギガントマンティコアの攻撃力は110。
このカディアフォレストの中でも強い部類には入るだろう。
俺はギガントマンティコアが地面に繰り出した攻撃の反動で宙に浮いた。
ギガントマンティコアは空中で身動きが取れない俺に対して、もう一方の前脚を振りかぶった。
が、俺は空中で速技を使うことで攻撃を回避し、ギガントマンティコアの頭部に着地。
頭部を斬り払おうとした瞬間、ギガントマンティコアの鋭い尾が俺に向かう。
「ちっ!! でかい上に反応も早いか! なら……」
俺はあえてギガントマンティコアの視界に入った攻撃をした。
ギガントマンティコアは一瞬怯んだが巨大な牙で噛み付いてくる。一本一本が30cmくらいあるだろうか。
「グオオン!?」
ギガントマンティコアは突如として消えた俺に困惑でもしたのか、後ろを振り返る。
そしてまた振り返る。
続いて直ぐに回り抜けを発動した。
そのまま樹を利用して上がり、速技により加速したアスティオンの鋭い切っ尖がギガントマンティコアの頭部を突いた。
「やった!」
セシルが小さくガッツポ-ズをした。
ギガントマンティコアは地面に崩れ倒れ、漸く息絶えた。
「シン、流石だわ」
「行くぞ、グズグズしてたらまた面倒な魔物が現れる」
もちろん勇者ランクを上げる為には魔物を倒さなければならない。ましてや、アスティオンに魔物特効特性がない今、一刻も早く神剣へとレベルアップする必要がある。
ただ俺たちは既にフィールドへ出て旅を進めている為、休養がとれる時間が確保出来にくい。魔物が俺たちの都合を考えてくれるわけもない。
急いで東の関所に歩みを進めた。
◇
そうして、いつしか日も沈んで来ていた。
といってもまだまだ明るいのだが、日はあっという間に過ぎる。
あれだけの騒ぎをしていたというのに他の魔物もやって来ない。
結局、ギガントマンティコアと戦っていた時に突然聞こえた音の正体は分からなかった。
此処はカディアフォレストだ。得体の知れない音なんて幾つもある。また聞こえるようなら正体を確認しておきたいところだが、大した問題ではない。
関所は東。
俺の腕にかけてある魔力時計は方向がわかる。
魔力を失えば時刻も方角も分からなくなる代物だが、魔力が底を尽きるなんて滅多にない。
方角を確認し先を歩いていく。
メアもセシルも疲れた様子もないようだ。
まあ、この程度で根を上げられては俺としても困る。
関所を抜けた後は山を越える。その先にはカサルの地があり、そして魔王の城がそびえ立つ。
人間を何人たりとも寄せ付けないのはその雰囲気だけではない。
魔王の城周辺にいる魔物のレベルが他の魔物と比べ物にならないからだ。
先程俺たちが倒したギガントマンティコアのレベルは78。
このくらいもレベルの魔物は当たり前のようにうようよいるだろう。
さらには80、90代のレベルの魔物……
宝剣アスティオンの神剣化は避けられない。
俺の元に戻って来たアスティオンは今までと何ら変わりはない。
変わるのは魔物特攻特性を失ってしまったことだけ。
一体、後どれ程の魔物を斬ればいいのだろう。
俺はブルッフラ北西にあったサギニの森で遭遇したスカルエンペラーとの闘いの時を思い出していた。
あの時のスカルエンペラーのレベルは86。
魔物という脅威を骨の髄まで見せつけられ、アスティオンも折られてしまった。
技も使えないほど精神が不安定な未熟者だった。
一人で勇者として生きて来た。その揺るぎない生き方だけが俺の取り柄みたいなものだった。
だから、たとえ高レベルの魔物と遭遇しても何とかなるだろう。
そんな風に思っていた。
結果はその場からやっとの思いで離脱。
単なる俺の実力不足だっただけの話。
そして先程討伐したギガントマンティコアのレベルが78。
手応え的には問題なく討伐した。
メアやセシルの援護あっての闘いだったが、それでも旅の成果は着実に出てきている。
精神的成長とでも言うのだろうか。
ギガントマンティコアを見ても臆することはなかった。
メアやセシルがいたからというものあるかもしれないが、少なくとも今の俺はギガントマンティコア程度なら何ら問題ないと感じた。
「今日中にこの森抜けられる?」
「無理だな」
「そんな~!?」
がっくりと肩を落とすメア。
そんなメアに肩を軽く叩くセシル。
「セシルがいるから大丈夫!」
「あ、ありがとね」
セシルは相変わらず心強い。
確かに、セシルの鋭い聴覚と嗅覚があれば夜でも咄嗟の行動をとれそうではある。
「ひとまず、今夜に備えて寝場所を探そう」
「「は~い」」
夕暮れまでもう暫く時間はあるが、魔物の中には夜も関係なく動き回る奴らもいる。魔物に位置が知られる前に寝場所は確保しておきたい。
歩く道の先はカディアフォレスト特有の大小さまざまな樹が何処までも続いている。
時折、何処からともなく声が聞こえるのは何かの魔物だろう。
セシルの両耳がしきりに動いている。
その後も俺たちは東にある関所を目指しながらカディアフォレストを進んで行った。
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