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第100話 開かずの扉
しおりを挟む村の中で勇者4人と獣人が1人。先を歩くのは木こりの爺さん。道中の経緯を知らない者が見れば何者だと思う爺さんは、先代魔王の匂いが付いた小袋を持つ。
これだけの個性派が揃って目立つに目立ちそうだが、案外そうでもなかったようだ。
村の中にはそこらかしこに個性派揃いの勇者たちがいる。
「着いたぞ」
そう言って爺さんが立ち止まった場所。奥には5メートルくらいだろうか、やや急斜面に出来た土の壁がある。
「此処に何かあるのか?」
「……」
爺さんが目線を俺たちの奥へと移す。
何だ? と見てみれば村の人間が5人ほど集まっていた。
「お爺さん、また連れて来たのかい。懲りませんね~あなたも」
「なんじゃナスター。また儂を笑いに来たのか?」
「違うさ! 今度はどんなやつ連れて来たのか気になっただけ。見物させてもらうよ」
状況はよく分からないが、目の前の、そして俺たちを連れて来た流れからするに爺さんには何か目的があるのだろう。
「で、俺たちに何をさせようってんだ?」
「みりゃ分かるじゃろう、この扉じゃ」
そう言ってバンバンと爺さんは扉を叩く。
「まさか開けろってこと?」
「そうじゃ。いや、開けて欲しいんじゃ」
どう見ても普通の扉。触った感じは鉄の扉だ。
だが、その普通に見える扉には目立つ傷が多数。
「この傷は?」
「それは勇者たちがこの扉を開けようとして付けた傷じゃ。じゃが、結果は見ての通り。今まで誰一人としてこの扉を開けた者はおらん」
急斜面の土の壁に埋め込まれるようにある扉。
正方形の形をした、高さおよそ3メートルほどの扉。
「扉の先に何があるんだ?」
「それを聞くか、まあ聞くじゃろう。教えてやってもいいが、聞き損になるだけじゃ」
「爺さんそりゃないぜ。俺たちを連れて来といて聞き損って、ただの無駄足じゃん!」
「レン、落ち着けって。爺さん、話してくれ」
爺さんはその扉の前に行き、手で触れる。
「ああ、話してやろうとも。儂とて、誰も彼もこの場所に連れて来るわけじゃない。少なくともお主らにはこの扉の奥にある物の存在を知ってほしいと思ってな」
「で! 一体何が入っているって言うんだよ!」
「落ち着きなさいって若い勇者の人や。儂もな、もう半分諦めかけているんじゃ。このウォールノーンにはこの扉の噂を聞きつけ、今までそれは数多くの勇者が来たもんじゃ。今はそれほどではないんじゃが、当時は何処の軍隊かと思うほどにやって来てたわい。もう50年以上前の話じゃ」
「50年以上!? 一体この奥に何があるっていうんだよ~!!? 爺さん早く教えてくれ!」
爺さんはレンの言葉を素通りして、また扉に触れる。
「さっきものう言ったことじゃが、それでも誰一人として扉を開けた者はおらんのじゃ。お主らにそれが出来るかどうか……。手段は何でも構わん。鍵は見ての通り付いてはおらん。その持ってる武器で攻撃するなりなんでもして開けてみせい!」
爺さん示すように扉を大きく叩いた。
「結局言わねえのかよ!? なら、俺が行く!」
レンが地面すれすれを疾る斬撃を放つ。
斬撃は回転し扉に衝突する。
が、扉は微動だにせず、その衝撃で辺りに砂埃をあげるのみ。
「ひゅうっ! やるね~あんちゃん! だけど見てみ? その程度じゃあびくともしないよ」
いつの間にか野次馬が増えていた。
その一人、くるぶしあたりまで裾を下ろした中年男がレンに言う。
「まだまだ本気は出しちゃいない! 扉ごときに使うのも惜しいけど……ライジングリスタ!!」
再度レンが放った斬撃は周囲に風を起こし、扉を三度斬り押した。
扉と斬撃の衝撃音が鳴り響く。
「……これでも壊れないのかよ」
「次、私にやらせて。こういう時は力任せにやればいいってものじゃないのよ。見てなさいーー氷雨、連の突き!」
メアが自らの長剣を抜き真っすぐに扉の方に向けた途端、氷のつぶてが長剣の切っ尖付近から放たれる。
氷のつぶてが扉に次々に衝突していく。
「ほおう氷か! こりゃもしかすると、もしかするかもしれん!」
爺さんのテンションが上がる。
「こうして扉を急激に冷やしておいて……ここで斬るのよ!」
扉に向かって走って行ったメアは飛んで、体重も加わった力で斬りつけた。
「これでもダメ!? なんて扉なのよ!」
凍らせた箇所に大きく斬り傷が入っただけだった。
「やはりここは力が必要か。よし、次は私がやろう」
前に出たルベルトが大剣を背中から抜いた。
「剛腕そうじゃな。じゃがどうかな? 腕っ節に自信のある何人もの勇者が立ち向かった扉。結果はこの通りじゃ」
爺さんが扉に手を向ける。
「何事もやってみなくては分からん。仕方ない、私の力の一部を解放しようーーふん!」
ルベルトがそう力んだ瞬間、ギルと戦っていた時ほどではないが、彼の体に赤い光が宿る。
「その大剣にその手の甲の印……まさかこいつバーサーカーか!?」
「レン、それは本当か?」
バーサーカーとは勇者でありながらその類稀なる怪力の持ち主を指し、撃技を磨き続けた先にある境地に辿り着く者の呼び名。
「いかにも! バーサーカーの私に壊せぬものはない!」
地面を踏み締めるように扉へと走って行くルベルトは、持つ大剣を振り下ろす。
「きゃあああ!! セシル大丈夫!?」
「大丈夫!! けど他の皆がっ!」
まさかルベルトがそんな攻撃をすると思っていなかったのだろう。
離れて見ていた村人が衝撃で吹き飛んでしまった。
「加減知らず!! けど見ろ! 扉が! ……扉が……」
煙が風で晴れるものの、扉は依然としてそこにある。
「やはり無理じゃったか……まあ期待などしておらんかった。お主らにも迷惑かけてしまったのう。じゃが、ここまでやってくれたんじゃ。中のモノくらい教え」
「爺さん、まだ俺がいる」
まったく、メアじゃないが力任せにやればいいってもんじゃないだろ。
ルベルトがバーサーカーだったのには正直驚いたが、その力でさえ扉は開かなかったんだ。
となると力では壊せないと判断した方が賢明だ。
「シン、まさか……」
「俺に開けられない扉はない」
「何? お主がその扉を開けると?」
扉の方へと歩いて行き、そして軽く手を触れた。
レン、メア、ルベルトが斬りつけた扉も、それが扉である以上は俺の能力の前では意味をなさない。
扉に青い光が縦や横に走りーー割れるように中心から開いた。
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