101 / 251
第101話 護る者
しおりを挟む開いた扉からは冷たい空気が流れて来る。
一体どれ程の間開いていなかったのか。開ける前と後の空気が違い過ぎる。カビ臭い匂いもない。
「……開けおった」
爺さんはただそう言う。
人は予想外のことが起きた時、口の筋肉が緩むとはよく言ったものだ。
「シン、流石としか言いようがないわ」
「シンすごい!」
セシルが腕に抱きついて来た。
「それがお前の目覚めた能力なのか?」
「ああ。そう言えばレンは知らなかったな」
レンが俺の能力のことを知るはずもない。俺が能力に目覚めたのはレンと別れてからずっと後のことだった。
ピンチの時ほど能力に目覚めるとはよく言ったもので、俺が解錠の能力に目覚めたのも、まだ力のなかった頃、賊に捕まっていた時ーー手枷の錠を外して離脱した勇者歴もそう長くない時だ。
シーラ王国に捕まるずっと前の話。
「開いたのかついに! 村のみんなに知らせて来る!」
初めから見ていた者ーーナスターが転びそうになりながらも走って行く。
よほど重大なことらしい。
「入るぞ、爺さん」
開いた扉の奥を見た。
「待ていっ!」
「なんだよ爺さん! 開いたんだからいいじゃねえか! それとも何か? やっぱり中は見せられませんって!?」
レンが爺さんに詰め寄って聞く。
「むむむ……違うわい! まさか開けられるとは思わんかったんじゃ!」
「と言うことは何か? 元々俺たちに話す気はなかったってことなのか?」
「むう、どう言ったらいいんじゃ……。お主らはこの奥にあるものを先に知りたくはないのか?」
「それじゃあ面白味がねえ!」
タタっと一人先駆けて行く。
「右に同じ。俺もこの目で見て何か知りたいしな」
50年以上も開かれなかった扉の奥にある物。それが一体何なのか、言葉のベールで剥がされる前にこの目で見たい。
扉にあった傷も一体どれだけの勇者がこの村に押し寄せたのか、何を求めてこの村にやって来たのか。
それが今、分かる手前。
奥へ入ると予想以上に深く、視界が暗闇に覆われる。
「この穴一体どこまで続いているんだよー!!」
レンの声が響くようにずっと奥から聞こえて来る。
「レン! 何か見つけたら直ぐ言え!」
「見つけてって言われてもなーまじでなんにもねえぞ! 上も下も右も左も……これほんとに土か!?」
そう言えば、やけに地面が硬い。
「硬いな。爺さん、この中はどうなっているんだ?」
「気になるじゃろう。ーーほれ、みなさい」
周囲が明るくなった。
爺さんは持っている木の枝に火を付けて土の壁に寄る。
「土……じゃないのか?」
「いんや、元々はただの土じゃ。おそらくこれは……おっと! それもその目で確かめたいんじゃったな」
「気になるー!」
セシルがぶんぶんと体を左右に揺らす。
「お爺さんも意地悪ね。それくらい言ってくれてもいいじゃない」
「何事も自分の目で確かめる。最も、それが出来ればの話じゃがの! ふぁっふぁっふぁ!」
少しずつ爺さんの性格が分かって来た。
さて、爺さんのことは置いといて奥に行ってみようか。
そうしてしばらく奥へと足を進めて行った。
◇
「クッソー! 開かねえじゃねえか! つうかさっきから何だよこの光は!?」
何やらレンが物体の前で力んでいた。
そしてレンの周りをぐるぐると回っていたものーー。
「カーバンクル……なんで……」
「お主!? その光の主が見えるのか!?」
「ああ、そこでレンの周りを回っているやつだろ?」
暗闇で爺さんが持つ松明しか灯りがなかったが、レンの周りを回る物体ーーいや、その生命体は発光し周囲を照らしていた。
サファイアのような煌きの毛、目はルビーのように紅い。
「……まさか、いや……ありえん……彼の……じゃが……」
爺さんがぶつぶつと独り言を言っている。
「何も見えないけど……シンには見えるの?」
「カーバンクルだろ? ずっと見えてる」
どうやらメアやレンには見えないようだ。それはセシルも同じようで、首を傾けて不思議そうに見ている。
「私にもみえない。お爺さん、この光は一体なんですか?」
ルベルトも見えないようだ。
「ふむ、そうか……そうか……。永きに渡る時を経て、遂に来たるは何処ぞの勇者。封印されし扉を開け、その姿を見ることも叶わぬ精霊を見たりけり。ーーお主、名はシンとそこのお嬢ちゃんが言っとったな。聞かない名じゃが、彼が待っていたのはお主なのか?」
「知らねえよ。いきなり何言い出すんだ爺さん」
「おおっと! すまんすまん! つい興奮して心の声が出てしまったようじゃ!」
レンの周りを回っていたカーバンクルが物体の上にちょこんと乗った。
「やっと止まった! シン、この光のやつが見えるんだな!? バトンタッチだ!」
レンが俺の肩をポンと触れる。
物体ーー宝箱には見えない。何ていうか、ただの石。
その上には真っ直ぐに俺を見るカーバンクル。
「何やってんのよ」
「なんでもない」
はたから見たら変な行動だっただろう。
カーバンクルがじっと俺の目を見て来るもんだから、左右に移動してみた。
だが、それでもカーバンクルは俺から視線を外さなかった。
近づいてみる。
『キュイ!』
そう鳴き、カーバンクルは俺の手につんと鼻を触れさせる。
「聞こえた! 見えないけどカーバンクルってのがいるのね!?」
「ずっといる……」
カーバンクルはその姿をゆっくりと消して行く。
「何? どうしたの!? ああっ! 光が!」
カーバンクルが消えたことによるのだろう、光も次第に消えた。
それに伴い、石の上に何やら文字が浮かび上がる。
「……お主、この文字は読めるか?」
「読めるわけないだろ、こんな文字」
と言うのは、別に文字が汚いだとか難しい漢字やアルファベットだからと言う理由だからではない。
書体も不明。確かなのは、何者かがこれを石に刻んだということ。カーバンクルは護る者の意を持ち、この石の中にあるだろう何かの封印精霊。そうとしか考えられない。
記憶文字ーーそう呼ばれる魔法技術が存在する。
1人が誰か1人の為だけに読ませることが出来る、いわば2人だけの秘密文字。
要するにその2人がこの形の図形、もしくは線や曲線、数字などをこういう読み方にしようと決めておく。そうすれば、他の誰かに見られたとしても解読することは困難となる。
つまり、この石に刻まれた文字を読み解くことが出来る人物が必要だということ。
だが、もう50年以上開いていなかった扉の奥にあった物。
となると50歳以上、既にもうこの世にいない人物の可能性すらある。
「こんなもん読めても読めなくてもどっちでもいいんだよ! 開けりゃあ済む話!」
レンが力業で開けようとする。
「やめなさいって、力でどうこうなるような物じゃないと思うわ」
「いや! また扉みたいに攻撃すれば!」
レンが剣を抜いた。
「馬鹿やめろ。力で扉は開かなかっただろう?」
「そ、そうだったな……だったらこれもシンの能力で開けられるんじゃないか?」
「お主の能力か、やってみい」
俺は石に手を触れた。
「……」
石は微動だにしなかった。
「なんにも起きねえ! シン! なんだそのヘッポコ能力!」
「シン、こういう時こそあなたの能力じゃない!」
レンもメアも言いたいように言ってくれる。
「十分役目は果たしただろ。扉を開けられなかった奴らがよく言うぜ」
そう図星を突かれたようにメアとレンは反論する言葉を失ったようだ。
「うぅ……」
そのよそに、セシルが頭を押さえていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる