百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第221話 現れる魔竜

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「ーーそうか、可能性はあるな」

セシルの行方について話をしていた。
ラピスたちがアルンの能力で別次元にいた際、セシルと思われる姿を見たが見失ったのだという。
獣人の嗅覚であれば俺たちを見つけることなど造作もないと思うのだが場所も場所、魔物に遭遇してしまった可能性もある。……もしくは魔人。

「だったら急ぎましょう!」

「皆さん、私からの提案なのですが、セシルさんを見つけるまでアルンの能力で移動しませんか?」

「クウン!!」

アルンの能力とは別次元に一時的に移動出来る能力。
聖霊獣たちの世界とでもいうのだろうか、三次元からの影響を受けない次元。
エルピスの街で初めてアルンの能力に触れた時は驚いたものだ。

「それもそうだな。アルン頼む」

前回までは人数制限があったようなのだが、今ではそれも増えたらしく俺たち4人程度であれば問題なく別次元に送れるようだ。
別次元側からは三次元を見ることが出来て、三次元側からは別次元を見ることが出来ない。
アルンの能力はこういう時にこそ真価を発揮する。
無駄な戦闘も避けられる。

もう、魔王の城にある秘宝のところまでこのまま行ってもいいくらいだ。
ただ、アルンが別次元に送ることはやはりエネルギーを必要とし、ずっといることは出来ないということ。
今は無駄な戦闘を避けて行き、早くセシルを見つけること。

セシルを探して進んで行く。





セシルを探しながら進む中、魔王の城に入った後のことを確認するように話し合っていた。

魔王の城に入れば可能な限り無駄な戦闘は避け、旅の目的である秘宝を盗み出すことを最優先で動く。その中で魔王と対峙する場合、メアたちには直ぐに手を出さないように言っている。
闇の勢力のトップに君臨する未知の力だ。

そして団体行動はせずに二手に分かれての行動。
俺はセシルと、後はメアたち。
ただ、そのセシルがいないのが今は問題。

……あれが、魔王の城か。

薄々感づいていたが、川の上流の先に見えて来た聳え立つ水晶らしきものの奥に城が見える。何かの翼竜が城の所々に止まっている様子だったり、空高くには魔物も飛んでいる。
魔王の城があるこの海の下に着いた時に見えた、巨大な龍の姿は見えないが……油断は出来ないだろう。

「ねえあれ! セシルじゃない!? セシルー! って、ここからじゃ聞こえないわね」

移動中、セシルがまるで待つように立っていた。

「セシル……」

あんな堂々と1人で、魔物の的になるぞ。
アルンの能力から出た。

セシルの方へ歩み寄って行くが、彼女は立ったまま俺たちを見ているだけ。

「セシルさん大丈夫でしたか?」

そうラピスが言うと、彼女の問いには答えず俺の元に歩いて来た。

「セシル……だよな?」

「シン!」

メアが叫ぶ。
俺はアスティオンを抜き、セシルの前に突き立てる。

「メアさん、確認の為です」

ラピスの言う通り、これは確認の為による行動。
メアが固唾を呑むといった様子。

セシルは俺の行動の意味を考えているのか、俺の目をじっと見た後、アスティオンの切っ先を摘むようにして触れる。
セシルの様子は特に変わらない。どうやら、あの化ける魔人ではない。

「これで、神剣を持つ勇者が2人。我ら獣人の力に頼らずとも神剣にしたあなた方には敬意を評します」

「セ、セシル?」

メアが戸惑いの声を出すと、セシルは首を振る。

「私はセシルではありません。今は彼女の身体を一時的にお借りしています」

声はセシルだが、話し方や雰囲気がまるでセシルではない。

「どういうつもりだ?」

「ちょっとシン!」

次にセシルに突き立てたアスティオンは確認の為ではない。
だが、セシルの身体にいる何者かは動じることなく真っ直ぐに俺の目を見る。

「剣をお納め下さい、勇者様」

その言葉と共に何者かは自らアスティオンの方に近寄って来る。
なるほど、敵意は感じない。
そう思ってアスティオンを鞘に納めた。

「有難う御座います。こういう形であなた方の前に現れるのは失礼かと思いますが、どうぞお許しください」

そう言って、何者かは会釈する。

「……お前、ウォールノーンでもセシルの中に入った奴だな?」

ウォールノーンで開かずの扉の奥にあった石の前で謎の言葉を発したセシル。
話し方の感じ、雰囲気がその時と同じだ。

「ーー本当はもっと早くに出て来るべきだと思っていたのですが、私が出るまでもなくあなた方は旅を進めた。私は初代勇者様に遣わさせていただいた獣人、サラと申します」

「本当か?」

初代勇者一行の情報はあまりにも少なく、確かめようがない。
セシルの身体に入っているサラは頷く。

「私がセシルの身体に入ってお伝えしたかったこと。それはーー」

言いかけて、身体から力が抜けたようにサラは地面に手を付く。

「んん……みんな?」

どうやら、セシル本人が戻った。

「セシル! 無事で良かったわ!」

メアがセシルに抱きつく。
にしても、肝心なところでセシルから抜けるとはサラは何を伝えようとしていたんだ?
セシルの身体にいる時間も決まっているということか?

その後、離れ離れになった後のセシルの状況を本人の口から聞いたが、あまりはっきりとは覚えていなかった。





「ーーセシルはあいつのことに気づいていたのか」

セシルが小さく頷く。
あいつとはセシルの身体の中に入り、俺たちと会話したサラのことだ。

「あの籠手を見つけた時からたまにセシルに話しかけて来て……私のせいでってずっと謝ってた」

私のせい?

「それってつまり……どういうこと?」

メアがセシルにそう聞く。

「それはセシルにはわからない。ただただ謝ってるだけで……」

セシルがたまに上の空だった理由が分かった気がする。
そのサラのことを気にかけていたからこその行動だろう。

「なら、直接サラに聞いてみようか」

ただ謝っているなら当の本人から理由を聞けばいい。
だが、セシルは浮かない表情をしている。

「セシルも何度も聞いてみた。けど、あの人には届かなかった」

「それって、心の中で念じるとか?」

メアが問うとセシルは頷く。

「だったら次、俺たちの前に出て来た時に本人に聞く。もうこの話は終わりだ」

そう話を終わらせたのは魔王の城が既に見えて来ているからだ。
敵地、それも最も危険な場所でのお喋り。
隙を突かれるなんてことはあってはならない。
また訳の分からない能力を持っている魔人が出て来るかもしれない。


魔王の城まで後もう僅か。
そう思っていた時ーー。

「この影……」

地面に出来た影。
それは頭上高くに現れた魔竜だった。
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