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第3章 ペンションにて
両親の行方
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3人はあまり多くはない荷物を抱え、ホテルの予約をキャンセルして再びペンションの部屋に戻った。
再びテーブルを囲み、みづきと凜霞は今まで起きたことをかいつまんで亜紀に説明する。
「……というわけで、私は昨日初めて、病院から外に出ました。というか逃げてきたのです」
「は。マジ?」
「思い出せる限りでは、ですが」
「覚えているのは何歳くらいまで?」
「よくわからないのですが、7歳の頃にはそこにいたと記憶しています」
「今14歳なら少なくとも7年間か。それは大変だった、というかなんというか。いい言葉が思いつかんな」
「だからね? 凜霞ちゃんに海を見てほしかったの。でも、それでおしまいじゃなくて、もっといろんなものを見て欲しかったの」
「凜霞さん、どうなんだい。これで終わりにしてもいいのか?」
「良くないのかと言われても、私にはわからないのです。ふと海を見てみたいな、と思った。本当にそれだけなので」
「他にももっと……もっと。本当に色々なものがあるんだぞ?」
「もちろん外には知らないものがたくさんあるんだろうな、と思っていました。実際にこうやって宿に泊めて頂いて、お菓子まで頂いて。こんなに素晴らしい世界があるなんて、私、知りませんでした」
「それなら――」
「でも、それを言い出したら切りがありません。私がわがままを言えば言うほど周りの人を困らせるだけですから。だから、海を見られればそれでいいかな、と思っていました」
「凜霞ちゃん!」
みづきが震える手で凜霞の手を握る。凜霞はみづきを見つめ返しながら、無言でみづきの手を握り返す。
亜紀はテーブルに両肘をつき、二人の様子を伺いながら一言だけつぶやいた。
「今はどう思ってるんだ」
「今、ですか……みづき先輩が1人旅をする予定だった時間、その4日間を頂いて、一緒に旅をしてみようかな、と思っています。そして思い出を一杯にして、病院に帰ろうと思っています。ご迷惑でなければ、ですが」
「そんな、私は大丈夫だよ? 旅はいつでもできるから」
「いいえ、それは嘘です。わかりますよ、顔に書いてありますから」
みづきははっと目を見開いて、慌てて顔を覆い隠す。
凜霞はそんなみづきを見つめながら、くすりと小さく笑い、話を続ける。
「そう簡単に1人旅なんてできないのは私だって知っています。みづき先輩は何も感じていないのかもしれないですが、とても迷惑をかけているのはわかっているのです。それでも、もし私を許してくれるのなら。甘えさせてもらってもいいですか」
「いっぱい甘えていいよ。私、凜霞ちゃんのお姉ちゃんにだって、なるよ」
「姉、ですか。考えてもみませんでした」
「お母さんにもなれるよ?」
「いえ、そこまでは……やっぱり先輩くらいが丁度いいかもしれませんね」
納得がいかない表情のみづきと穏やかで澄ました表情の凜霞。
亜紀はそんな2人の掛け合いを少し離れて見ながら静かに微笑んでいる。
「残りは2泊かな。泊まるのはうちでいいにしても、明日はどこに行くつもりなんだ?」
「みづき先輩、明日の予定はどうなっていましたか」
「うん。明日はね、ホントは遊園地の予定だったんだけど……」
「どうかしたのですか」
「ほら、遊園地ってジェットコースターとかカートとかお化け屋敷とか。ドキドキするようなもの、多いでしょ?」
「ああ、それは……。お化け屋敷でみづき先輩と最後のお別れをするのは、流石に私も納得できません」
「うん。だから、どうしようかなぁ、って」
「……もし予定が立たないのであれば。私、少し気になることがあるのです。聞いてもらってもいいですか」
「いいよ。なぁに?」
「今日みづき先輩に、ご両親のお話をしていただきました。それで考えたのですが、私の両親は一体どうしているのでしょうか」
「お父さんとお母さん。会ったこと、ないの?」
「ありません」
「んー、入院費は誰かが払ってるはずだよな。保護者がいないなんてことはありえないと思うんだがなぁ」
「そうだとは思いますが」
「何か手がかりになるようなもの、ない?」
「それなんですが、先ほどぬいぐるみを見ていたときに……思い出したのです」
凜霞がポーチを開けて、中身を広げていく。ハンカチ、財布、薬、薬、薬、薬、薬……そして、小さなクマのぬいぐるみ。
「可愛い! これ……ん? 凜霞ちゃんの、家族、だっけ?」
「はい。私のベッドにある物はこれだけで、小さいので一緒につれてきました」
「いつからあったの?」
「わかりません。私が小さな頃から、ずっと」
「ちょっと触ってもいいですか? ふぅん。お手々、動くね」
「あたいも見ていいかな。うん、よくできてるね。ってこれ、手作り?」
「どうしてですか」
「まず、商品タグがない。で、縫い目が一定じゃない。手縫いだよ、これ」
「私の枕元に、手作りのぬいぐるみがずっと置いてあった。ということですか」
「プレゼントかな?」
「ありうるね。となると、まさか、もしかして……わるい、もう1回借りるよ」
亜紀がぬいぐるみを預かり、揉むように触り、凜霞に目を合わせる。
「何か、入ってるね。……ねえ、これ。糸を外してもいいかな」
再びテーブルを囲み、みづきと凜霞は今まで起きたことをかいつまんで亜紀に説明する。
「……というわけで、私は昨日初めて、病院から外に出ました。というか逃げてきたのです」
「は。マジ?」
「思い出せる限りでは、ですが」
「覚えているのは何歳くらいまで?」
「よくわからないのですが、7歳の頃にはそこにいたと記憶しています」
「今14歳なら少なくとも7年間か。それは大変だった、というかなんというか。いい言葉が思いつかんな」
「だからね? 凜霞ちゃんに海を見てほしかったの。でも、それでおしまいじゃなくて、もっといろんなものを見て欲しかったの」
「凜霞さん、どうなんだい。これで終わりにしてもいいのか?」
「良くないのかと言われても、私にはわからないのです。ふと海を見てみたいな、と思った。本当にそれだけなので」
「他にももっと……もっと。本当に色々なものがあるんだぞ?」
「もちろん外には知らないものがたくさんあるんだろうな、と思っていました。実際にこうやって宿に泊めて頂いて、お菓子まで頂いて。こんなに素晴らしい世界があるなんて、私、知りませんでした」
「それなら――」
「でも、それを言い出したら切りがありません。私がわがままを言えば言うほど周りの人を困らせるだけですから。だから、海を見られればそれでいいかな、と思っていました」
「凜霞ちゃん!」
みづきが震える手で凜霞の手を握る。凜霞はみづきを見つめ返しながら、無言でみづきの手を握り返す。
亜紀はテーブルに両肘をつき、二人の様子を伺いながら一言だけつぶやいた。
「今はどう思ってるんだ」
「今、ですか……みづき先輩が1人旅をする予定だった時間、その4日間を頂いて、一緒に旅をしてみようかな、と思っています。そして思い出を一杯にして、病院に帰ろうと思っています。ご迷惑でなければ、ですが」
「そんな、私は大丈夫だよ? 旅はいつでもできるから」
「いいえ、それは嘘です。わかりますよ、顔に書いてありますから」
みづきははっと目を見開いて、慌てて顔を覆い隠す。
凜霞はそんなみづきを見つめながら、くすりと小さく笑い、話を続ける。
「そう簡単に1人旅なんてできないのは私だって知っています。みづき先輩は何も感じていないのかもしれないですが、とても迷惑をかけているのはわかっているのです。それでも、もし私を許してくれるのなら。甘えさせてもらってもいいですか」
「いっぱい甘えていいよ。私、凜霞ちゃんのお姉ちゃんにだって、なるよ」
「姉、ですか。考えてもみませんでした」
「お母さんにもなれるよ?」
「いえ、そこまでは……やっぱり先輩くらいが丁度いいかもしれませんね」
納得がいかない表情のみづきと穏やかで澄ました表情の凜霞。
亜紀はそんな2人の掛け合いを少し離れて見ながら静かに微笑んでいる。
「残りは2泊かな。泊まるのはうちでいいにしても、明日はどこに行くつもりなんだ?」
「みづき先輩、明日の予定はどうなっていましたか」
「うん。明日はね、ホントは遊園地の予定だったんだけど……」
「どうかしたのですか」
「ほら、遊園地ってジェットコースターとかカートとかお化け屋敷とか。ドキドキするようなもの、多いでしょ?」
「ああ、それは……。お化け屋敷でみづき先輩と最後のお別れをするのは、流石に私も納得できません」
「うん。だから、どうしようかなぁ、って」
「……もし予定が立たないのであれば。私、少し気になることがあるのです。聞いてもらってもいいですか」
「いいよ。なぁに?」
「今日みづき先輩に、ご両親のお話をしていただきました。それで考えたのですが、私の両親は一体どうしているのでしょうか」
「お父さんとお母さん。会ったこと、ないの?」
「ありません」
「んー、入院費は誰かが払ってるはずだよな。保護者がいないなんてことはありえないと思うんだがなぁ」
「そうだとは思いますが」
「何か手がかりになるようなもの、ない?」
「それなんですが、先ほどぬいぐるみを見ていたときに……思い出したのです」
凜霞がポーチを開けて、中身を広げていく。ハンカチ、財布、薬、薬、薬、薬、薬……そして、小さなクマのぬいぐるみ。
「可愛い! これ……ん? 凜霞ちゃんの、家族、だっけ?」
「はい。私のベッドにある物はこれだけで、小さいので一緒につれてきました」
「いつからあったの?」
「わかりません。私が小さな頃から、ずっと」
「ちょっと触ってもいいですか? ふぅん。お手々、動くね」
「あたいも見ていいかな。うん、よくできてるね。ってこれ、手作り?」
「どうしてですか」
「まず、商品タグがない。で、縫い目が一定じゃない。手縫いだよ、これ」
「私の枕元に、手作りのぬいぐるみがずっと置いてあった。ということですか」
「プレゼントかな?」
「ありうるね。となると、まさか、もしかして……わるい、もう1回借りるよ」
亜紀がぬいぐるみを預かり、揉むように触り、凜霞に目を合わせる。
「何か、入ってるね。……ねえ、これ。糸を外してもいいかな」
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