オトナになれないみづきと凜霞の4日間逃亡生活

らんでる

文字の大きさ
31 / 53
第4章 商店街へ

朝ご飯

しおりを挟む
 みづきはぼんやりとしながらふらふらと動いていて、凜霞はその後を追うようにお供をしていて、亜紀はその間に手際よく配膳をしている。 
 机にはお茶碗、お箸、ご飯の入ったおひつが乗せられて、平皿の上にはすだちが添えられた焼き鮭、添え物の小皿にはカブのお漬物、そして保温容器には豆腐とワカメと豆麩が入ったお味噌汁。 

 2人が腰を掛ける頃には、食事の準備は整っていた。 

「はい、いただきます」 

 3人が声を合わせて食事を始める。 

 そして凜霞は箸を持ち、鮭をほぐして口に入れたところで、目を瞬かせてつぶやく。 

「あ、この鮭、すごく美味しいです。今まで食べたものとは味が全然違います」 
「だろ? ちゃんと市場で買ってきたやつ。親父は元漁師だから目利きは確かだよ」 
「漁師さん、だったんですか?」 
「あたいはあんま覚えてないんだけど、船を持ってたみたいなんだわ。で、その船の名前が『太郎丸』だったらしいんよ」 
「わかった! だからあのおっきいワンちゃんが太郎丸なんだ」 
「そー。2代目太郎丸なんだって」 

 みづきがお味噌汁をふーふーと息で冷まし、一口吸ったところで顔色がぱぁっと明るくなる。 

「うわ、お味噌汁おいしい! お味噌が違うのかな?」 
「味噌はうちのオリジナルブレンド。で、味噌汁を作ったのは、あたい」 
「えぇ! 亜紀さん、お料理できるんですか⁉」 

 亜紀がみづきに向けてニヤリと口角を上げながら、右手でVサインを作る。 

「いぇい。そうは見えねーだろ? だけどできるんだなぁ、これが。まあ、レパートリーは少ないけどな。ところでみづきは料理、できるんか?」 
「……お茶をいれる位、なら」 
「あん? それは料理なんか? お湯をわかせます、的な?」 
「わかしてないです。うちには電気ポットがあるので」 
「は。え? 何か作ったことないの、マジで? カップ麺とかは」 
「カップ麺……って、もしかしてお湯を入れるだけのやつ、ですか? ないです。お家には」 
「はぁ⁉ カップ麺がないとかおまえ、ブルジョアか?」 
「ぶるじょあ……? あ、お金持ちではないですよ。普通だと思います。なんで、ないのかなぁ」 
「もしかして、健康によくないとかってやつか? はー面倒くせぇ。んで、他に作れる物はねーの?」 
「料理はやっちゃダメ、って止められるんです」 
「マジかよ」 
「背がちっちゃいから。ガスコンロは危ない、って」 
「……おまえんち、結構大変なんだな」 
「そうなんですか?」 
「だから家出したんだろ? わかるわ」 
「家出? 1人旅ですよぉ!」 
「同じだよ。お、な、じ」 
「もしかして冗談ではなく『まじな話』ってやつですか?」 
「割とな」 

 みづきからは返答がなく、テーブルの方を見つめながら腕を組み、首が段々傾いていく。 

「というわけで、これでも食って元気出せ」 

 亜紀が何の脈絡もなく、赤くてふにゃっとした球体――梅干しを箸でつまんで、みづきの口に突きつけた。 

「え、ええ、梅干しはイヤです! み、みづき酸っぱいのは」 
「いいから食えぃ!」 
「はぅ。…………ん、あ、甘酸っぱくて美味しい⁉ どうして?」 
「これは梅の蜂蜜漬け、ちょっとしたデザートだよ。な、色々あるだろ? だから、おまえの家出……じゃなくて1人旅は、正解だったってわけ。まぁ、海で行き倒れるのは流石にヤバかったけどな。……そんなキミ達を救ってやったあたいにぃ、大感謝! しろよ!」 

 そんな亜紀のお仕着せがましい感謝の要求に、それぞれがそれぞれの言葉で返答する。 

「本当に申し訳ありません、ありがとうございました」 
「そ、そんなこと、家出娘に言われたくはありません! ……でいいですか?」 
「はいみづき、大正解! いいね。グッときたわ」 
「それでいいのですか……。私にはよくわかりません」 
「いいか? よーく覚えておけ。あからさまなボケでは、すかさずツッコミを入れないといけないんだ。そうしないと友達もできないし、会社なら即クビだ。先生に教えてもらっただろ?」 
「もしかして、だから私に友達ができなかったのでしょうか」 
「凜霞ちゃん……嘘だよ。そんなの、ないから」 
「あ、もしかして。今のもボケというものでしょうか」 
「これは鍛え甲斐があるねぇ……なんか身震いしてきたわ。うん、そういうこと」 

 亜紀はみづきに向けて拳を突き出し、親指を立てる。 
 みづきも亜紀の真似をして、お互いに親指を立てて示し合う。 
 凜霞はそんな亜紀とみづきをいじけているとも拗ねているともつかない据わった目線で見ている。 
 亜紀はそんな凜霞の頭をわしわしと撫でるが、凜霞はやはり納得がいっていないようで、その表情のまま身動きをしないで髪をかき回され続けていた。 

 そして亜紀はふと思い立った表情で、髪型が乱れまくった凜霞の頭から手を離し、ポケットに手を突っ込み、手のひら大のメモ用紙を取り出して机に置く。 

「あっ、そうそう思い出した。これ、今日の予定表な」 
「はい。ええと……ええ、と?」 
「どしたん?」 
「そ、その、ですね」 

 みづきがメモを取り上げて、徐々に顔に近づけて接触しそうな距離で見ているが、メモと首が段々と横にかしげていく。 

「あ、そう言えば。みづき先輩、目が――」 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

名もなき春に解ける雪

天継 理恵
恋愛
春。 新しい制服、新しいクラス、新しい友達。 どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。 そんな羽澄が、図書室で出会ったのは—— 輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。 その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。 名前を呼ばれたこと。 目を見て、話を聞いてもらえたこと。 偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと—— 小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。 この気持ちは憧れなのか、恋なのか? 迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく—— 春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。 帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、ほのぼの学園百合小説。 ♪ 野阪 千紗都(のさか ちさと):一人称の主人公。帰宅部部長。 ♪ 猪谷 涼夏(いのや すずか):帰宅部。雑貨屋でバイトをしている。 ♪ 西畑 絢音(にしはた あやね):帰宅部。塾に行っていて成績優秀。 ♪ 今澤 奈都(いまざわ なつ):バトン部。千紗都の中学からの親友。 ※本小説は小説家になろう等、他サイトにも掲載しております。 ★Kindle情報★ 1巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ 7巻:https://www.amazon.co.jp/dp/B0F7FLTV8P Chit-Chat!1:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H Chit-Chat!2:https://www.amazon.co.jp/dp/B0FP9YBQSL ★YouTube情報★ 第1話『アイス』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE 番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読 https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI Chit-Chat!1 https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34 イラスト:tojo様(@tojonatori)

処理中です...