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九章 静香の日記
絶命
しおりを挟む「はっ……はぁ、はっ」
狂ったように暴れて弾けた清三の肌は、ぬらぬらと汗に濡れている。荒々しく汚い呼吸音だけが、離れの一室に響いていた。ぽたぽたと清三の顎から落ちる汗とも、涙ともつかない液体は、彼が力尽きて、覆いかぶさった静香の胸の上を、滑り落ちていった。
全ての事が終わった静香は、脱け殻のようだった。局部には、まだ清三の印が入ったままであるというのに、もはや麻痺したように痛みも感じない開かれっぱなしの目から、惰性で涙が溢れた。
「……終わった、んだか?」
静香の乾燥した唇が紡ぐ。
「終わったんなら、どけてけれ」
涙に震える声で
「後生だ……清三、おら、行かねばなんねんだ」願う心からの想い。
勇のところへ、行きたい。強く、抱き締めてほしい。静香にとって今や、塵ほどの光は、勇だけだった。
さめざめと泣く静香の頬を、清三は手のひらで優しく包み込んだ。その手は、震えている。
「……せ、いぞ」
静香は、その時やっと、清三の様子がおかしなことに気がついた。どうしてこんなに優しいのだろう。どうしてこんなに震えているのだろう。あんなに嫌だと言ったのに、あんなに痛いと言ったのに、やめてくれなかった。
出逢った頃、清三はこんな人間だっただろうか。ただただ、無口な男子だったが、はにかむような笑顔を向けてくれたこともある。清三が変わったのはいつからだったか。十三の頃、接吻をするようになってからだ。静香を一目見て好いたと言ってくれた。
清三と出逢ってからの想い出が、まるで走馬灯のように流れる……肯定と打ち消しとが、交互に静香の頭を掠めた。清三は、静香と額を合わせて、今までにないほど穏やかに笑う。
「……静香、堪忍してけろや」
と、
「おら、めとはよ、もっとちげえ出逢い方してえかったや」と、清三は笑いながら涙を流した。
「清三、なして泣いて、んの」
静香が清三の頬に触れると、清三はとめどなく涙を落としながら言う。
「ああ……あったけえなあ。あったけえ……おらやっぱし、めが好きだど」
「さあ、終わりにすっぺ」
清三は、ぺちぺちと静香の頬を優しく叩き、上半身を起こして、馬乗りの格好をとった。
「もちっとの辛抱だ。堪えてけれよ静香」
そう呟いたかと思うと、清三は腹のあたりに寄り落ちたサラシから、切り出しの小刀を引き抜いて、あっという間に自身の首を掻き切ってしまった。最期の声はなく、ただ清三の首筋から勢いよく血が噴き出す。血飛沫が離れの部屋の至るところへ飛ぶ。
清三の顔は、脱け殻のように白くなり、やがて傷口からピュッピュッと二度、血液が飛び出て、清三は静香に覆いかぶさるように倒れ込んだ。切りつけた傷からどろどろと流れ来る血液を、その身いっぱいに浴びた静香は、今、目の前で何が起こったのか理解できない。
ただ目を白黒させながら、細く声を出した。
「……せ、いぞ?」
声は何も返らない。
「清三、なあ、清三ってば」
極限状態の中、何度も清三の名を呼んだ。温かな血液。急速に温もりをなくしていく清三の体。
「あああ……あ」
細かった静香の声は次第に、雄叫びと化していく。何もかもわからない。どうして、どうして。どうして、清三が。
疑問ばかりが沸いて、涙ばかりが溢れる。その頃、静香の叫び声を聞き付けたか、はたまた頃合いを見計らっていたのか……禎子が静かに部屋へ入ってきた。
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