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連載
♛閑話♛
しおりを挟む☆とある魔法師の嘆き
この世には、どうにも出来ない事がある。
それが今目の前の状況だった。
何度も何度も魔法をかけても状態が安定しない。ポーションを使っても回復しない。
正直、もう助からないと何度も思ってしまった。
国王ジールフィア様が「ワシが戻るまで、どうにかして持たせよ」との命令で、言われた通りにはしてはいるが……
「師団長、もう……」
「黙れ! 交代して休憩していろ」
代わりの魔法師が自分と入れ替わりで魔法を継続していく。
師団長も滝のように汗が出ている。
正直に「もう無理だ」と、どうして言わないのだろう?
ここまで酷いともう……
ジェンティーレ様も特別な方だと知っていますが、延命はもう意味がないかと。
どうにもならない状況に、自分はもう心が折れてしまった……
師団長がふらつきだした時、救護室の入口から物凄い魔力を肌に感じた。
カタカタと音が聞こえ、何の音だろう? と思っていたら、自分の足が震える音だと知った。
魔力を肌に感じることは殆どない。
魔法師なら強力な魔法を使った時に少し感じる程度だ。だが、今この感じる魔力は……
「待たせてすまんかった! 後はリーンに任せるから、皆少し離れとれ」
ジールフィア様の後ろから歩いてきた方の姿を見て、心臓が止まるかと思った!
ジェンティーレ様に魔法を行使していた仲間からも、驚きの表情が見えた。
魔法師団の中で、知らない人はいないだろう。ジールフィア様のお孫様のリーンオルゴット様のことを。
古に伝わる神が使用した魔法を使ったり、今までにない魔法を使う「魔法に愛されているお方」だ。
ジールフィア様がジェンティーレ様の状態をお伝えしている。
ほっとしたのも束の間で。
普段陰から見ていた愛らしい表情がない事に気が付いた瞬間、魔法を行使していたリーンオルゴット様の体から魔力が溢れだした。
ヒッと声にならない叫びが魔法師たちからも感じた。自分も同じように、息が止まるかと思うほど驚いた。
魔力を視覚で捉えることはない。魔力が見える者以外では。
自分は見ることが出来ない、にも関わらず見えているこの状況は恐怖でしかなかった。
魔力の暴走か⁉ とジールフィア様を見ると、何とも言えない表情をしておられた。
この子凄いじゃろ? とでも思っているんだろうなぁと、見てわかる程に崩れた表情をしておられるから。
「わわっ⁉」
部屋の中一杯に広がる魔力に、思わず声が出てしまった。
だが、この魔力に触れると感じるのは心地よい温もりだ。
「何でしょう、この……」
「凄い……」
部屋の中からは皆の驚く声が聞こえる。
ん? 体のだるさがない。
それに魔法を行使して疲労していた、あのだるさが……消えている⁉
ばっと顔を上げると、そこには信じられない光景があった。
なんてことだ‼
ジェンティーレ様が回復していく!
見る見るうちに今までと変わらない姿へと回復していく。
これは、奇跡としか思えない。
軽症者達がいる方からも傷が治っただの、消えただの声が聞こえているが。
ん? 消えた?
聞き間違いだったかな。
「奇跡ですね、師団長」
「口を開くな。ジールフィア様も後程話されると思うが、これは極秘項目に入る案件だ」
「はい」
師団長は今日も自分に厳しい……
ぎろりと睨まれて生きた心地がしない。
それにしても、さすがリーンオルゴット様だ。
そう思い、もう一度お姿を見ようとしたら――
「リーン⁉」
ジェンティーレ様のお声も聞こえたのか分からないほど、一瞬で視界から消えてしまわれた……
その後直ぐに意識を取り戻したジェンティーレ様が、ジールフィア様とお話をされている。
何やら声は聞こえないので、極秘の内容だと思いその場から離れた。
ベットの周りや散らかったポーションを片づけていたら、トスッと何かが落ちる音が聞こえそちらを見たら――
「リーン!」
「わーーーーん!」
いつの間にかお戻りになったリーンオルゴット様が。
一体何処にいたんだろう?
ふわりと微笑むと、倒れてしまった。
自分はあわてて救護室のベットへ寝かせようと抱き上げて感じた重さに、何故か涙が止まらなかった。
――軽い
こんなにも小さな体で、このお方は奇跡を起こしたのだ。
そう感じてはあふれ出る涙が止まらなかった。
この世には、どうにも出来ない事はある。だが……
そっとベットにリーンオルゴット様を寝かせて、少し離れて神へ祈る。
どうか神よ、リーンオルゴット様をお助けください。
自分は今日この日の為に魔法師になったような気がしてならない。
この日の奇跡を見る為に。
もう二度と折れない心を手に入れよう。
このお方の負担が、少しでも軽くなるように。
心にボッと炎が灯った気がした。
あぁ、自分も魔法師なのだと気が付き、ふうっと息を吐き出した。
心の中に「負けたくない」という炎が灯ってしまったのだ。
リーンオルゴット様から頂いたこの炎、二度と折れない心に変えて行こう。
自分はこの王国の治癒を担当する、魔法師なのだから――
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