彼の呪は密やかに紡がれる

ちよこ

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酒呑童子⑫

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『……残念だけど、
俺も安々と討伐されるわけにはいかない……』



正面には頼光、

後ろからは綱、

左右に金時と貞光、



四方から襲い来るのをようやくかわし、一歩飛び退くと季武が矢を放ってくる。
童子の反撃を許さない。


「晴明ッ!
あの者達を止めてくれッ!」



袖を千切らんばかりに引っ張り訴えるが、晴明は扇で顔を隠し、指一つ動かそうとはしない。
その間にも、童子の体にはかわしきれなかった傷が出来ていく。


「……無駄だと思うよ~?」


動作とそぐわない相変わらずの口調で貞光が言う。


「なんでそんなこと……!」

「まがりなりにも主上の命だ。
手助けをしちゃ、君主に背くことになる」


童子の太刀を避け、一歩退いた金時が口角を皮肉っぽく上げ、口を挟んだ。

梨花は反論する言葉を飲み込み、朱雀を見たが朱雀は悲しそうに首を振るばかりだった。


『……俺は晴明の式だ。
命がなきゃ手助け出来ない』



梨花の頬を涙が伝う。



「……命令がなんだ!
そんなものよりも大事な事があるだろう!」


梨花は袿を脱ぎ捨て、懐刀一つ持たずに白刃の中へと走っていった。
頼光達の手が一瞬緩む。


「……朱雀」



扇の影から舌打ちと、聞き逃してしまいそうなほど小さな声が聞こえた。
ほぼ同時に梨花のすぐ横を朱雀が通り抜けていく。
赤い後ろ姿を目で追う梨花。



『ったく、あんまり焦らすなよ』



冗談めかして言っているつもりなのだろうが、顔には安堵の色が浮かんでいる。
朱雀は一番手前にいた貞光に近寄るなり投げ飛ばした。



「……ッゲホッ!!……なに、ちょっと……」

「……晴明……?」

「……何をやっているのかわかってるんですか?」



皆、驚きの表情で晴明を見る。
勿論童子も動きを止めて晴明に顔を向けていた。



「なんとなく、だ」



口元で冷ややかに笑うと指を揃えて息を吹く。
すると、狐の尾を持った女童と男童がくるりと宙を舞い、現れた。



『朱雀以外を呼び出すなんて、変……』

『晴明様、かなりまずいです』



童は晴明に向け、にこりと笑うと綱達の方へと一飛びした。
四つ、五つくらいの外見からは想像もつかない素早い身のこなしと小太刀捌きを繰り出す。



女童は季武、

男童は金時、

朱雀は貞光、

童子は綱、



一対一、

本来ならば、きっと晴明の式の方が上だろう。
けれど、綱達には晴明の呪がかけられており、術は使えない。
拮抗し合う力。


「ハハッ、所詮狐は狐ってことなんだね~!」


息を荒げながらも貞光が軽口を叩くと朱雀がギロリと睨み、重い踏み込みを入れた。



『今の、聞き捨てならねぇな』



太刀が刃こぼれをしそうなほど強く擦れ、軋む。
汗を一筋流しながらも貞光は歯を見せて笑った。



「だって、人のふりしてるけど、結局はあっち側ってことでしょ?」

『……このッ!!』



朱雀の手に力が籠り、ぐぐっと太刀を押していく。


『晴明ッ!!』



朱雀が凄まじい剣幕で晴明を呼んだ。



『もうこいつら、殺してもいいだろっっ!?』

『そうです!
あんな契約守るの、馬鹿みたいです』

『……そうだよ、変』



式が皆、口々に言った。



──契約


それはこの世のどこにも居場所がなかった彼等に居場所を与える代わりに、晴明が呼んだとき、命じたときは従うこと。

人を殺めることは許さない。
式である彼等はその契約に縛られていた。



「……駄目だ」



小さく、けれどハッキリ言った。
朱雀は顔を歪め、叫ぶ。



『ちくしょう、ちくしょうッ!!』



力任せに貞光の太刀を払い、峰で打った。

血を流し、貞光がよろめくのと同時に近接戦が不得手な季武も投げ飛ばされ、地に打ち倒れてしまう。
助けに入ろうとした金時の気が一瞬散る。



『よそみしちゃ、駄目……』


男童の小太刀の峰が金時の頸椎を直撃し、かなりの衝撃を受けた金時は膝をつき、踞ってしまった。


綱は童子と辛うじて渡り合っているが、じりじりと形勢が逆転していく。



「梨花……、早くこっちに来い。
どちらも心配ない」


優勢を見てとった晴明は、今にも巻き込まれそうな位置にぼんやりと立つ梨花を呼んだ。
晴明の声に我に返ったのか、ビクッと肩を震わせ振り返る。



「晴明……ありがとう」



笑みを浮かべる余裕さえない梨花は、代わりに涙を一つこぼした。

震える指先を晴明に向けて伸ばし、晴明もまた梨花に向けて手を伸ばした。
触れ合う互いの指先。



けれど、

その指先は繋がれることなく、指先から滑り落ちた。
梨花の視界からゆっくりと晴明が崩れ落ちていく。


「……晴明殿、人数を数え間違いでもしましたか?
あなたにしてはなんと間抜けな……」


口元のみで笑う頼光。
その手には倒れゆく晴明の背から引き抜かれ、真紅に染まった太刀が握られていた。
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