レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~

古池ケロ太

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第3話 この世界で、君が守ると言ったから

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 路地裏に連れてこられた途端、後ろから蹴り飛ばされた。
 
「ぐっ!」

 前のめりに崩れ落ち、地面に這いつくばる。
 裏通りの突き当たり、囲い込むように高い塀が立ち並ぶ、小さな空間。
 塀に背中を預けた俺を、チンピラ3人衆がニヤケ面で見下ろしている。
 ……ストレスで死にそうだ。

「……俺、あんたらに何かしたっけ?」
「いやぁ、別に? ただ、おめぇの持ってる本をいただきたくてよォ」

 リーダーっぽいツンツンした金髪の男が、俺の手元の黒い本を指差す。
 これが何だってんだ?

「なんだよ、知らねぇのか? そいつは『黒の書』っつー伝説のアイテムさ」
「黒の書?」
「触れた人間同士を魂の鎖でつなぎ、片方の力を何万倍にも増幅して、もう片方に注ぎ込むんだよ。受け取った側は、バケモノじみた力を手に入れることになる。あのSクラスの嬢ちゃんみたいにな」

 ほー。太刀川のあのデタラメな能力値はそういうことだったのかよ。
 じゃ、実質俺の力で強くなったようなもんじゃねぇか。納得いかねぇ。

「ただし、魂の鎖でつながれた二人は、どっちかが死ぬと、もう片方も一緒に死ぬ。一蓮托生の呪いってやつだ」
「んだとお?」

 俺が死んだら、太刀川も死ぬってか?

「だったら勝手に持ってけよ。そんな物騒なもん、俺だって持っときたくねぇわ」
「それが、そういうわけにもいかないっショ。ヒヒッ」

 と、横から口をはさんできたのは、チンピラの2人目、エンピツみたいに細っこい体の男だった。

「黒の書と契約できるのは同時に2人だけっショ。他人が持ってても、ただの本にしかならねぇっショ。おめぇが契約したままじゃあ、オレらが困るっショ」

 ……「ショ」が気になってあんまり話が入ってこなかったが、ようするに、まっさらな状態にしてから本を奪いたい、と。

「……ちなみに、契約を破棄するには?」
「契約者が死ぬしかないらしいっショ。ヒヒッ!」

 おいおいおい。
 詰んでんじゃん、それ。

「ってことで兄ちゃん、ここで死んでもらうべさぁ。どこで手に入れたか知らんけど、運が悪かったべさぁ」

 チンピラの3人目、体重120キロは超えてそうなデカいハゲ男が、アホみたいな口ぶりで近づいてくる。
 やめろ、来るな。お前絶対クチ臭いだろ。

「べさぁ!」
「どあっ!」

 ハンマーみたいなパンチが俺の顔面を襲い、間一髪よけた俺の背後で、石の壁が木っ端微塵に砕け散った。
 うおーい、なんつー馬鹿力だよ!

「ショオッ!」

 甲高い声とともに、鋭い光が目の前を通り抜ける。
 エンピツ男が、手にしたナイフで俺の顔を切りつけにきたのだ。
 一瞬遅れて、頬に熱い痛みと、どろりと血の流れる感触――切られた。

「いってぇ!」
「ヒヒッ、そりゃ痛いっショ!」
「けんど、すぐに何にも感じなくなるべさぁ!」
 
 チンピラ2人はなおも俺を追い詰めてくる。狭い路地裏の空間、あっという間に袋のネズミだ。

 リーダー格の男が、勝ち誇った顔で笑う。

「ついてるぜぇ、俺たち。こんなガキがあの伝説の黒の書を持ってるなんてなぁ。こいつを闇市場で売れば、一生遊んで暮らせるってもんよ!」

 ジョーダンじゃねえぞ、この野郎。
 誰がお前らの年金のタネになるかよ。

 と心で毒づいてみたものの、反撃の手立てなんてありはしない。
 くそったれ、何がスローライフだ。
 異世界初日でこのザマかよ。頼むからブラウザバックさせてくれよ。

 デカブツが丸太みたいな腕を振りかぶり、ハンマーパンチを放とうとする。

 俺はぎゅっとまぶたを閉じた。

(あ~、『盆栽ジャングル』の新刊、最後まで読みたかったなぁ……)

 閉じた視界の向こうから死神の鎚が迫る。
 こうして俺の短い生涯はピリオドを――

 バシッ!

「え?」

 打たなかった。

 うっすら開いたまぶたの隙間。
 誰かが俺の前に立ちふさがり、デカブツの手首をつかんでいた。

 セーラー服の背中に、黒のポニーテールが揺れていた。

「……太刀川」
「星野君、大丈夫?」
 
 太刀川はこちらを振り向いて言った。

 その間も、その手はデカブツの腕をつかんだままだ。
 彼女の手首は相手の半分くらいの太さしかない。
 なのに、デカブツは1ミリたりとも手を動かせないでいる。

「ぎっ……こ、このっ……べさぁ…」

 苦痛に顔をしかめるデカブツと、表情一つ変えない太刀川。完全に力で圧倒している。

 見れば、太刀川の頬には、俺と同じ位置にナイフで切ったような傷があった。

「お前、その傷……」
「さっきの話、ちょっと聞こえた。たぶん、星野君の傷がアタシにもつくんだよ。魂がつながってるっていうのはホントみたいだね」

 陶器みたいな白い肌に、走る一本の赤い線。
 ズキンと胸に痛みが走ったのはなぜだろうか。

「こ、このアマ! べさぁっ!」
 
 デカブツが空いたほうの手で太刀川に殴りかかろうとする。
 しかしそれより一瞬早く、

「ふっ!」

 ドボオッ! 

 太刀川の拳がデカブツのどてっ腹に突き刺さった。

「げぼあっ!」

 デカブツの巨体がくの字に曲がり、1メートルも地面から浮き上がった。
 背中側に腕が突き抜けるかと思うようなデタラメな破壊力。
 変な液を吐き散らかしてデカブツが悶絶する。

 続いて、太刀川はつかんだ腕を引っ張り、ブン! と無造作に投げ飛ばした。

 もう一度言う。
 120キロを超える巨体を、片腕一本でブン投げたのだ。

 生ける飛び道具と化したデカブツの体は背後にいたエンピツ男にストライク。
 
「どぎゃあっ!」

 ボウリングのピンのごとく弾け飛び、壁に叩きつけられ失神KOだ。

「な、な……?」

 リーダーが後ずさる。
 が、そのときにはもう、太刀川はそいつを間合いにとらえていた。

「せやああっ!」

 気合一閃、右正拳。

「ごはあああっ?!」

 何かが爆発したとしか思えない音とともに、リーダーがブッ飛ぶ。
 トラックにはねられた方がはるかに幸せな速度で空中へと飛び出し、石の塀をぶち抜いて空の彼方に消えていった。

 あとに残ったのは、突き出した拳から白煙を吹き出させるSランク委員長と、尻もちついてそれを見つめるだけのFランク雑魚野郎(俺のことね)。

「……すご。ホントに強くなってる」

 太刀川は自分の拳を見つめて、びっくり顔を見せた。

「……めちゃ動けんじゃねぇか」
「子供の頃から空手やってるから」

 ほう、最近の空手は片手で人ブン投げろと教えるのか。親が泣くぞ。

「なんか、すごいことになっちゃったね。一蓮托生だって」
「……悪い。俺のせいでまきこんじまった」
「別に星野君のせいじゃないでしょ」
 
 太刀川はそう言って笑うと、頬から垂れた血を親指でピッと払ってみせた。
 ………コイツ、こんなカッコよかったっけ?

「ヘコんでるヒマがあったら、アタシを帰す方法探してよね。保証は無いなんて言わせないよ」
「お、おう」
「そのかわり――」

 地べたに座りこんだ俺の目の前に、力強く手が差し出される。
 見上げた先にある太刀川の、それはそれはイケメンな笑顔。

「星野君は、アタシが絶対に守るから」

 トクン、と胸の奥が跳ねた。

 ……いやいや、待て待て。
 逆じゃね? なんで俺がヒロインで、お前が主人公みたくなってんの?

 心の中では全力でツッコミを入れてたのに、跳ねる心臓が全部かき消していく。
 結局、俺はアホみたいな顔で太刀川の手を取っていた。

 ――今、俺は命のピンチで正気を失ってる。
 きっとそうだ。
 そうじゃなきゃ、こんなこと思うはずがない。

 一蓮托生の運命を背負い、元の世界へ帰る方法を探す。
 スローライフのスの字も見えそうにない、この先の物語を――

 ほんの少しだけ、楽しみだなんて。




――――――――――
【あとがき】
 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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