レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~

古池ケロ太

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第11話 守銭奴ぶりっ子魔法少女(3)

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「ぐっ!?」

 突然、喉元を何かにつかまれた。
 何が起こったか理解する間もなく、あお向けに地面へ叩きつけられる。

「愚か者には死を死を死を死を……」

 いつのまにか亡霊が俺の真上にのしかかり、その長く白い手で首を鷲掴みにしていた。
 ギリギリ、と骨がきしむ音が耳の奥で鳴る。全身が縫いつけられたように動けない。

「星野君!」

 駆け寄ろうとした太刀川は、しかし、その場で急に崩れ落ちた。

「……うぐっ! ぐっ……かはっ!」

 苦しそうに喉を押さえてもがく。

 魂の鎖ソウルリンク

 黒の書の呪いだ。
 俺が首を締められてるせいで、その痛みと圧迫感が、太刀川にもそのまま伝わっているんだ。
 太刀川本人が攻撃されてたなら、なんなく跳ね返せたろうに――なんてこった。

「た、太刀川……動けるか……?」
「だ……だめ……! 見えない力で絞められてるみたいで、全然っ……!」

 冗談じゃねぇ。このままじゃ、マジで二人とも死ぬ。

「そ、その手を放しなさいよ! この死にぞこない!」

 震える声の主はロキシィだ。
 杖を構え、やはり震える手で亡霊に突きつける。

「そんなんでも、一応わたしの仲間なんだから! 放さないと今度こそ消し炭にしてやるわよ!」

 だが、亡霊は動じない。

「欲深き者よ者よ者よ者よ。汝には撃てぬてぬてぬてぬ」
「脅しだと思ってんの? ほ、本気だからね!」

 亡霊は両腕を広げ、その薄い体内に取り込んだきらめく財宝の塊を見せつけた。

「汝が尊ぶは、絆にあらずらずらずらず。ただ、財、なりなりなりなり」

 ロキシィは図星を突かれたように目を見開き、一歩、二歩と後ずさった。

「ロ、ロキシィ……!」

 ロキシィの視線が、亡霊と地面に倒れる俺たちとの間を何度もさまよう。
 瞳の奥で仲間を助けたいという衝動と、亡霊の言葉が突きつける真実が、激しくぶつかり合っているのが見て取れた。

 幾度か唇を開きかけるが、言葉は出てこない。

 そして、まるで深く沈んだ場所から絞り出すかのように、彼女は呟いた。

「……お金が好きで、何が悪いの? お金がなけりゃ、何もできないじゃん。お母さんの薬を買うことだって……」

 荒い呼吸の合間から、胸の奥に秘めていた何かが堰を切ったようにあふれ出す。

「ずっと路地裏で暮らしてきた。臭くて汚くて、ネズミだって逃げ出すような場所で。お金のためなら何だってしてきた。ゴミ漁りでも盗みでも。お母さんには、お母さんにだけは死んでほしくなかったからっ……!」
 
 琥珀色の目から、涙がこぼれた。

「学校なんて行ったことない。拾った魔法書で必死に魔法を覚えて、ギルドに入って、Aクラスまで上がって、すごいダンジョンに挑めるようになって……やっと今、目の前に財宝があるのに! これでお母さんに、もう薬の心配はいらないよ、って言ってあげられるのに……!」

 その言葉は、自分自身に言い聞かせているかのようだった。

「撃てない……撃てないよ! 今しかないのにっ……! わ、わたしっ……!」
「いいよ、撃たなくて」

 ロキシィがハッとする。
 声の主は太刀川だった。
 
 地面に這いつくばり、息も絶え絶えなのに――その目だけはまっすぐロキシィを見ていた。

「アタシん家も貧乏だから……。……分かるよ、その気持ち……」
「ジュン……」
「撃ちたくなかったら、撃たなくていい。あなたの決めたことなら、アタシは責めない」

 ロキシィの瞳がかすかに揺れる。

 太刀川のヤツ、かっこつけやがって。
 そんなん聞かされたら、お前……
 俺もなんか言わなくっちゃだろうが。

「ロキシィ。お前……間違ってるぞ」

 ピクリ、と彼女の肩が震えた。
 その目が、おそるおそる俺を見返してくる。

「お金が好き、ってことが……?」
「違う。『今しかない』ってとこだ」

 息もままならないけど、でも、これだけは言ってやらなきゃならない。

「まだある。金儲けのチャンスなんて、これからいくらだってある。……俺がつき合ってやるよ」

 お前、本当は金のことばっか考えてるわけじゃないんだろ?
 泣きながら、迷いながら――それでも杖を下ろさなかったじゃねぇか。
 俺たちを見捨てられなかったからだ。
 そうだろ?

 ロキシィは袖で涙をぬぐい、ぐしっと鼻をすする。
 顔を上げたときには、あの強気な目が戻っていた。

「ば、ばーか! 誰があんたたちに同情してほしいなんて言ったのよ! 今のはロキシィちゃんへの感謝を10倍増にさせるための演出ってやつよ!」

 ビシィッと杖を構える。
 その手から震えは消えていた。

 俺の首にかかっていた力が、わずかに緩んだ。

「欲深き者よ者よ者よ……財を失うこと、悔やまぬかぬかぬかぬか」
「やっかましい! あんたは黙って灰になりなさい!」

 首を絞める力が完全に抜けた。
 亡霊が手を放したんだ。
 天井へ逃れようとするその影を、ロキシィの杖先が鋭く追い詰め、そして、

「クリムゾン・スクィーズ!」

 ドォンッ!
 轟音とともに放たれた爆炎が、螺旋を描いて亡霊を呑み込んだ。

「ヴォオオオオアアアアアッ……!」

 燃えさかる炎に巻かれ、亡霊の体はその腹に抱えた財宝ごと、音もなく霧散する。

 ――やがて、部屋の中に静寂が戻った。

「ゲホッ……だ、大丈夫か、太刀川……」
「う、うん……星野君こそ……」

 ふらつきながら立ち上がる俺と太刀川。
 その前で、ロキシィがぺたんとへたり込んだ。

「ジュン……タクミぃ……」

 潤んだ瞳でこっちを振り返り、ぽろっ、ぽろっ、と涙をこぼしはじめた。

 おうおう、そうか。
 芽生えた友情に感動して泣くとは意外と可愛いヤツめ。

 と思ったら。

「わだじのおだがらぁぁぁ~~!」

 だばー! と滝のような涙を流し、床に突っ伏した。

「そっちかよ………」


※※※

 古代遺跡からようやく抜け出し、俺たちはホッと一息――というか、大きなため息をついた。

「はぁ~、あんだけ苦労して、収穫はこれっぽっちかぁ……」 

 半分焼け焦げた布切れをかかげ、恨めしそうに見つめるロキシィ。
 王の衣類か何かが、かろうじて焼け残ったらしいが、どう考えても金にはならなさそうだ。

「黒の書の手がかりもなかったし、さんざんだったね……」
「ホントだな……」
「それよりタクミ。金儲けにつき合うって言ったの、忘れてないわよね?」 
「あ、ああ……」

 やべえ。
 その場の勢いで言ったセリフをきっちり覚えてやがる。
 こいつの性格的に、骨の髄までしゃぶられかねん。

「帰ったらちゃんと契約書、書かせるからね」 
「勘弁してくれよ……」

 泣きを入れる俺を見て、ロキシィはふいに口角を上げた。
 その琥珀色の瞳が、じっと俺の顔を見つめてくる。イヤな予感。

「ま、いいわ。口約束で許してあげる」
「はぁ……?」

 なんだそりゃ。感情の流れがまったく読めない。

 困惑していると、ロキシィは俺の正面に立ち、とんがり帽子を脱いだ。
 ピンクの三つ編みがふわりと揺れる。

 そして、突然背伸びをして、俺の首に腕を回してきた。

「? なんだよ、何するつも――」

 言いかけた俺の唇が、柔らかく温かい感触に塞がれた。

 一瞬、世界が止まった気がした。
  鼓動の音だけが、やたらと大きく響いて、その意味を理解した瞬間、頭の中が真っ白になった。

「な……!?」

 背後で、太刀川が息を呑む気配がした。

 唇を離したロキシィは、いたずらっぽくにやりと笑い、自分の唇をなぞった。

「これがホントの……口約束、なんてね」

 顔の皮膚が沸騰していくのが分かった。

「わたし、あなたのこと気に入っちゃった。とことん振り回してあげるから、覚悟しといてねぇ~~」

 手をひらひらと振りながら、ロキシィは鼻歌でも歌い出しそうな足取りで歩き出した。 

「星野君……」

 地の底から響くような声に振り返り、「ヒッ!」と、喉が引きつる。
 太刀川が世にも恐ろしい顔をしていた。

「……帰ろっか。もう、ここにいる理由もないし」

 無だった。
 表情がなんにもない。3Dモデルのデフォルト状態みたいな、遠くを見つめる顔。
 それがこんな恐怖を引き起こすとは初めて知ったよ、おっかさん。

「いや、あのさ、さっきのは別に――」
「わかってるよ。アタシなんて、別に特別でもなんでもないし」
「え?」
「ただのクラスメイトで、相棒で、一蓮托生で、元の世界に帰してくれるって約束しただけの関係だもんね? なーんにも特別じゃないもんね? あの子が何しようと、アタシにどうこう言う権利はないもんね?」
「恐い! 恐いよその皮肉のオンパレード! 怒ってくれたほうがずっとマシ!」
「怒る? なんで? あ~、星野君、アタシが嫉妬してると思ってるんだ。へぇ~。意外とナルシストなんだね。でも安心して? これっっっっっぽっちもしてないから。むしろ祝福してるから。どうぞお幸せに」

 一息に言い終えるや否や、太刀川はずんずん歩いていく。
 しかもロキシィと違う方向に!
 
「いやコレ、俺がどっちを追いかけるか試してるよな!? 死の踏み絵だよな!?」

 去ってゆく2人の背中を見つめ、どちらを追うこともできないまま、俺は天に向かって祈った。

 スローライフ……俺のスローライフを……返、して……


――――――――――
【あとがき】
 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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