レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~

古池ケロ太

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第20話 総てを塗り潰すモノ

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 開いたページの中心から、爆発的な勢いで漆黒の奔流が噴き出した。
 黒よりも濃い闇が、滝が逆流するように天へと渦巻きながら昇ってゆく。

 手の中の黒の書が、ビリビリと痙攣するように震える。
 俺は書を頭上に掲げて両手で支えた。
 それでも噴き出す奔流の圧力に、膝が崩れそうになる。
 
 そして、見上げた空の上――噴き出した闇が、形を持ちはじめた。
 うねり、ねじれ、収束し、やがてその輪郭が浮かび上がる。
 そいつは、その化け物の姿は――

「蛇……!」

 漆黒の大蛇だ。
 
 全長数十メートルにも及ぶ巨体が、空を割り、威容を放つ。
 ただデカいってだけじゃない。
 その黒さが異常だ。
 夜空の中でさえ、そこだけが塗り潰されたように見えるほどの完全な黒。
 光も、色も、すべてを拒絶するような――。
 
「なんだぁ、あの化け物はよぉ……」

 その場の全員が、呆然とその光景を見つめていた。
 クラボスクまでもが、俺たちへの攻撃を忘れ、見上げることしかできない。

 黒一色のその体の中で、ただひとつだけ異彩を放つ色――
 鋭く光る双眸と、裂けた口の奥が、血のような赤に染まっていた。

 その目がこちらをとらえた、その瞬間。

 ゴォッ!

 空気が裂け、黒い巨影が一直線に滑空してくる。

「!!」

 反射的に身をかがめ、地面に這いつくばる。

 そして、振り返った俺の目に――異様な光景が飛び込んできた。

「な……!」

 地面が消えていた。

 力で削られたんじゃない。
 大蛇が通り過ぎた部分だけ、巨大なスプーンでえぐり取ったように、ぽっかりと消滅している。

 大蛇はそのまま勢いを緩めず、通り沿いの家屋に突っ込んだ。

 屋根が――削れた。
 壊れたのでも潰れたのでもない。
 瓦礫も何も残らない。
 大蛇の胴体の形がはっきり分かる、美しいくらいの断面。
 それだけを残し、触れたところの物体すべてが消え去っていた。

 蛇はなおも暴れ回る。
 それは解放された歓喜に踊っているようにも、逆にもだえ苦しんでいるようにも見えた。

「な、なんだっ!?」「きゃああっ!化け物ぉ!!」

 住人たちが悲鳴とともに外へ飛び出してきた。
 
「危ない! 表に出るな!」

 叫んだのはアイギスさんだ。
 クラボスクに腹を蹴られて息苦しいだろうに、限界まで声を張り上げ、彼らを制止する。

「みな、家の裏手から逃げろ! 早く!」

 住人たちは恐れ戸惑いながら、次々と裏に逃げてゆく。

 大蛇はそれに目もくれず、無差別に周囲を削り取っていく。

「この……バケモンがぁ!」

 クラボスクは怒声とともに、地中から泥の刃を飛ばした。
 これまでとは比べ物にならない数と勢い、そして鋭さで大蛇を襲い、その胴体に突き刺さった。

 いや、『刺さった』は嘘だ。
 黒蛇の体に触れた刃は、直後、1本残らず呑み込まれてしまったからだ。

「な……!」

 大蛇は、攻撃の主に向かって頭をもたげ、一気に突進した。
 
 クラボスクは逃げない。
 道の真ん中に立ち尽くし、ただ向かってくる死の化身を見つめていた。
 その顔が驚愕から恐怖へ――そして狂気へと変わってゆく。

「……く、くくっ………くははっ……!」

 歯並びの悪い口を歪ませて、狂ったように笑う。
 
「これか……これかよ。ボスの言ってた、黒の書の本当の力ってのは。たしかにとんでもねぇ! 泥袋どもを全部消し去る力だ!」

 大蛇が口を大きく開いた。
 クラボスクはそれを迎え入れるように、両腕を広げた。

「食えよ、バケモノ! 俺を、俺の泥を全部食ってくれ! くくくっ、ひゃはははははは!」

 ばくん、と。

 大蛇の口が閉じ、泥男が消え去った。
 声も姿も――すべてが、この世から完全に。

 しかし大蛇はそれでも止まらない。
 狂ったように暴れ狂い、その身に触れるものすべてを呑み込んでゆく。

「止まれェ! いい加減に消えろ、このバケモン!」

 必死の叫びも虚しく響くだけ。
 それどころか、黒の書からは無尽蔵に黒い奔流――蛇の胴体があふれ出してくる。
 その圧に押しつぶされないようにするだけで、精一杯だ。

「タ……タクミ! な、なんとかならないの!?」
「ダメだ! こいつ、全く言うこと聞きやがらねぇ!」

 俺が呼び出したってのに、完全に制御不能だ。
 すでにあたりの家は半分くらい呑み込まれ、地面はえぐれてボロボロだ。
 このままじゃ、村長が言ってたみたいに、村ごと消滅しちまう。
 いや、それだけじゃ済まないかもしれない。
 こいつは、世界中すべてをその腹に収めるつもりだ。
 
 大蛇が天高く昇り、空で身をひるがえす。 
 鋭く反転し、そのまま急降下してきた。

 その先にいたのは――へたり込み、ただ上を見上げるだけの太刀川だった。

「っ! 太刀川! 逃げろ! 何やってんだ、逃げろ――ッ!」

 叫びながら、自分のバカさ加減が嫌になる。
 無理だ。
 脚を貫かれ、何度も蹴られたその体で動けるわけがない。
 それはアイツと傷を共有してる俺が、一番よく分かってる。

 大蛇が一直線に迫ってくる。

 絶望的な光景。
 音が消え、世界がスローモーションになった。
 太刀川が、俺を見てゆっくりと口を開く。
 感情の消えた顔に、一粒の涙を浮かべながら。

「――ごめんね」

 何が、だ。
 俺を巻き添えにして死ぬことにか。
 それとも――

「ぐ………ああああああ!!」

 理屈も、痛みも、のしかかる重さも関係ない。
 俺は黒の書を開いたまま突進し、太刀川にぶつかるように覆いかぶさった。

 ――イチかバチかだ。

 上に向かって黒の書をかざす。
 見開いたページに向かって、大蛇の鼻先が激突した。

「おおあああああ!!」

 腕が折れそうなほどの衝撃。
 それでも手は離さない。
 明滅する視界の中、蛇が頭から吸い込まれてゆく。

 そして――

 バンッ!

 すべてを呑み込んだ直後、黒の書が音を立てて閉じた。

「……がはっ!」

 力が抜けた。
 もう自分の腕すら支えていられない。
 震える両腕を地面に落とすと、黒の書が顔の横に落ちた。

 お、終わった……のか?
 
「ほ……し、の……くん……!」

 太刀川の消えそうな声が聞こえた。
 いや、俺の耳がおかしくなってるだけか。
 もう顔を振り向かせる力さえ残ってない。
 自分の体じゃないみたいに重くて、呼吸も苦しい。  
 視界は暗く、世界が遠のいていく。

 それでも、最後に願うのは一つだけだった。

 ――無事でいてくれ。

 そして、俺の意識は闇に呑み込まれていった。



――――――――――
【あとがき】
 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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