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第25話 反転の牢獄
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また、あの男が問いかけてくる。
『お前がそいつを守ってるのは――』
間近に顔を寄せながら、アタシが一番聞きたくない言葉をぶつけてくる。
『ただ、自分が死にたくねぇからじゃねぇのか?』
………!
『くくっ、図星かよぉ』
ち……違う!
『だったらなんですぐに否定しねぇんだぁ? 本音だからだろ?』
そうじゃない!
アタシは――アタシは、星野君を守るって約束したの!
だから――
『――そうだったのかよ、太刀川』
………え?
『俺を守るとか言いながら、結局自分の命が惜しかっただけなんだな』
ほし、の、くん……?
『見損なったわ。最低だな、お前』
ち、違うの、星野君。
お願い、聞いて。そんな目で見ないで。
ま、待って………お願い! 行かないで――
「星野君!」
――叫び声が、冷たい石壁に反響する。
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
荒い息が喉を焼く。
誰もいない。クラボスクも、星野君も。
(夢………)
まただ。
ここに来て、まどろみの中で何度も繰り返し同じ夢を見ている。
あのとき、黒の書から現れた巨大な黒蛇がアタシに襲いかかってきて――星野君がかばってくれた。
彼が倒れた後、アタシも引きずられるようにして意識を失い、気がついたらここにいた。
石の床と、冷たい鉄格子。じめじめと湿った空気が、肌にまとわりつく。
窓のない薄暗い部屋を、壁に取り付けられたロウソクがぼんやり照らしていた。
床に座ったまま腕を動かすと、じゃらりと鎖が鳴った。
両手首は、背後の壁から伸びた二本の鎖に繋がれていて、手を下ろすこともできない。
少し力を込めて引いてみる。
異世界に来てから強くなった――らしいアタシの力なら、切れたってよさそうなのに。
でも鎖は限界まで引き延ばされたところで、赤く光って、それ以上はびくともしなかった。
看守? みたいなおじさんたちが何人もアタシを遠巻きにして、ここは『反転の牢獄』だとか言ってた。
「その鎖はな、繋いだ人間のレベルが高ければ高いほど強固になるのだ!」
「つ、つまりレベル999のお前には、最高で最強の拘束具となるわけだ! 逃げようとしてもムダだぞ、まいったか!」
「はは~ん、ざ、ざまぁみろ! お前なんか、ち、ちっとも怖くないもんね! ベロベロバー!」
……だったら、なんで皆あんな逃げ腰で怯えた顔をしてたんだろう。まるで猛獣を囲うみたいに。
こんなことしなくたって、逃げる気なんてないのにな。
逃げたって、アタシには帰る場所はないんだから。
「星野君………」
どうしてあのとき、すぐに否定できなかったんだろう。
違うって思っていたのに、口に出せなかった。
たぶん、心のどこかで思っていたんだ。
もしかしたら、自分が死ぬのが怖かっただけかもしれないって。
そんな自分がいたかもしれないって。
でも、それを認めたら、星野君を守りたいって気持ちまで嘘になる気がして。
否定も肯定もできなくなって、ただ、黙ってしまった。
あのとき、星野君はどれだけ落胆しただろう。
情けなくて恥ずかしい。こんな自分を許せない。
もう、星野君に会えない――。
『お前がそいつを守ってるのは――』
間近に顔を寄せながら、アタシが一番聞きたくない言葉をぶつけてくる。
『ただ、自分が死にたくねぇからじゃねぇのか?』
………!
『くくっ、図星かよぉ』
ち……違う!
『だったらなんですぐに否定しねぇんだぁ? 本音だからだろ?』
そうじゃない!
アタシは――アタシは、星野君を守るって約束したの!
だから――
『――そうだったのかよ、太刀川』
………え?
『俺を守るとか言いながら、結局自分の命が惜しかっただけなんだな』
ほし、の、くん……?
『見損なったわ。最低だな、お前』
ち、違うの、星野君。
お願い、聞いて。そんな目で見ないで。
ま、待って………お願い! 行かないで――
「星野君!」
――叫び声が、冷たい石壁に反響する。
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
荒い息が喉を焼く。
誰もいない。クラボスクも、星野君も。
(夢………)
まただ。
ここに来て、まどろみの中で何度も繰り返し同じ夢を見ている。
あのとき、黒の書から現れた巨大な黒蛇がアタシに襲いかかってきて――星野君がかばってくれた。
彼が倒れた後、アタシも引きずられるようにして意識を失い、気がついたらここにいた。
石の床と、冷たい鉄格子。じめじめと湿った空気が、肌にまとわりつく。
窓のない薄暗い部屋を、壁に取り付けられたロウソクがぼんやり照らしていた。
床に座ったまま腕を動かすと、じゃらりと鎖が鳴った。
両手首は、背後の壁から伸びた二本の鎖に繋がれていて、手を下ろすこともできない。
少し力を込めて引いてみる。
異世界に来てから強くなった――らしいアタシの力なら、切れたってよさそうなのに。
でも鎖は限界まで引き延ばされたところで、赤く光って、それ以上はびくともしなかった。
看守? みたいなおじさんたちが何人もアタシを遠巻きにして、ここは『反転の牢獄』だとか言ってた。
「その鎖はな、繋いだ人間のレベルが高ければ高いほど強固になるのだ!」
「つ、つまりレベル999のお前には、最高で最強の拘束具となるわけだ! 逃げようとしてもムダだぞ、まいったか!」
「はは~ん、ざ、ざまぁみろ! お前なんか、ち、ちっとも怖くないもんね! ベロベロバー!」
……だったら、なんで皆あんな逃げ腰で怯えた顔をしてたんだろう。まるで猛獣を囲うみたいに。
こんなことしなくたって、逃げる気なんてないのにな。
逃げたって、アタシには帰る場所はないんだから。
「星野君………」
どうしてあのとき、すぐに否定できなかったんだろう。
違うって思っていたのに、口に出せなかった。
たぶん、心のどこかで思っていたんだ。
もしかしたら、自分が死ぬのが怖かっただけかもしれないって。
そんな自分がいたかもしれないって。
でも、それを認めたら、星野君を守りたいって気持ちまで嘘になる気がして。
否定も肯定もできなくなって、ただ、黙ってしまった。
あのとき、星野君はどれだけ落胆しただろう。
情けなくて恥ずかしい。こんな自分を許せない。
もう、星野君に会えない――。
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