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第30話 塔の上のタクミ姫
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こんばんわ。ワタシ、タクミ姫!
世界で一番かわいいお姫様なの。
それでね、それを妬んだ悪~いメイドに、高い塔に閉じ込められちゃった。
くすんくすん、チクショー!
でも大丈夫。ワタシには素敵な王子様がいるの。
そう。今にきっとジュン王子が助けに来てくれるわ。
得意の空手パンチでドゴン! バゴン! バギュルルルル! そんでもって――
「変な独り言はやめてもらえますか」
……と冷たくツッコんできたのは、扉の前の黒髪ボブカットメイド・リンだ。
俺は窓枠にもたれたまま、苦笑いで答える。
「や、ほら。なんか囚われのお姫様みたいなシチュエーションだな、って思ってさ。ラプンツェルみたいな」
「何を言っているか分かりませんが、とにかく気持ち悪いです」
心底おぞましいものを見るような冷たい目。
俺がそーゆー性癖の人だったなら、一発で陥落してただろう。危なかったぜ。
「そもそも助けなど来ません。何度も同じことを言わせないでください」
「そりゃどうかな。なんせアイツはクソ真面目だからな。約束を破るとは思えねぇよ」
「アイツ?」
「元の世界に帰してやる、って約束したヤツのこと。……そんとき、アイツも俺に約束したんだよ。俺のことを絶対に守る、って」
冷血メイドはじろりとこちらをにらみつけた。
「また『約束』ですか。懲りませんね、本当に」
「なんとでも言ってくれよ。……てかさ、あんたこそ、なんでそんなに約束って言葉に反応すんだ? ちょっと異常じゃね?」
希望を否定するだけなら、そこまでトゲのある言い方はしないはず。
約束ってワードに、なにか強い拒絶感がある。そんな気がした。
リンは深くため息をつくと、どこか遠くを見るように目を細めた。
「………私には、兄がいました」
「いた?」
「別に死んではいません。ただ、疎遠になっただけです」
少しの間、言葉を切る。
昔のことを思い出すみたいに。
「私たちはこの国の出身ではありません。ここからずっと東方の生まれです。幼いころ、内戦で両親を失い、故郷を追われて……兄と二人、流れ着くようにこの王都まで来ました。
この国では、私たちのような東方の人間は差別の対象でした。まして、親のいない子どもなど、何をされても、誰も助けてくれません」
「………」
「兄は、私を守ると約束してくれました。たった二人きりの兄妹だから、絶対に守ると。
兄は戦いの才能こそなかったけれど、とても頭が良くて、それでギルド監査局に入ることができました。
監査局の仕事は決して高給ではなく、暮らしは貧しかった。それでも、私は幸せでした。 兄は、約束を守ってくれた 。そう思っていました。
――あの日までは」
そこまで話したところで、リンはほんの少し、呼吸を止めた。
「私が家に一人でいたときです。突然、見知らぬ男たちが侵入してきて、私を暴行しました。
特に理由はありません。職を失った腹いせだったそうです。もっとも、私は何日も意識を失っていたので、すべて後から聞いた話ですが」
「………」
「意識を取り戻したとき、兄の姿はありませんでした。監査局の人から、兄が局を辞めたこと、居場所を私には決して知らせるな、と言い残したことを聞かされました」
「………」
「兄は、きっと、私が足手まといになったのです。兄のように賢くもなく、強くもない。暴力に屈するしかない弱い妹だから――捨てた」
「………」
「それから、私は戦いのスキルを磨きました。信じられるのは自分だけだと、痛いほど思い知らされたから」
「……」
「その後、兄がギルドに入ったと聞きました。そこでの待遇は監査局よりも良いそうです。
………許せなかった。私を捨てて、監査局を裏切って、自分だけ安全で心地よい場所に逃げた兄が、許せなかった。
だから、私は死に物狂いで努力して監査局に入りました。
兄とは違うことを証明するために。私は逃げない、裏切らないと証明するために」
ふぅ、と大きく息をつく。
「……どうですか。約束などというのは、このように都合が悪くなれば簡単に破られるものです。そんなものに運命を預けるのは、愚かではありませんか?」
半生を語り終えて、そこで得たものを俺に問いかけてくるリン。
そんな彼女の話を聞いて――俺は。
「ぐう……」
「………まさか寝てますか?」
………ハッ? いかんいかん。
「や、起きてまひふぁよ? ふああふふ(あくび)」
「分かりました。刺しますね」
チャキ、とアイスピックを構えて近づいてくるリン。
いかん、誤解を解かなければ!
「いや、違うって! ただ、ろくに寝てないのに、長い話されて眠くなっちゃっただけだって!」
「なるほど、では殺しますね」
「状況悪化した!? ってか、裁判まで殺さないんじゃなかったっけ!?」
「はぁ……もういいです。愚かな貴方に理解してもらおうと思った私が、一番愚かでした」
リンは呆れ顔でアイスピックをしまった。
さすがに寝たのはまずかったか……。
でも、まぁ、とりあえず分かったのは。
「兄貴のこと、まだ好きなんだな」
「――?」
リンは大きく目を見開いた。
鉄面皮が初めて破れた瞬間だった。
「おお、あんたでもそんな顔するんだ」
「な、何を根拠にそんなことを……」
「いや、嫌いなやつのこと、こんな長く話さないでしょ」
「……!」
「だから本当は約束、まだ守ってほしいと思ってんじゃないかな~、と」
「ろ、ろくに話も聞いていないくせに、何を勝手な……っ!」
リンが顔を赤らめ、声を荒げたそのときだった。
窓の外から、わずかな気配を感じた。
俺は窓を開け、眼下の街並みを見下ろした。
「……来たぜ」
「……何がですか?」
「決まってんだろ。白馬の王子様だよ」
塔の真下。細い道を疾風のように駆けてくる影。
待ち望んでいた、その姿。
ジュン王子は塔の上の俺を見つけると、必死の顔で叫んだ。
「星野君っ!!」
思わず、笑みがこぼれた。
囚われのお姫様ってのは、こういう気持ちなのか。
キュンときちまったじゃねーかよ。
世界で一番かわいいお姫様なの。
それでね、それを妬んだ悪~いメイドに、高い塔に閉じ込められちゃった。
くすんくすん、チクショー!
でも大丈夫。ワタシには素敵な王子様がいるの。
そう。今にきっとジュン王子が助けに来てくれるわ。
得意の空手パンチでドゴン! バゴン! バギュルルルル! そんでもって――
「変な独り言はやめてもらえますか」
……と冷たくツッコんできたのは、扉の前の黒髪ボブカットメイド・リンだ。
俺は窓枠にもたれたまま、苦笑いで答える。
「や、ほら。なんか囚われのお姫様みたいなシチュエーションだな、って思ってさ。ラプンツェルみたいな」
「何を言っているか分かりませんが、とにかく気持ち悪いです」
心底おぞましいものを見るような冷たい目。
俺がそーゆー性癖の人だったなら、一発で陥落してただろう。危なかったぜ。
「そもそも助けなど来ません。何度も同じことを言わせないでください」
「そりゃどうかな。なんせアイツはクソ真面目だからな。約束を破るとは思えねぇよ」
「アイツ?」
「元の世界に帰してやる、って約束したヤツのこと。……そんとき、アイツも俺に約束したんだよ。俺のことを絶対に守る、って」
冷血メイドはじろりとこちらをにらみつけた。
「また『約束』ですか。懲りませんね、本当に」
「なんとでも言ってくれよ。……てかさ、あんたこそ、なんでそんなに約束って言葉に反応すんだ? ちょっと異常じゃね?」
希望を否定するだけなら、そこまでトゲのある言い方はしないはず。
約束ってワードに、なにか強い拒絶感がある。そんな気がした。
リンは深くため息をつくと、どこか遠くを見るように目を細めた。
「………私には、兄がいました」
「いた?」
「別に死んではいません。ただ、疎遠になっただけです」
少しの間、言葉を切る。
昔のことを思い出すみたいに。
「私たちはこの国の出身ではありません。ここからずっと東方の生まれです。幼いころ、内戦で両親を失い、故郷を追われて……兄と二人、流れ着くようにこの王都まで来ました。
この国では、私たちのような東方の人間は差別の対象でした。まして、親のいない子どもなど、何をされても、誰も助けてくれません」
「………」
「兄は、私を守ると約束してくれました。たった二人きりの兄妹だから、絶対に守ると。
兄は戦いの才能こそなかったけれど、とても頭が良くて、それでギルド監査局に入ることができました。
監査局の仕事は決して高給ではなく、暮らしは貧しかった。それでも、私は幸せでした。 兄は、約束を守ってくれた 。そう思っていました。
――あの日までは」
そこまで話したところで、リンはほんの少し、呼吸を止めた。
「私が家に一人でいたときです。突然、見知らぬ男たちが侵入してきて、私を暴行しました。
特に理由はありません。職を失った腹いせだったそうです。もっとも、私は何日も意識を失っていたので、すべて後から聞いた話ですが」
「………」
「意識を取り戻したとき、兄の姿はありませんでした。監査局の人から、兄が局を辞めたこと、居場所を私には決して知らせるな、と言い残したことを聞かされました」
「………」
「兄は、きっと、私が足手まといになったのです。兄のように賢くもなく、強くもない。暴力に屈するしかない弱い妹だから――捨てた」
「………」
「それから、私は戦いのスキルを磨きました。信じられるのは自分だけだと、痛いほど思い知らされたから」
「……」
「その後、兄がギルドに入ったと聞きました。そこでの待遇は監査局よりも良いそうです。
………許せなかった。私を捨てて、監査局を裏切って、自分だけ安全で心地よい場所に逃げた兄が、許せなかった。
だから、私は死に物狂いで努力して監査局に入りました。
兄とは違うことを証明するために。私は逃げない、裏切らないと証明するために」
ふぅ、と大きく息をつく。
「……どうですか。約束などというのは、このように都合が悪くなれば簡単に破られるものです。そんなものに運命を預けるのは、愚かではありませんか?」
半生を語り終えて、そこで得たものを俺に問いかけてくるリン。
そんな彼女の話を聞いて――俺は。
「ぐう……」
「………まさか寝てますか?」
………ハッ? いかんいかん。
「や、起きてまひふぁよ? ふああふふ(あくび)」
「分かりました。刺しますね」
チャキ、とアイスピックを構えて近づいてくるリン。
いかん、誤解を解かなければ!
「いや、違うって! ただ、ろくに寝てないのに、長い話されて眠くなっちゃっただけだって!」
「なるほど、では殺しますね」
「状況悪化した!? ってか、裁判まで殺さないんじゃなかったっけ!?」
「はぁ……もういいです。愚かな貴方に理解してもらおうと思った私が、一番愚かでした」
リンは呆れ顔でアイスピックをしまった。
さすがに寝たのはまずかったか……。
でも、まぁ、とりあえず分かったのは。
「兄貴のこと、まだ好きなんだな」
「――?」
リンは大きく目を見開いた。
鉄面皮が初めて破れた瞬間だった。
「おお、あんたでもそんな顔するんだ」
「な、何を根拠にそんなことを……」
「いや、嫌いなやつのこと、こんな長く話さないでしょ」
「……!」
「だから本当は約束、まだ守ってほしいと思ってんじゃないかな~、と」
「ろ、ろくに話も聞いていないくせに、何を勝手な……っ!」
リンが顔を赤らめ、声を荒げたそのときだった。
窓の外から、わずかな気配を感じた。
俺は窓を開け、眼下の街並みを見下ろした。
「……来たぜ」
「……何がですか?」
「決まってんだろ。白馬の王子様だよ」
塔の真下。細い道を疾風のように駆けてくる影。
待ち望んでいた、その姿。
ジュン王子は塔の上の俺を見つけると、必死の顔で叫んだ。
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思わず、笑みがこぼれた。
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