レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~

古池ケロ太

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第43話 魔鉱列車起動せよ(4)

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 というわけで、俺たち三人は鉱山にやってきた。

「ここか……ほんとに廃坑だな」

 目の前には、ぽっかりと黒い口を開ける坑道の入り口。
 岩肌はところどころ崩れ、入口を囲う木枠はすっかり朽ち果てていた。

「モンスターの巣になっちまってから、何十年も採掘されてねぇからな。手入れしねぇとボロくなるのは、列車も坑道も、人も一緒だな」

 ヨギじいさんは鉱石を掘り出すため、腰にハンマー、肩にツルハシと、炭鉱夫そのものの出で立ちだ。

「それよりおめぇら、本当に黒の書の契約者なんだろうな? フカシだったらタダじゃおかねぇぞ」 
「ま、それはこれから見てもらえれば」
「だから何で星野君が自慢げなの?」

 戦うのはアタシなのに……と、ぶつくさ漏らす太刀川。それを言われたら、ぐぅの音も出ないな。

「まぁいい、ついてきな」

 じいさんは手にしたランタンに火を灯し、坑道の中へと足を踏み入れる。
 俺たちもその後に続いた。

 足を踏み出すたび、湿った床がぬかるむような鈍い音を立てる。
 鼻をつくのは、石炭とカビが混ざったような、じっとりとした空気の匂い。
 壁面には古びたランプの台座や、壊れた木製の手押しトロッコ。
 錆びついたレールが歪み、岩にめり込んだまま放置されている。

「この壁に埋まってる石が魔鉱石なんですか?」 「馬鹿ぬかせ、そいつはただの岩だ。魔鉱石はもっと奥の方だ」

 そう言って、じいさんは、迷う素振りも見せずにすいすいと坑道を進んでいく。
 ランタンのぼんやりした明かりの中、道は曲がりくねり、分かれ道もいくつかあるのに、その足取りには一分の迷いもない。

「すごいですね、おじいさん。全部の道を知ってるみたい」
「みたいじゃねぇ、知ってんだよ。ガキの頃、ここには親父に連れられてよく魔鉱石を取りに来たもんさ。俺っちにしてみりゃ庭みてぇなもんだ」
「でも、数十年も前の話だろ?」
「関係ねぇよ。この坑道のことなら、街の誰よりよく知ってらぁ。魔鉱列車のこともな」

 ふん、と鼻を鳴らすと、八の字型のヒゲが揺れた。

「ここで採れた魔鉱石が魔鉱列車を動かして、遠くの街へ人とモノを運んでいった。そうしてこの街は発展してきたんだ。今の若いヤツらはそんなことも知らねぇで、あの列車をガラクタ扱いしやがる。こんなバチ当たりな話があるかよ」

 ランタンの光に照らされたじいさんの瞳には、隠しきれない悔しさがにじんでいた、

「……けどな、俺はまだ諦めちゃいねぇ。あの列車はまだ走れる。魔鉱石さえありゃ、火は入る。毎日そう信じて整備してきたんだからな」
「おじいさん……」
「もう一度だけでいい。俺はあいつを思い切り走らせてやりてぇ。そうでなきゃ、死んでも死にきれねぇ」

 俺はじいさんの寂しげな顔をじっと見つめた。

「……ちょいとしゃべりすぎたな。ほら、着いたぜ」

 坑道はぽっかりと広がった空間へと抜けた。
 かつては賑わっていたであろう採掘場――だが今は、途中で放棄されたままの無残な静けさだけが残る。
 壁面には錆びついたツルハシが突き刺さり、散らばった道具や折れた台車が転がっている。

 その一角、他の岩とは明らかに違う紫色の石が、ぼんやりと淡い光を帯びて埋まっている。

「あいつが魔鉱石だ。どういう幸運か知らねぇが、モンスターには出くわさなかったな。さっさと採っちまおうぜ」

 ヨギじいさんがそう言って足を踏み出した、そのときだった。

「! おじいさん、下がって!」

 太刀川が切迫した声でじいさんの腕を引く。  次の瞬間、天井の闇から、巨大な影が降ってきた。

 ドォォン――!

 大地が揺れるほどの衝撃とともに、目の前に現れたのは――

「うおっ! く、蜘蛛!?」

 全長四メートルはあろうかという異形の蜘蛛だった。

 漆黒の甲殻、鋭く節くれ立った八本の脚は岩をえぐり、体全体を覆う灰色の剛毛が不気味に波打つ。
 腹部はぷっくりと腫れ上がり、無数の赤い複眼がこちらを睨み据えている。
 口元の大顎からは、糸混じりの粘液がしたたり落ち、岩をじゅうっと腐食させていた。

「キングスパイダーだ! 昔、討伐隊が三十人がりで挑んで、一人も戻ってこなかったバケモンだ!」

 じいさんの叫びが広間に響いた。

 だが――あいにくこんな相手、ウチの最強チートにとっちゃ、敵じゃない。

「やっちまえ、太刀川! ワンパンで頼むぜ!」

 そう声をかければ、「まかせて」と頼もしい返事が返ってくる――はずだった。

「……太刀川?」

 太刀川は大蜘蛛の前で微動だにしない。
 というか、背中が小刻みに震えているような……?

「や……やだ……」
「へ?」
「やだやだやだやだ! 虫! 虫はやだ――っ!」

 絶叫とともに、最強チート様は俺の背後に飛びついて隠れなさった。

「お、おい!」
「ダメなの、アタシ! 虫だけは絶対、絶対に無理!」
「なんだとぉ!?」

 そんな女の子みたいな(失礼)設定、今持ち出してきます?

「逃げよう、星野君! 今! すぐ!」
「ちょ、待てって! ここまで来て逃げるって……おうい!」

 俺の声なんざ聞こえちゃいねぇ。
 太刀川はポニーテールを振り乱し、元来た道へ駆け出した。

 だが――

「きゃあああああああぁ――!」

 いつの間にか背後に忍び寄っていた巨大ムカデが、その行く手を塞いだ。 
 坑道中に響き渡る、絞り出すような悲鳴。
 こんな太刀川、初めて見た。

 そして悪夢は終わらない。

「げっ!」

 どこに隠れていたのか、次々と湧き出る虫型モンスター。イモムシ、ゲジゲジ、足の多いもの、毛むくじゃら……気味の悪いヤツのオールスターだ。
 Gのつくヤツがいないだけまだ救いかもしれないが、悠長なことを考えてる暇はない。

「ひううっ! やっ、やだ、来ないで! いや、やだぁ! 助けて、星野君! いやあああああ!」

 太刀川は俺の袖にしがみつき、泣き叫ぶ。 
 完全に戦意喪失してやがる。
 これ、もしかして過去最大のピンチじゃないか?

「おい、若造ども! 何とかしやがれ!」
「期待に応えたいのはやまやまなんですがね! 事情が変わっちゃったもんで!」

 じりじりと間合いを詰めてくる虫たち。
 そして――一斉にこちらへ飛びかかってきた。

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