レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~

古池ケロ太

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第49話 名も無き影(4)

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 倒れたシャドウを魔鉱列車の客車に運んでから、しばらく。

 長椅子を改造したベッドの上で、フード野郎――いやフード女が、ぱちりと目を開いた。

「よう。起きたか」

 薄紅の瞳が、ゆっくりとあたりを見渡す。
 居住空間に改造された客車の中。俺は椅子に腰掛け、背後には太刀川とヨギじいさん。

 身をよじろうとした彼女はすぐに違和感に気づいて自分の手を見た。
 黒衣の袖口から覗く手首は、縄でしっかりと縛られていた。

「また影で襲われたらシャレにならねーからな。悪く思うなよ」

 ちなみに縛り方は、ラノベ『異世界縄師~転生したら縛りプレイ特化ジョブだった件~』から得た知識を応用。
 実践は初めてだったが、やたら上手くいったおかげで太刀川に「普段から……そういうのやってるの?」とドン引きされた。才能って怖いね。

「それで、あなた……何者なの?」

 おずおずと尋ねる太刀川。
 だがシャドウは、天井を見つめたまま沈黙する。

「あの黒ヒゲどもの仲間か?」

 問いかけても、赤い瞳は微動だにしない。
 感情が抜け落ちたような無機質な顔で、ただ虚空を見つめ続ける。
 だんまりかよ、と思ったそのとき、

「……わからない」

 小さな唇が、ようやく動いた。

「わからない?」
「私、自分が誰なのかわからない。気がついたら、オアシスのそばで倒れてた」

 記憶喪失ってやつか。

「覚えていたのは、スキルの使い方だけ。黒いヒゲの人たちは、それを見て“仲間になれ”って言ってきた。協力すれば、私の行きたい場所に連れて行ってやるって」
「行きたい場所?」
「……魔導図書館」

 俺と太刀川は、顔を見合わせた。

「そこに行けば、私の記憶を取り戻せる……どうしてかはわからない。でも、それだけは頭に強く残ってる」
「ピンポイントな記憶喪失だな、おい」
「そりゃおめぇさん、都合よく利用されたんだよ。キャラバン狙いの盗賊どもが、東の果ての図書館まで連れてってくれるわきゃあねぇだろうが」
「そうなの?」

 シャドウはビー玉のように澄んだ瞳で首をかしげた。
 冷たい人形みたいなヤツだと思っていたが、こうしてみるとただの世間知らずな子供に見える。
 なるほど、こりゃ簡単に騙されるわ。

「そう……ごめんなさい。あなたたちに、ひどいことを」
「それよか、あんた、これからどうするつもりなんだ?」
「……わからない。私、何も覚えていない。帰る場所も、家族も。全部」

 淡々とした声。なのに、その無機質さがかえって孤独を際立たせる。
 そこで太刀川がおずおずと口を開いた。

「あの、さ。実はアタシたちも、魔導図書館を目指してるの。よかったら……一緒に行かない?」

 おいおいおいおい。

「何勝手に決めてんだよ」
「だってかわいそうでしょ。このまま砂漠の真ん中に置いていくっていうの?」
「こいつの言うこと真に受けんなよ。さっき俺たち殺そうとしたんだぞ」
「それは盗賊に騙されただけじゃない。――ねぇ、おじいさん、別にいいでしょ?」
「俺ァどっちでもいいけどよ。ただ寝床はどうすんでェ?」
「あ……」

 たしかに客車にベッドは一つだけ。
 もともとヨギじいさんの一人暮らし仕様だから、残りは長椅子にシーツをかけた簡易ベッドだ。これ以上はどうにもならない。

「それなら、問題ない」

 シャドウが身を起こし、すっと足を床につけた。

「おい、妙な真似すんな!」

 制止する間もなく、彼女の姿はすぐそばの太刀川の影にふっと溶け込んだ。

「……!?」

 俺たちが凍りついたところへ、影の中から無機質な声が響く。

「影潜り。人の影に潜り込むスキル。ここなら眠れる」
「おお……」

 そういえば最初に会ったときも、こいつは黒ヒゲの影から出てきたっけ。

 シャドウは影からゆっくり浮かび上がり、太刀川の顔をちらりと見た。

「でも、あなたの影は居心地が悪い」
「い、居心地……?」
「堅苦しくて、息苦しい。眠れない」
「な……」

 太刀川が絶句する。俺はこらえきれずに吹き出した。

「星野君!」
「ぶははっ、悪い悪い。カタブツ委員長は影までカタいんだってさ」

 影に性格が反映されるのかよ。こいつに性格診断とかさせたら稼げそうだな。

「じゃ、次はあなた」

 シャドウは今度は俺を見て、許可もなく潜り込んできた。

「ちょっ!?」

 痛みも違和感もない。ただ、何されるかわからない不気味さだけが残る。
 しばらく返事がなく、不安になって「おーい……?」と声をかけたとき、影から白髪の少女がすっと浮かび上がった。

 赤い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。

「な、なんだよ……?」
「好き」
「は!?」
「あなたの影、好き。外は冷たいのに、中はあったかい。安心する」
「お……」

 まるで告白みたいな台詞に固まる俺。
 さらに追い打ちをかけるように、シャドウはそのまま俺に抱きついてきた。

「ちょっ、や、やめろって!」
「あなたと一緒がいい」

 恐る恐る後ろを振り返ると――太刀川の顔は案の定、無だった。
 能面のような無表情で、平坦な声を投げてくる。

「いいんじゃない、連れていけば。星野君がそうしたいなら。星野君がそうしたいなら」
「なんで二回言った?」

 てか最初に「一緒に行こう」って言い出したのお前だろ!?

 ぎゅっと抱きしめて離そうとしないシャドウ。
 俺は仕方なくため息をつき、
 
「お前、名前はなんてんだ?」
「シャドウ」
「ホントにそんな名前なのか?」

 白髪の少女はふるふると首を振り、

「黒ひげの人がスキルからつけた。本当の名前は――わからない」
「自分の名前もかよ」
「だったら若造、おめぇがつけてやったらどうでェ?」

 ヨギじいさんが無責任に口をはさんできた。

「なんで俺なんだよ?」
「女の子にシャドウなんて暗い名前じゃ気の毒だろうが。しかも、おめぇにベッタリ懐いてんじゃねぇか。名前ぐれぇ考えてやんな」

 頭をかきながら、俺は苦し紛れにひねり出した。

「そんなら……シャロンってのはどうだ?」
「シャロン?」
「ほら、シャドウと響きが似てるだろ」

 安直すぎる気もするが、秒で考えたんだ、大目に見てくれ。

 「シャロン……」と少女は口の中でその名を転がし、

「うん、わかった」

 と頷いた。
 気に入ったのかどうなのか分からんが、ま、仮の名前だしな。

「俺は、星野拓海だ」
「アタシは太刀川潤。よろしくね」
「タクミ、ジュン……」

 シャドウ改めシャロンは、無垢な声で復唱する。

「俺っちも忘れるなよ。ヨギってんだ」
「ジイサン……」
「なんで俺っちだけじいさん呼ばわりなんでェ?」

 俺と太刀川の笑い声が車内に響いた。
 まぁ、旅は道連れってことで、いいとするか。

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