メジャーリーガー珠姫

古池ケロ太

文字の大きさ
11 / 39
1st GAME

11th inning : Do you wanna win the title so much?

しおりを挟む
 考えられない打球の軌道をまだ目で追いながら、ドビーも開いた口がふさがらない。

(あ、あのボール球にバットが届くのか……? いや、それより……)

 あの光球を。
 モントレーのスイングを弾き返し、審判もろとも自分をぶっ飛ばした、クレイジーとしか表現のしようがないボールを、いとも簡単に打ち返した。

 状況を考えれば、喜ぶべきだろう。
 だが、それよりも戦慄が走り抜けた。
 何度も対戦してきた相手だが、これほどのパワーを持っていたとは――まさにモンスターだ。

「! どびーサン!」

 マウンドから珠姫の声が飛び、ドビーは我に帰った。
 と同時に、

「うおっ?!」

 いきなり地面の感覚が消えた。

【な、なんだァ?】

 観客席が再びのどよめきに包まれる。
 バズワルドが、突然ドビーの胸ぐらをつかみ、その体を持ち上げたのだ。

「や、野郎……っ! 何しやがるっ!」

 外そうともがくドビーだったが、あのモントレーを片腕でリフトアップした怪力だ。とうてい抜けそうにない。

 両軍のベンチ陣が一斉に立ち上がり、審判も「何をしている!」と怒声を上げる。
 だが、バズワルドはそれらに目もくれず、地の底から這い上がるような声をドビーに向けるのだ。

「そんなにタイトルが欲しいか、ドビー?」
「な、なに?」

 ポーラベアの顔は、憤怒に燃え盛っていた。

「俺にバットを振らせまいってつもりだろうがな、そうはいかねぇ。勝負しろ、黒いチキンが」
「何をワケの分からないことを言ってんだ、放せてめぇ!」

 足をバタつかせるドビー。
 モントレーに続いての暴挙に、スタジアムはブーイングの嵐だ。

「やめんか、バズワルド! 退場処分にするぞ!」

 主審が声を張り上げると、ポーラベアは舌打ちとともにようやくドビーを放り捨てた。

「ザコが……黙って打たれてりゃいいんだよ」

 吐き捨てて、打席から離れてゆくバズワルド。

 もちろんそのまま試合再開というわけにはいかない。
 ホーム周辺は両軍ベンチから出てきた選手とコーチたちで、もみ合いになっていた。
 さらなるブーイングの中、審判がタイムを宣言し、事態を収めにかかる。

「ゲホッ、グホッ!」
「大丈夫であルますか」

 咳こむドビーに、珠姫がかがみこんで声をかけた。

「くそったれ、イカれてやがるぜあの野郎」
「一体何なのであルますか、あの方は。タイトルがどうの、と言っていたようであルますが」
「ああ……」

 さっきは混乱してわからなかったが、ようやっと思考が追いついてきた。

 つまり。

「本塁打王のタイトルのことだ。ヤツと俺は、今のところリーグの一位と二位だからな。さっき外に外したボールが、ヤツにしてみれば『逃げ』に見えんだろうよ」
「逃げ?」
「つまり、これ以上ホームランを打たせないための敬遠ってこった」

 それが作戦上のことだとしてもな――と、一応付け加えておく。
 よもやパスボールを演出しようとしたとは言えない。

「ですが……シーズンの終わりならまだしも、まだ五月ではないダすか。しかも今日打った二本で、どびーサンとはまた差がついたのに」
「俺だってそう思うさ。だがよ、あいつの本塁打王への執着は異常なんだ。……ああチクショウ、アザになってんじゃねぇのかコレ」

 ドビーはまだ痛むノドをさすった。

「あの野郎はな、人種差別主義者なんだよ。去年、タイトルを獲ったときの会見で、『最強打者の称号を白人の手に取り戻した』とぬかしやがった。実際、ここ数年は本塁打王のタイトルは黒人か中米の選手が連続して取ってたからな」

 珠姫の視線が、ドビーの黒い肌に流れた。

「お前には分からんかもしれんが、この国でそんなことを口にしたら大変なことになる。実際マスコミや人権擁護団体から機関銃みたいなバッシングが飛んできてな。そん時はヤツが謝罪してどうにか収まったんだが……フン、案の定まったく懲りちゃいねぇ」
「つまり、彼は黒人であるアナタがタイトルを取ることに恐れを抱いている、ト」
「恐れる? そんな可愛いモンじゃねぇ。憎悪だ。タイトルを守るためならヤツは人殺しだってやりかねねぇよ」

 もつれにもつれた人垣がようやくほどけてゆく。
 おのおのの陣営に戻ってゆく選手たち。

 一方、当のバズワルドはというと、自軍のベンチ前でガムなど膨らませ、てんで他人事の様子だ。
 審判に何か注意されているようだが、右から左に聞き流しているのは遠目にも明らかだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

処理中です...