縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

文字の大きさ
17 / 51

0016.己の道

しおりを挟む

 リッカについていくと家からほど近いちょっとした広場に着いた。いくつかベンチが置いてあり憩いの場となっているようである。リッカが腰をかけたので人一人分ほど間隔を空けて座った。リッカは私服に着替えていた。薄いピンクのシャツにショートパンツだ。雰囲気は年相応の少女でとても剣を盗んでくるようには見えない。

「どこまで聞いた?」

 リッカはこちらを見ず、まっすぐ遠くを見ながら話しかけてきた。同じように視線を正面にして返答する。

「……リッカに兄がいて、あの剣が兄のものだった、て言うところまでだ」

「……母さんの様子からすると金のことは言わなかったみたいだな」

 どこか安心したように呟く。

「ウチは父親がもういないんだ。家は残してくれたが、兄貴が……そんな状態だから生活が楽とは言えないんだ。だから金についてはあたしが何とかする。だが、すぐには用意できないから少し待ってくれ。利子代わりにしばらくウチに住んでいい」

「わかった。住むところに関してはお言葉に甘えさせてもらう。が、金については別に返さなくていい。なぜなら俺が勝手にやったことだからだ。親切の押し売りをするつもりはないぞ」

 少なくともしばらく住には困らない。それで十分だと思った。リッカが驚いて一瞬こちらを見た気配がしたが考え直したのかまた正面を向いた。

「そういう訳にはいかない。借りは借りだ。あたしが勝手にやることだ」

「この律義者め。あてでもあるのか?」

 元の世界の常識で言えば、リッカは働ける年齢には満たない。せいぜいお手伝いした小遣いぐらいだろう。

「魔物を倒す」

 ほう。リッカ母が聞いたらなんていうだろうか。十中八九、止められるだろうな。

「魔物を倒したらお金がもらえるのか? ギルドに入っていなくてもいいのか?」

「何も知らないんだな……」

 リッカは呆れて説明してくれた。

「いいか。魔物を倒すと国から金が出るし、そのまま魔物を素材にして自分で売ってもいい。ギルドも魔物を退治することで国から金をもらって運営しているんだ。あいつらは集団だから魔物退治の効率はいい。国は本当は頼りたくないが、魔物が攻めてきてどうしても戦力が必要な時はギルドに依頼せざるをえない。逆にギルドはそんな国の足元をみてつけあがってる、っていうのが常識だ」

 見事な説明だ。ギルドに入らなくてもお金がもらえるというのはいいことを聞いた。てっきりギルドでクエストやらミッションやらをしないといけないのかと思ってたが……先入観を持ってはいけないな。どうやらこの世界はひと味違うようだ。

「ついでに言えば、優れた功績をあげれば国が登用してくれるかもしれない」

「登用? 国の兵士ってことか?」

 さきほど出会った門番を想像した。

「いや、ふつうの兵士は自分で就職したやつらだ。登用ってのは違うルートで国からお声がかかるのさ。国がバックアップしてくれるといった方がわかりやすいかもしれない。特別待遇の遊撃手のような扱いにされるんだ。国から依頼が来るようになるが受けるかどうかは好きにしていい。国からすれば優秀な人材に手助けしてもらえればラッキーって考えさ」

「そんな可能性もあるのか」

「もちろん、もっと安定したければ遊撃手じゃなくて国の正規兵になることも可能だ。きっと歓迎されるし重役を任されるだろう。もっとも登用されるようなやつは大抵一つの国に収まるような器じゃないと思うけどな。なかには国のバックアップだけ利用して、実際は全然依頼を受けないやつもいると聞く。逆に献身的に国を支えるやつもいるらしい。そういうやつは……」

 リッカはこちらを見て薄っすらと笑う。


「ーー英雄、そう呼ばれるんだ」


 なかなか芝居掛かった言い方だったが空気に飲まれてつい唾を飲んで喉を鳴らしてしまった。年不相応な話術だった。

  「まっ、みんな憧れるけど、そこまで登りつめるやつなんてそうそういない」

 リッカは両手を頭の後ろに持っていき大きく息を吐くと少し落ち着いた声で続けた。

「あたしの兄貴もその高みに憧れて目指してたんだ。ギルドに入ったけど市民に対して自分勝手なまねはしなかった。身内びいきかもしれないけど剣の素質は悪くなかった。実際周囲からも期待の若手と言われていたよ」

 リッカはつい昨日のことのように思い出しているのか、誇らしそうに語る。

「そしてあるとき、貯めたお金でいい剣を買ったんだ。もっと強くなる、ってな。でもそれが裏目に出た。兄貴の活躍を快く思わないやつがいたんだ。それがベルグとそのとりまきだ」

 声に少し怒りが混じってきた。

「そして兄貴とやつらが集団で魔物に攻めに行ったとき、遂に事件が起こったんだ」

「事件?」

「兄貴が一人だけ魔物の巣の近くで囮にされたのさ。兄貴はなんとか一命は取り留めたが重症。その後遺症で片腕がうまく動かなくなったんだ。でもそれだけじゃない。ギルドメンバー同士のいざこざとしてギルドは事を大きくしなかった。奴らは魔物の巣攻略のための戦略だと寝言を言いやがった」

「ひどい話だ」

「俺らの怒りはどこにもぶつけられなかった。あろうことか、ギルドから脱退して片腕も動かなくて放心状態だった兄貴から剣までぶんどっていきやがった」

 やはりこの世界のギルドは腐っている。

「……剣を取り返したのはあたしのエゴさ。兄貴は剣なんて見たくもないかもしれないが、それでもあたしは兄貴が活き活きと剣を振っているのを見ていたかったんだ。それともう一つ、たとえ兄貴が剣なんてもうどうでもいいと言ったとしても、兄貴の剣があのベルグに使われているのが我慢ならなかったんだ」

 一理どころか百理ある。
 リッカは全てを説明して少しスッキリしたように見えた。

 この歳にしてもう世の中の理不尽を目の当たりにしてしまったわけか。早熟なところも少し納得がいった。

「なんで話してくれたんだ?」

「成り行きとは言えウチの事情も知らなければ居心地が悪いだろ? それに剣を取り返す手助けをしてくれたんだ。経緯くらいは教えるさ」

 これだけの理不尽にあいながらも芯の部分は腐っていない。そんなリッカを見て俺は……俺は?

「ありがとう」

 自分でもうまく言い表せない気持ちを一旦おいて、多くを話してくれた感謝を述べた。

「ってなんでお前が礼をいうんだよ。むしろ……その……」

 リッカは少し口をモゴモゴさせると、眉間にシワを寄せて頬をかきながら目線を逸らす。


「その……あ、あ、ありがとう。まだちゃんと礼を言ってなかった」


「……ぶっ!あっはっっはっは!!」


 思わず吹き出して笑ってしまった。

「なんでそんな不服そうに礼を言うんだよ。この照れ屋さんめ」

「うっ、うっさい!!」


 照れ隠しするリッカを笑いながら、自分の進むべき道がぼんやりと見えてきた。


 英雄なんて大それたものじゃなくてもいい。リッカのような人の手助けがしたい。
 ギルドに限らず世の中の理不尽と闘っている人をそっと支えたい。

 縁の下のなんとやら、ってな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

処理中です...