縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

文字の大きさ
20 / 51

0019.早すぎる再会

しおりを挟む
 
 さて、おそらく魔物が来るとしたら森からだろう。とりあえずこの街の入口の方に向かうか。

 実はもう追い払った後だったりして。そんな甘い考えを持ちながら住宅地から市場の方へ向かって歩いていたが、咄嗟に物陰に身を隠すことになった。視界の先には市場に陳列された食料を荒らす魔物――狼を捉えていた。幸いにも店の主人は既に避難しているようで人的被害はない。

 もう突破されたのか? 早過ぎる。 防衛線はどうなっている?
 焦るな。落ち着け。相手は一匹だ。単に一匹が兵士やギルドの隙をすり抜けてきただけかもしれない。一瞬上がった心拍を落ち着けながら、狼の様子を窺う。食料に夢中でこちらには気づいていない。

 油断している今なら弓で当てられるか? 

 よし先手必勝だ。

 とはいうものの、弓の経験はスポーツ施設で少し触ったことがあるくらいだ。しかもそこでは打ちやすいようなサポート器具があった。

 矢を取り弓を引いてみる。やはり本物は勝手が違う。

 さすがに無いも同然の付け焼き刃じゃどうしようもないか。だが、前に飛びさえすれば……

 強い抵抗に手が震える。とても狙いをつけれそうにもないが力を振り絞って一段深く弓を引き、放った。
 鋭く矢が飛び出した。スピードこそ出ているが矢は目標から大きく外れている。

 クッ!曲がれっ!!

 能力をつかった。念動力だ。

 目標からズレて放たれた矢は急激に軌道を変え、魔物に向かっていった。

 グァッ?!

 突然の飛来物に呻き声をあげる。

 ははっ。我ながら反則みたいな手だな。

 矢は見事に狼の横腹に突き刺さった。致命傷には至らなかったもようだが、間違いなく深手を負ったはずだ。矢の質量が小さいからだろうか、頭痛の負担も酷くない。

 もう一発いくか?

 しかし、すぐに魔物はこちらを捉えたようだ。悠長に矢を構えている暇はない。

 すぐに弓を降ろし、刀を抜くと正眼の構えをとった。

 狼が勢いよく近づいてくる。

「ハッ!」

 構えのまま刀をさらに突き出した。おそらく突きの殺傷能力が一番高いはずだ。
 しかし、狼は地面を蹴って横に交わした。すかさず突き出した刀を戻し再び狼の方に向ける。突きは当たらなかったが警戒させることには成功したようだ。少し間合いが大きくなる。

 グルルルッ

 狼は低い唸り声を上げ威嚇してくる。こちらから飛び込むか、いや、焦らずにじっくりいくか。
 間合いが僅かに変わるたびに思考を巡らす。

 不意に視界の端に動くものが見えた。

 なっ、もう一匹来やがった?! 

 別の狼だった。入り口はどうなってるんだ、と文句を言いたくなったがそれで事態が好転するわけではない。両方の狼を視界に入れながジリジリと後ずさる。

 一匹目の狼も二匹目の狼が近づいてきたことがわかっており飛びかかるタイミングを見計らっているように見える。

 二匹相手は分が悪い。かと言って狼相手に逃げ切れるとは思えない。

 どうする。まずは手負いの狼を攻めるか。いや、二匹目が飛びかかってくる可能性もある。

 迷っていたときだった。

 シュッ!

 空を切るような音が聞こえたとほぼ同時に一匹目の狼に刺さった矢が二本になった。そして狼は体勢を崩すとそのまま、地面にうずくまった。

 一瞬遅れて駆けてくる音はそのまま二匹目の狼に向かっていった。

 武器は小刀だ。一撃目を躱した狼だが、息もつかぬ二撃目はさけられず切り傷をつけた。

 なんて速さだ。

「ヤマトッ!後ろに回れ!」

「……ああ!」

 とばされた指示に従う。数は有利。挟み撃ちだ。
 すぐに狼の視界から消えるように後ろに回り込む。狼も意図を察したのか、こちらにも注意がむく。だが、その一瞬の隙を見逃さなかった。

 少女は狼の体に小刀を突き刺すと狼はそのまま生き絶えた。

「よくも置いていってくれたな」

リッカが小刀に付いた血を払いながらこちらに向かってくる。そのまま刺されそうな凄みすら感じる。

しかし、腕に覚えがあるというのは嘘じゃなかったのか。下手すればギルドでも上位にいくぐらいじゃないだろうか。

怒ったリッカをどう宥めようかと思案しつつ、リッカに歩み寄るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

処理中です...