23 / 51
0022.混戦
しおりを挟むもう夕闇が訪れ始めていた。前方から近づいてきていた黒く巨大な狼は戦況全体が見える少し離れた位置で止まった。それは眼前の人間を捕らえるものではなくブレイズ王国そのものを捕らえるかのごとく大局を見ているようである。
「その様子だとあの化け物と知り合いってわけじゃなさそうだな」
「あんな知り合いがいてたまるかよ。非常食と見られるのが関の山だ」
だよなぁ……。
ちょっと死を覚悟しないといけないかもしれない。
いよいよ魔物が本腰を入れて攻めにきたのだろうか。しかし、なんでまたよりにもよってこのタイミングなんだ。たまたま滞在した時に重なるなんて不運にもほどがある。
黒狼の登場により狼たちの士気が戻ってきたようだ。保っていた均衡が崩れつつある。
このままだと圧される。兵士やギルドにも悲壮感が漂い始めていた。戦闘は終わりが見えず先には黒狼まで控えている。
そのとき後方から地響きが聞こえた。そしてそれはやがて兵士からの歓声へと変わった。振り向くと赤い鎧を身に纏った騎馬隊が近づいてきた。先頭で率いているのはミラ、そして隣にはフィーナが見えた。
絶妙なタイミングだな。これが持っている、ということだろうか。
周囲は凄まじい歓声だ。圧されつつあった中での増援であり、王女自ら出陣となれば兵士の士気も上がらざるを得ない。しかしそれだけでなくミラの人望もあるのだろう。鳴り止むどころかさらに歓声が大きくなる。
ミラは片手を上げるとよく通る声を放った。
「すぐに散開して兵士やギルドを援護しなさいっ!負傷者の救護も忘れないでっ!」
「「イエス・ユア・ハイネス!」」
ミラの指示が響くと騎馬隊は揃ってそれに応答し、すぐに散開を始めた。
ミラはその様子を最後まで見届けるとフィーナとともにこちらに歩み寄ってくる。
「おっ、おい!? ミラ王女がこっちにくるぞっ!?」
隣にいたリッカが少し挙動不審になりはじめた。
「そうだな。実は今朝までは一緒に居たんだ」
リッカは一瞬目を見開いた。
「ほ、本当に知り合いなのか? いったいどういう関係だ?」
「そうだな……ちょっと1200ゼムほど借りている関係だ」
「それって……!」
そこまで会話したところでミラとフィーナが話せる位置まで近づき馬から降りた。
「すごい人気だな」
「ありがとう」
「そちらのお嬢さんは?」
「ああ、成り行きで世話になることになったんだ。名前はリッカ」
恐縮しているのか直立不動なリッカを紹介する。
「ふぅーん。手が早いのね。でもまだちょっと幼すぎないかしら……発育は悪くないようだけど」
やけに私情がこもってないだろうか。特に最後の。
「まっ、冗談はいいとして。あんな化け物、聞いてないわよ」
ミラは遠く前方の黒狼を指差す。
「俺に言われても困る。見たことがないのか?」
「初めてよ。奴らのボスと見て間違いなさそうね」
明らかに異なる体格と風格は王者としての格を感じさせるのに十分だ。
「増援のおかげで流れはこちらだな」
戦場を見ると今度は息を吹き返した兵士達が次々と狼を退けていた。
しかし、いい流れは長く続かなかった。
ーーウワォーーーーン!!
状況を見ていた黒狼が突然、天に向かって遠吠えした。
するとすぐに状況に変化が訪れた。
「なっ!」
黒狼より遥か後方の森からたくさんの狼が黒い塊となって猛スピードで駆けてくるのが見えた。
「敵にも増援か!?」
「な、なんて数っ!」
リッカも声を上げる。
ミラは唇を噛み締めたが行動は早かった。
「私も出るわっ! こうなったら……貴方の能力あてにさせてもらうわよっ!」
そういうとミラは矢に炎を纏わせ、戦場のちょうど中央付近にいる狼を目掛けて放った。
鋭く射られた矢は狙い通り狼へと吸い込まれそのまま横たえた。
反撃の狼煙があがったようだった。
一瞬、遠吠えに気を取られた兵士たちだったが燃える矢を見た兵士たちはミラの参戦に再び歓声を上げはじめた。
「行くわよ、フィーナ」
「かしこまりました」
「じゃあヤマト。後でね」
そう言うとミラとフィーナは騎乗して戦場へと向かった。
「俺も行く。リッカはどうする?」
「……もちろん、私もだ!」
「余計な混乱を招きかねない。調和の力の効果についてはしばらくおいておこう」
リッカはコクリと頷いた。
そこからは混戦だった。もともと兵士たちが闘っていた狼達は数を減らしたが、第二陣の狼達が戦場に加わると激しい戦いになった。俺が狼の注意を引きリッカがトドメを刺す。というのが必勝パターンだった。戦闘が長引く可能性を考えて能力の使用はできるだけ控えるつもりだったが期せずじてそうなった。素質があったのか、慣れてきたのか戦闘を重ねるにつれ次第に狼の攻撃がゆっくりに見えてきたのだ。どうやら自分の目は悪くないようだ。ただし攻撃の手札は乏しくひたすら狼の攻撃を凌ぐばかりだった。
「くそっ、キリがないな」
囲まれないように注意しながら十匹ほど仕留めた。少し遠くで闘っているミラとフィーナも次々と狼を仕留めているが、まだ全体としては狼の数が減ったように思えない。リッカにも疲れが見え始めていた。まだ成熟していない身体に命に関わる緊張感を考えれば当然だろう。一度休みをいれたいところだが。あまり余裕はない。
「くっ!」
「ヤマトっ!」
考えごとに気を取られて狼の一振りを受けてしまう。腕から少し出血したが、すぐに態勢を立て直す。
そのまま狼の動きを抑えるとリッカが弓で狼を捉えた。狼が動かなくなったことを確認するとリッカが近寄ってきた。
「おい、大丈夫か」
「ああ、かすっただけだ」
それにしてもこのままだとまずい。消耗戦だ。
周囲も暗くなってきたし闇の中では狼のほうが有利と考えるべきだろう。
何か、何か策は……。
ーーォーーーーン!!
そのとき、遥か遠くから遠吠えが聞こえたかと思うと、次いで地響きが聴こえ出した。
「今度は何だっ!? また敵の増援か!?」
さらに数が増えるとさすがにもう手に負えないかも知れない。しかしさっきの遠吠えは黒狼ではなかった。
それらは、森の別の場所から現れた。
「……いっ! 白い! 白い狼だっ!」
敵か? 味方か?
予想だにしなかった状況に反応は様々だったが、次第に安堵に変わることになった。
白い狼達は戦場に割って入ると魔物化した狼たちを集中して攻撃し始めたのだった。兵士たちはゆっくりとその場から退きはじめ、戦場は狼対狼へと様変わりした。
遂に黒狼が腰を上げた。また一度大きく遠吠えすると、ゆっくりと森へと歩いていった。それに続くように魔物化した狼達もすぐに戦場を離脱し始めた。
どうやらこの場は助かったようだ。
戦場に残る白い狼を眺めながら一息つくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる