その答えは恋文で

百川凛

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 平岡くんはやはり不機嫌だった。

 学校から現在信号待ちをしている横断歩道まで、私達の間に会話らしい会話は一言もない。ただひたすらに足を前後に動かしてなんとかここまでやって来た、という感じだ 。

 どうやら普段温厚な人ほど怒ると怖いという話は事実らしい。


「ねぇ」


 突如右上から降ってきた平岡くんの一言にびくりと肩が跳ねた。し、心臓に悪い。

「塚本となんかあったの?」
「いや……別に何もないけど」
「質問を変えるね。塚本とあったの?」
「いや……あの……」

 なんでも見透かしてしまいそうな黒い瞳に射抜かれ、私はあっさりと白旗を掲げた。この人に隠し事は出来ないな、と痛感した瞬間でもある。

「実は、ね……」

 由香に説明した時と同じように、平岡くんにも一連の流れを話した。

 暫しの沈黙のあと、平岡くんは深い溜め息を吐き出す。

「……それ、何で俺に言わなかったの?」

 由香と同じ台詞が返ってくる。

 信号はとっくに青に変わっていたが、私たちは立ち止まったままだった。

「……事を大きくしたくなかったの。誰かに言ったってどうにもならないし。それに私平岡くんの本当の彼女じゃないし。言っても迷惑になるだけだから」

 平岡くんの眉間に刻まれた皺がぐんぐんと深くなる。

「隠し事は無しだって言ったよね?」
「…………ごめん」

 平岡くんはもう一度溜息をつく。

「成瀬さんのこと迷惑なんて思うわけないじゃん。迷惑かけてんの俺だし、むしろ謝るのは俺の方だよ」

 平岡くんは声のトーンを下げてぽつりと言った。

「……ごめん。怒ってるわけじゃないんだ。ただ……自分が情けなくてさ。俺の我儘でこんなことになってるのになんで気付いてやれなかったんだろうとか、出来るなら塚本じゃなくて俺が助けてやりたかったなとか、今すっげー色々考えてる」

 平岡くんは自分を責めているようだった。私は慌てて口を開く。

「別に平岡くんのせいじゃないよ。あれは私が相手の神経逆撫でするような事言っちゃったから……だから相手の子が怒っちゃったわけだし。その点については反省してる。それに結果的には何もなかったんだから、平岡くんが気にする必要はないよ」

 平岡くんはまだ納得いかない様子だったが、私が必死に説得を続けるとようやく折れてくれた。

「これからは何かあったら絶対俺に言って」
「……わかった」
「ん。約束な?」

 平岡くんは笑って私の頭に右手を乗せた。今日初めて見た平岡くんの笑顔に、ほっと胸をなで下ろす。
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