45 / 65
10通目:王子様と呪われた姫
4
しおりを挟む
「すいませ~ん! 受付のお姉さんとは写真撮れないんですかぁ~?」
聞き覚えのあるイラッとする口調に自然と眉間にシワが寄った。もはやこれは条件反射のようなものだ。私は俯いたまま大きな溜息を吐き出す。
「撮れません」
「え~? 指名料払っても?」
「無理です」
「もうっ! 栞里ちゃんのケチ! ていうか何そのネコ耳超絶可愛いんですけど!! 似合いすぎて尊い! さすが孤高の文学美少女!」
「ちょっと! 何言っ……」
文句を言うために開けた口がそのまま塞がらなくなった。白いシャツを第三ボタンまで開けてはらりと肌をさらけ出し、黒のジャケットにズボン、片手に薔薇の花を抱えてキメ顔をしている塚本くんの姿があったからだ。……なんだ、これ。なんの冗談?
「……えっと、塚本くんのその格好は一体……?」
「ああこれ? うちのクラスホストクラブ喫茶やってんだよね。だからスーツなの。どう? オレ似合ってるっしょ?」
あまりにも似合いすぎていて思わず吹き出した。コミュ力高めのチャラさといい、スーツを着こなす容姿といい……ホストクラブなんて塚本くんの天職じゃないか。ていうかよく学校が許可出したよね。
「どうも。ホストクラブ喫茶SHINE、ナンバーワンのLeoです」
どうやら本人も随分と乗り気らしい。自分の名前を源氏名っぽく言ってるところが腹立たしかったが、様になっているのは確かだった。
「それにしてもこの行列。彰王子の人気はすごいねぇ」
「そうだね」
「妬かないの?」
「……なんで私が」
「またまたぁ。分かってるくせに」
塚本くんの瞳が意地悪く細められる。これだからこの男は苦手だ。
「ははっ。これあげるからそんなに怒んないでよ」
塚本くんは笑いながら、机の上にピンクのリボンがかかったクッキーの袋を置いた。
「え、これ」
「喫茶店のメニューの一つだから。俺たちの愛がこもった特製愛クッキー。あ、作ったのは家庭科部の女子たちだから美味しいよ?」
「……ありがとう」
ネーミングセンスはさておき、お昼の休憩も取れないほどの忙しさだったので正直これは助かった。ちょうど糖分が欲しかった所だし。
「あ、お礼は栞里ちゃんと俺のツーショット写真でいいから」
「…………これ返すね」
「うそうそ冗談だから! 安心して受け取って!」
まったく。塚本くんはこれがなければ良い人なのに。
「じゃあ俺そろそろ行くね。栞里ちゃんも時間があったらうちの店来てよ~。ナンバーワンのオレが色々サービスするからさ!」
ウィンクを飛ばしてくる塚本くんに、私はひらひらと手を振った。
塚本くんは戻りがてら、うちの前に並んでいる女の子たちに持っていた薔薇の花束から一輪を取り出し、お店の宣伝をしながらニコニコと渡していた。その姿は街頭によくいるキャッチのお兄さんにしか見えない。ちなみに一輪の薔薇の花言葉は「一目惚れ」。もし、塚本くんがこれを知らずにさらりと配ってるんだとしたら、彼は天性のホスト気質に違いない。わざとだったらそれはそれであざといが。
「ぶふっ!!」
嫌な笑い声が聞こえる。この声は私が最も聞きたくない声だった。
「あっはっはっはっ!! なにその耳! アンタが猫耳とか超ウケる! あっはっはっは笑っていい?」
「……もう笑ってんじゃん」
クレープを片手に腹を抱えて笑い転げる由香を見て、私はがっくりと項垂れる。カシャカシャとスマホで私を連写する音まで鳴り響く。もう勘弁してほしい。
「はぁー、笑った笑った! しっかしまぁ大盛況じゃないの。アンタのクラス」
「彰王子のおかげでね」
由香は虹祭りの時同様、文化祭を満喫しているようで羨ましい限りである。
「つーか何あのリアル王子。なんであんなヒラヒラでキラキラの服があんなに似合ってんの? アイツ前世貴族かなんか?」
私は吹き出した。やはりみんな思うことは一緒らしい。しかし前世が貴族って……いや、あの違和感のなさはもしかしたらそうかもしれない。馬鹿みたいな意見でも簡単に否定出来ないのだから恐ろしい。
「あたしも後で写真撮ってもらおうかな」
「え? 由香が? そんな事言うなんて珍しいね」
「平岡の写真っていくらで売れると思う?」
……うん。由香はやっぱり由香だった。
「ちょっと中の方見てくるわ。ついでに彰王子の王子様っぷりも」
順番も守らず、由香は教室に向かって歩き出した。さすが自由人である。
聞き覚えのあるイラッとする口調に自然と眉間にシワが寄った。もはやこれは条件反射のようなものだ。私は俯いたまま大きな溜息を吐き出す。
「撮れません」
「え~? 指名料払っても?」
「無理です」
「もうっ! 栞里ちゃんのケチ! ていうか何そのネコ耳超絶可愛いんですけど!! 似合いすぎて尊い! さすが孤高の文学美少女!」
「ちょっと! 何言っ……」
文句を言うために開けた口がそのまま塞がらなくなった。白いシャツを第三ボタンまで開けてはらりと肌をさらけ出し、黒のジャケットにズボン、片手に薔薇の花を抱えてキメ顔をしている塚本くんの姿があったからだ。……なんだ、これ。なんの冗談?
「……えっと、塚本くんのその格好は一体……?」
「ああこれ? うちのクラスホストクラブ喫茶やってんだよね。だからスーツなの。どう? オレ似合ってるっしょ?」
あまりにも似合いすぎていて思わず吹き出した。コミュ力高めのチャラさといい、スーツを着こなす容姿といい……ホストクラブなんて塚本くんの天職じゃないか。ていうかよく学校が許可出したよね。
「どうも。ホストクラブ喫茶SHINE、ナンバーワンのLeoです」
どうやら本人も随分と乗り気らしい。自分の名前を源氏名っぽく言ってるところが腹立たしかったが、様になっているのは確かだった。
「それにしてもこの行列。彰王子の人気はすごいねぇ」
「そうだね」
「妬かないの?」
「……なんで私が」
「またまたぁ。分かってるくせに」
塚本くんの瞳が意地悪く細められる。これだからこの男は苦手だ。
「ははっ。これあげるからそんなに怒んないでよ」
塚本くんは笑いながら、机の上にピンクのリボンがかかったクッキーの袋を置いた。
「え、これ」
「喫茶店のメニューの一つだから。俺たちの愛がこもった特製愛クッキー。あ、作ったのは家庭科部の女子たちだから美味しいよ?」
「……ありがとう」
ネーミングセンスはさておき、お昼の休憩も取れないほどの忙しさだったので正直これは助かった。ちょうど糖分が欲しかった所だし。
「あ、お礼は栞里ちゃんと俺のツーショット写真でいいから」
「…………これ返すね」
「うそうそ冗談だから! 安心して受け取って!」
まったく。塚本くんはこれがなければ良い人なのに。
「じゃあ俺そろそろ行くね。栞里ちゃんも時間があったらうちの店来てよ~。ナンバーワンのオレが色々サービスするからさ!」
ウィンクを飛ばしてくる塚本くんに、私はひらひらと手を振った。
塚本くんは戻りがてら、うちの前に並んでいる女の子たちに持っていた薔薇の花束から一輪を取り出し、お店の宣伝をしながらニコニコと渡していた。その姿は街頭によくいるキャッチのお兄さんにしか見えない。ちなみに一輪の薔薇の花言葉は「一目惚れ」。もし、塚本くんがこれを知らずにさらりと配ってるんだとしたら、彼は天性のホスト気質に違いない。わざとだったらそれはそれであざといが。
「ぶふっ!!」
嫌な笑い声が聞こえる。この声は私が最も聞きたくない声だった。
「あっはっはっはっ!! なにその耳! アンタが猫耳とか超ウケる! あっはっはっは笑っていい?」
「……もう笑ってんじゃん」
クレープを片手に腹を抱えて笑い転げる由香を見て、私はがっくりと項垂れる。カシャカシャとスマホで私を連写する音まで鳴り響く。もう勘弁してほしい。
「はぁー、笑った笑った! しっかしまぁ大盛況じゃないの。アンタのクラス」
「彰王子のおかげでね」
由香は虹祭りの時同様、文化祭を満喫しているようで羨ましい限りである。
「つーか何あのリアル王子。なんであんなヒラヒラでキラキラの服があんなに似合ってんの? アイツ前世貴族かなんか?」
私は吹き出した。やはりみんな思うことは一緒らしい。しかし前世が貴族って……いや、あの違和感のなさはもしかしたらそうかもしれない。馬鹿みたいな意見でも簡単に否定出来ないのだから恐ろしい。
「あたしも後で写真撮ってもらおうかな」
「え? 由香が? そんな事言うなんて珍しいね」
「平岡の写真っていくらで売れると思う?」
……うん。由香はやっぱり由香だった。
「ちょっと中の方見てくるわ。ついでに彰王子の王子様っぷりも」
順番も守らず、由香は教室に向かって歩き出した。さすが自由人である。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる