彼と私のお友達計画

百川凛

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STEP2:部活を見に行きましょう

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「ねぇねぇ! 一花ちゃんって見学に来るの初めてだよね? 誰のこと見に来たの?」
「もしやバスケ部の中に好きな人でもいるとか!?」

 二人は恋バナに興味津々なお年頃なのか、キラキラした目で私に問いかける。

「実はね、ここに居る子は好きな人見に来てる子がほとんどなんだよ?」
「それかイケメン鑑賞。ほら、バスケ部って結構イケメン多いじゃん?」
「そ、そうなんだ」

 まぁそうじゃないかなとは思ってたけど。どうやら見学に来ている女子の多くはバスケ部の中に好きな人がいるらしい。確かに彼女たちの応援はすごい。さっきから聞こえる会話の中には鳴海くんの名前もチラホラ聞こえてきて、悪い事をしているわけでもないのに何故かドキッとしてしまった。

「で、誰なの? 内緒にするから言っちゃいなよ!」
「いや、私はそんなんじゃなくて……」

 どう答えようか悩んでいると、真里ちゃんが何かに気付いたように首を傾げる。

「あれ? でも一花ちゃんって男子苦手だったよね? いっつも関わるの避けてるし」
「……うん。昔からちょっと苦手で」
「だよね。バスケ部の見学に来て大丈夫なの?」
「えっと、その……」
「あっ! もしかして皐月に無理やり連れて来られたとか?」

 うん、半分正解。苦笑いを浮かべて答えを誤魔化していると、ダンダンというボールの音が大きく響いた。さっきまでは止まってシュートを打つ練習だったけど、今度はドリブルからシュートを打つ流れに変わったらしい。部員が一列に並び、先頭に立っていた鳴海くんがドリブルしながら走り出すと、華麗なレイアップシュートを決める。ギャラリーの女子からはきゃあきゃあという黄色い歓声が上がった。

「おっ、さすがエースは人気だねぇ」

 真里ちゃんがニヤニヤと笑いながら揶揄うように言った。部員が次々にシュートを決めていく中、鳴海くんは上手く入らなかった後輩に何やらアドバイスを行っていた。相変わらずの睨むような目付きだが、みんな慣れているのか怖がっている様子はない。

 説明をしながらボールを持った手を上げた鳴海くんが、突然こちらを振り返った。完全に油断していた私とぱちりと目が合う。

〝は?〟

 その瞬間、鳴海くんの手からぼとりとバスケットボールが落ちた。ぽーんぽーんと自由に弾んでいくボールを後輩の子は驚いたように見やる。声は聞こえないものの、口を「は?」の形にぱかっと開けた鳴海くんはそのまま全然動かなくなった。私は私で見つかった焦りと気まずさで頭が真っ白だ。絶対バレないって言ってたのに。皐月ちゃんの嘘つき!

 このままの状態はさすがにヤバいと思ったので、軽く頭を下げようとした脳裏に皐月ちゃんの言葉が過ぎる。

〝どうしても気になるなら次会った時に挽回したらいいんじゃない?〟

 その言葉を思い出し、私は心の中で覚悟を決めた。

 ゆっくりと右手を上げ、ゆらゆらと小さく手を振った。呆然とこっちを見ていた鳴海くんの目はまるく見開かれる。……だって、友達に会った時に頭を下げるって他人行儀だもんね。せっかく協力してくれてるんだから、私も頑張らないと。緊張で顔はかなり強張こわばってるかもしれないけど、そこは大目に見てほしい。

 呆然としていた鳴海くんはハッと我にかえると、戸惑いながらも片手を上げてくれた。ああ良かった、無視されなくて。何故か周りがざわつく中、私はほっと胸を撫で下ろした。

 次のシュート。鳴海くんは珍しくシュートを外していた。納得いかないように眉間にシワを寄せている。

 何周かすると集合の合図がかかり、練習を止めた部員たちはコーチの元に集合する。どうやらミニゲームが始まるらしい。

 ふぅ、と小さく息を吐くと、隣から痛いほど視線が突き刺さった。

「ちょっとちょっと! 一花ちゃんって鳴海と仲良いの!?」

 今の一部始終を見ていたらしい二人に、興奮気味で詰め寄られる。

「いや、その……」
「知ってた!? 鳴海くんっていつもは応援の声に応えたりしないんだよ!?」
「そうそう! なのにあんな恥じらうように手を振り返すなんて……! もしかして二人付き合ってるの!?」
「つきっ!? ええ!? ち、違う違う! だって私男子苦手だし!!」

 どうしよう、大きな誤解が発生している。まず鳴海くんは恥じらってないよ。困ってただけだよ。そして私たちは付き合っていないよ! 本当に!

「じゃあ鳴海くんとはどういう関係!?」

 もしかして二人は鳴海くん目当てで見学に来てるのかな。やけに詳しいし。だとしたら申し訳ないというか……。鳴海くんと私の関係は説明するのが難しいのだ。う~ん、あえて言うなら知り合い以上友達未満なんだけど、そんな事を言ったらさらに責められそうだし……仕方ない。ここは最終目標を言ってみよう。

「鳴海くんとは……お、お友達かな?」

 蚊の鳴くような声でなんとか答えると、謎の羞恥心に襲われた。……恥ずかしい。なんだかよく分からないけど恥ずかしい。

「友達かぁ~」
「友達ねぇ~、そっかそっかぁ~~」

 ていうか、なんだか私を見る目が生温かくなった気がするんだけど。鳴海くん目当てじゃなかったの? あれ? これ一体どういうこと?

「あ、うちらは別に鳴海推しってわけじゃないから安心してね!」
「そうそう! うちらはイケメン鑑賞楽しんでるだけだから! 安心してね!」

 何をどう安心すればいいんだろう。やっぱり大きな誤解が発生している気がする。そうこうしているうちにミニゲームが始まり、みんなの視線がそっちに集まった。鳴海くんはドリブルをしながらコートの端から端まで走っている。すごい体力だ。私だったらとっくにバテているに違いない。

 これ以上ここにいたらとんでもない事になりそうなので、私はこっそり体育館を抜け出した。
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