彼と私のお友達計画

百川凛

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STEP4:作ってみましょう

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 私と鳴海くんは、SNSでのやりとりをぽつぽつ続けていた。鳴海くんからはよく愛猫・虎徹くんの超絶可愛い写真が送られてきて、見るたびにすっごく癒されている。ちなみに写真は全部保存していて、こっそり待ち受けにしてるのは秘密だ。

 鳴海くんは当初のイメージとは違って優しかった。見た目とのギャップっていうのかな? 口は悪いけど大きな声を出さないし、私が怖がらないように気を遣って話してくれてるのがよく分かる。人を見た目で判断するのはよくない。皐月ちゃんが私の男子克服の相手に彼を選んだ理由が少し分かった気がした。

「あっ!!」

 皐月ちゃんによって強制的に一緒に帰ることになった水曜日。バスケ部のミーティングが終わるのを下駄箱で待っていると、こないだと同じ二人組が私を見て声を上げた。なんというデジャヴュ。私はビクッと肩を揺らすと、反射的に後ずさる。失礼な態度なのはわかってるけど、怖いものは怖いのだ。

「待って笹川さん!!」

 逃げだそうとする私に気付いた二人が焦ったように叫ぶ。長い足であっという間に私の前に来ると、かばりと勢いよく頭を下げた。突然の出来事に私は驚きと動揺を隠せない。

「こないだは急に話しかけてごめん!」
「マジで怖い思いさせてごめんな! そんなつもりじゃなかったんだ!」

 うまく言葉が出てこなかった。もしかしてこの二人は、こないだ私に話しかけたことを謝ってる……の?

「笹川さんが男子苦手ってことは知ってたんだ。だから今までは遠慮してたんだけど……こないだ部活見学に来てたし、鳴海と仲良さそうにしてたの見たから」
「そうそう! だから普通に話せるようになったのかと思って声掛けたんだけど……違ったんだな。ごめんな」

 顔を上げた二人は気まずげに目を伏せる。私は口を開いては閉じてを繰り返していた。何か、何か言わなきゃいけないと焦るほど言葉が出てこない。本当は気にしないでって、私の方こそごめんなさいって言いたいのに。喉の奥に何かが詰まっているみたいに声が出ない。

「オイ。お前らまたやってんのかよ」

 最近聞き慣れてきた低い声。赤いパーカーを着たその姿を見たら、なんだかほっと安心して呼吸が楽になった。

「鳴海! 誤解だ!」
「そうだ! 俺たちはこないだのこと謝ってただけだから!」

 二人は両手を上げて無実を訴える。鳴海くんの眼光は今日も絶好調に鋭い。疑いの目を向けている彼に向かって、私は慌てて言った。

「ほ、本当だよ! 二人は謝ってくれてて……だから悪くないよ!」

 深呼吸をして彼らに向き合う。……大丈夫、怖くない、怖くない、と心の中で唱えながら、ぎゅっと自分の手を握った。

「えと、か、加藤かとうくんと杉野すぎのくん……だよね? こっちこそ、その、こないだはごめんなさい。びっくりして、話せなく、て」

 よし、言えた!! 鳴海くん以外の男子と話をしたのもかなり久しぶりだ。しどろもどろだけど、練習の成果が出てるみたいで嬉しい。チラリと様子を伺うと、二人はぽかんとした表情で私を見ていた。

「さ、笹川さんが喋った!」
「しかも俺たちの名前覚えてくれてる! やべぇ、尊い!」

 どうやら私が喋った事に驚いたらしい。正直私もびっくりしてる。達成感を噛み締めていると、急にぐっと手首を掴まれ強制的に振り向かせられる。私の手首を掴んだ鳴海くんは二人に向かってチッと舌打ちを鳴らすと、低い声で言った。

帰るから。じゃーな」

 不機嫌そうに言ってズンズンと歩き出す鳴海くんにひっぱられ、私もなんとかついて行く。鳴海くんの手は大きくてあたたかくて、不思議と怖くなかった。手首を掴まれたままどれくらい歩いただろう。

「な、るみくん!」

 私は肩で息をしながら名前を呼んだ。足の長さの違いからか、それとも帰宅部代表の自分の体力のなさが原因なのか、ついて行く事すら限界だった。ハッと気付いた鳴海くんが私を見下ろす。繋がった鳴海くんの手がだんだん熱くなるのがわかった。

「あ、わ、悪い!」

 掴まれた手が勢いよく離れた。身勝手だけど、温かさが消えたことに少しだけ寂しさを感じる。

「痛かったか?」
「ううん、大丈夫」
「その……触られて嫌だったりとかは……?」
「だ、大丈夫、です」

 答えると鳴海くんはほっとしたように息を吐いた。だけど、急に額を押さえて申し訳なさそうな声を出す。

「あー……ごめん。俺余裕なさすぎ。マジで情けねぇ」

 鳴海くんは何故か急に落ち込み始めた。正直わけがわからない。

「笹川さん」
「は、はい?」
「今度からアイツらのこと無視していいから」
「え? でも、」

 せっかくうまく話せたのに。そう言う前に、鳴海くんは続けた。

「だって、笹川さんのは俺だろ?」
「えっ?」
「だからまずは俺と一番仲良くなんなきゃダメなんだよ。わかったか?」
「えっと……」
「わかった?」
「う、うん」

 有無を言わせぬ見えない圧にあっさりと負けた私が頷くと、彼は満足そうな顔で笑った。あれ? 今のって頷いてよかったのかな? でも協力してもらってるのは確かだし……まぁいいか。
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