彼と私のお友達計画

百川凛

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TIME0:鳴海優人の事情

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 マネージャーに笹川さんとの〝お友達計画〟の話をされたのは、三年生になってすぐのことだった。

 なんでも、〝笹川さんに少しでも男子と話せるようになってほしいから〟考えられた計画らしい。

「鳴海の気持ちはこの一年でだいぶわかった。それで、鳴海なら一花にひどいことしないって思えたから頼んだの」

 友達っつーか行く行くは彼氏になりたいんだけど……まぁ最初のステップとしては合ってるか。なんて思いながら、俺は二つ返事でその友達役を引き受けた。

「ありがと。それと、これは鳴海にとっても一花と仲良くなれるチャンスなんだからね? あたしも手伝うけど、頑張りなさいよ!」

 ……マネージャーが神に見えた。

「言っとくけど、一花のこと傷付けたら許さないからね!」

 その言葉に、俺は力強く頷いた。





 それからすぐ、マネージャーから笹川さんを紹介された。近くで見た笹川さんはめちゃくちゃ可愛くて、話す時は柄にもなく緊張した。連絡先を交換して、メッセージのやりとりをした日はテンションが上がり過ぎて全然眠れなかった。マネージャーの協力もあって部活の見学に来てくれたり、一緒に帰ったり、試合の応援にも来てくれた。初めて私服姿の笹川さんを見た時は可愛すぎて感動した。スリーポイントがガンガン入ったのはあれのおかげだと思ってる。虎徹カラーで作られたミサンガを渡された時は嬉しくて嬉しくて、着けてる腕を見てはずっとニヤニヤしていた。あのミサンガは宝だ。家宝だ。間違いない。二人で帰ることにも慣れ、テスト勉強も一緒にして、悩みに悩んで買ったお礼のキーホルダーも嬉しそうに受け取ってくれた。たまに笑顔も見せてくれるようになった。少しずつだけど、確実に俺たちの距離は近付いていたのだ。

 ──なのに。

 笹川さんと連絡が取れない。

 学校に行ってもめっちゃ避けられてる。

 なんでだ? 俺なんかやらかした? 悪いことしちゃった? ま、まさか嫌われた……!? 頭を抱えて何度も何度も考える。天国から一気に地獄に突き落とされた気分だった。

 マネージャーに相談しても原因がわからず更に落ち込むこと数日、しかめっ面をしたマネージャーに「ちょっと!」と大声で呼び止められた。そのまま仁王立ちでズイッと詰め寄られる。

「アンタ一花に何言ったの!?」

 何言ったって……話したくても話せない状況なんだから何も言ってませんけど。そう反論する前に、マネージャーは衝撃的な言葉を放った。

「一花、友達計画終わりにするって!」

 俺はヒュ、と息をのんだ。ショックで何も考えられない。

「〝今まで無理させてごめんなさい。ありがとう〟って伝言頼まれた。それと……」

 マネージャーは鋭い視線で俺を睨みつける。

「鳴海がバスケ部のヤツらに〝本当は一花と友達になりたくなかった〟って言ってたの聞いたって」

 ハッとした。あの時だ。昇降口で喋ってた時。つまり、あの時の会話を笹川さんが聞いてたってことか? 俺の顔色は悪くなっていく。

「アンタ、本当にそんなこと言ったの?」
「そ、それは……」

 口ごもる俺を見て、マネージャーは声を震わせながら言った。

「……あたし言ったよね? 一花のこと傷付けたら許さないって。アンタの気持ち信じたから頼んだのに……最低!」
「ち、違う! 誤解だ!」
「はぁ? 何が誤解なわけ!?」

 俺は静かに息を吸う。

「……確かに俺はアイツらに笹川さんと友達になりたくなかったって言った」
「なっ!?」
「でもそれは、俺が笹川さんを好きだから。笹川さんと友達以上になりたかったから」
「……は?」
「つまりあれは、友達じゃなくて恋人になりたかったって意味で言ったんだ。友達になれたことは嬉しい。でも、俺はそれ以上になりたくて……」
「……なにそれ」

 マネージャーは呆れたように言うと、大きなため息をついた。

「恋人になりたいなら告白ぐらいしなさいよこのヘタレ! 意気地なし!」
「いや、告白はもう少し仲良くなってからの方がいいと思って……」
「そうだよ! だからこのお友達計画立てたんじゃん! いい? 信頼してもらうには長い時間がかかるけど、それを失うのは一瞬なんだからね!?」

 その言葉が胸にグサリと突き刺さる。本当にその通りだ。俺のバカな一言のせいで、今までの努力が水の泡になってしまった。

「それは……分かってる」
「じゃあなんであんなこと言ったわけ!?」
「だって、アイツらも笹川さんのこと気になってるみたいだから焦って。つい本音が出たっつーか」

 マネージャーはまた大きなため息をついた。

「バッカじゃないの? 勝手な嫉妬で一花を傷付けるなんて許せない!」
「……それはマジで本当に反省してる。だけど、笹川さんを傷付けるつもりはなかったんだ! 頼む! 笹川さんに謝るチャンスをくれ! 誤解だけは解きたいんだ!!」

 がばりと頭を下げるが、なかなか返事が返ってこない。どれくらいそうしていただろうか。はぁ~~~という長いため息と共に「仕方ないわね」という声が聞こえてゆっくりと顔を上げる。

「……アンタがあまりにもバカだから、最後にもう一回だけ協力してあげる」
「マネージャー!」
「いい!? 誠心誠意一花に謝ってよ!? 心の傷っていうのは目には見えない分深いんだからね!」

 俺は何度も何度も必死に頷いた。
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