八神探偵の顔色は今日も青白い

百川凛

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1.小説家もカフェにいる

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 *


 愛理♡見守り隊(3)

 恭:愛理準備中。もうすぐ家出るからやがみん追跡よろ!

 八:りょ


 俺はスマホの画面を見て苦虫を噛み潰したような顔をする。

 今回の依頼人である芳賀さんからメッセージが入っているのだが、まず目に入るのはこのふざけたグループ名。いで女子高生の成り損ないのような文章。言っておくが彼らはアラサーとアラフォーである。このグループメッセは報告やらなんやらで使うだろうと芳賀さんに勝手に作られたもので、命名ももちろん彼によるものだ。ちなみに俺は依頼が終わったら速攻で抜けようと決めている。

「準備はいいかい、ケントくん」

 嬉々としたその声に、俺の顔は思わず引きつった。

 だって、目の前の八神さんは帽子にマスクにサングラスという不審者三種の神器を身に付けているのだから。……まさかこの格好で愛理ちゃんの尾行をするつもりなのか? 間違いなく捕まるぞ? 通報されても文句は言えないぞ? 俺は念のため八神さんに確認を取った。

「……あの、その格好で行くんですか?」
「あったり前じゃないか! 尾行と言ったら変装が基本だろう? この格好なら僕だって絶対バレないし。これぞまさしく完璧な変装だ!!」

 やけに自信満々な八神さんにもう何も言うまいと口を真横に結んだ。知らないぞ。警察に捕まっても俺は弁護なんてしないからな絶対に。

「あっ、芳賀さんからメッセージだ」

 八神さんと俺のスマホが同時に鳴り、画面を開くと再びあのグループメッセージが表示される。


 愛理♡見守り隊(3)

 恭:愛理が出発した!!
 恭:ちなみに今日の服装
 恭:ピンクのワンピース超絶かわいい!!
 恭:見てこれ
 ー恭二郎@桜子♡愛理ラブ♡さんが写真を送信しましたー
 恭:これぞ地上に舞い降りた天使エンジェル……尊い

 予想通りドン引きの内容で顔が歪む。だが、八神さんは対照的に満面の笑みを浮かべながら言った。

「よし! それじゃあ天使の警護に行こうか、ケントくん!」

 ……ああ。先が思いやられる。





 ピンク色のワンピースを着た可愛らしい女の子の後ろを、数十メートルの距離を開けながら追う不審者丸出しの大人一名と若者一名。うん、はたから見たら間違いなく通報案件だ。泣きたい。貴重な休日だっていうのに何をやってるんだろうか、俺は。


 恭:かわいいだろうちの天使愛理
 恭:オーラが違うだろうちの天使愛理
 恭:あのワンピース、桜子さんとお揃いなんだぜ??
 恭:二人が並ぶと天使と女神。眩しすぎて直視出来ないんだぜ??
 恭:ところで変な輩はいない?
 恭:天使に近付く不届き者は即排除するように
 恭:いーい? 排除だよ、排除!


 ぽこぽこぽこぽこうっせーなこのモンスターペアレントは。どうでもいい情報で埋まっていく画面には、もはや呆れを通り越して尊敬してしまう。

「ケントくん、あれ」

 帽子にマスクにサングラスの不審者、もとい八神さんは小声で俺の名を呼ぶと小さく前方を指差す。その指先を電柱の影から覗くと、愛理ちゃんが図書館に入って行くのが見えた。芳賀さんが言っていた緑ヶ丘市立図書館だ。ちなみに、この図書館には入口が西側と東側の二ヶ所にあり、西側は児童図書室、東側は一般図書室に直結している。今愛理ちゃんが入って行ったのは西側の入口なので、おそらく児童図書室に向かったのだろう。

「どうする? 僕たちも行く?」

 こころなしか楽しそうな様子の八神さんが言った。俺はすぐ様却下する。

「いや、その格好で行くのはやめた方がいいと思います」
「え、なんで?」

 鏡見ろ、鏡! そんな格好で児童図書室なんて行ったら通報されるに決まってるだろうが!! ふざけているわけじゃなく真面目に聞いてくるのが腹立たしい。

「えーっと、ほら、児童室に不審……じゃなくて男性が二人でいると目立つじゃないですか。俺たちは尾行してるわけだから、目立つ行動は避けるべきかと」
「なるほどね。それもそっか」

 意外と簡単に納得してくれた。良かった。これで少なくとも子どもの安全を見守っている司書さんや保護者の皆さんに通報されるという危機は回避した。いや、ここに立ってるだけでも結構ヤバイのか。住民の皆さんの目が痛い。これからどうしようかと考えていると、マナーモードに切り替えた俺のスマホがブルブルと震えた。


 八:天使は図書館で羽を休めてるなう


「ちょっと八神さん!! なんですかこの悪ノリすは! すっかりに染まっちゃってんじゃないですか!」
「悪ノリなんてしてないよ? 依頼人に分かりやすいように伝えてるだけ。それよりケントくん、もう少し声のボリューム落としてよ。愛理ちゃんに気付かれたらこの苦労は水の泡なんだから。ね?」

 反射的に右手で口を塞ぐ。注意されたことは正論なのだが……なんだろうこの敗北感。俺がなんとも言えない気持ちに打ちひしがれていると、再びスマホが震える。


 恭:やっぱりな! GPSも図書館で止まってる!
 恭:愛理は誰かと一緒に?
 恭:まさか……逢引か!? 逢引なのか!?


 予想通り芳賀さんの返信だった。面倒なので無視だ、無視。

「う~ん、中に入れないのは痛いねぇ。こんなことならモカちゃん連れてくればよかったなぁ。女性がいれば怪しさも半減するだろうし」

 おいコラ。人の姉を犯罪スレスレの事象に巻き込まないでくれよ。顎に手を当てて真剣に考え込む八神さんを白い目で見ていると彼は突然「ん?」と声を上げた。

「ケントくん、あれ」

 八神さんの人差し指を辿る。その先には、図書館から出てくる愛理ちゃんの姿があった。え、もう帰んの? ついさっき入ったばかりなのに……早すぎる。だってまだ五分も経ってないぞ?
 更に驚くべきことに、出てきたのは。ベージュのトレンチコートに黒のズボン、黒いキャップを深くかぶり、ボストン型のサングラスをかけたこれまた怪しい男と一緒に出てきたのだ。サッと顔から血の気が引いた。


 少女誘拐、連れ去り、暴行、殺人。


 ……俺の頭には不穏なワードが並んだ。

 しかし、こちらの心配を余所に愛理ちゃんはニコニコと笑いながら彼に話しかけている。そして、そんな八神さんに負け劣らないほど不審者丸出しの男は愛理ちゃんと手を繋いで歩き出した。う、嘘だろ。これはまさか芳賀さんの妄想が現実に……?

 いやいやいやいやそんな馬鹿な。芳賀さんの彼氏云々の妄想より、何かの事件に巻き込まれてる可能性の方が圧倒的に高い。有名人の娘だし、可愛いし。でもあの様子だと……知り合いか? 歳の差が二十~三十はあるだろうに何やら親しげだし。

「ど、どうします八神さん」
「うん。とりあえず後を追おう」

 八神さんの指示に従い、俺たちは二人の後を追った。
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