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16.不良娘
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「え、じゃあ、おばあちゃんとおじいちゃんの結婚って・・・」
「そうよ。おばあちゃんの知らないうちに決まっていたの」
すごい、大昔みたい。いや、大昔か。
と桜は変に感心した。
そう、桜からしたら大昔なのだ。
「それで、おばあちゃんは、不良になったのね」
「そうです」
と、怜月は嬉しそうだった。
でもね、不良ってどうなっていいのやら。
「だって、今すぐ、その日のうちに、不良娘になってしまいたかったの」
そして私は、半島酒店に行ったの。
「ホテルに?どうして?不良は高級ホテルには行かないでしょう?」
不良は、きっと夜中のコンビニやケームセンターとかに行くのだ。
ふふ、と玲月は笑った。
「だって、コンビニもゲームセンターもないもの。・・・昔は、半島酒店のロビー。あの、入り口から右手は、旦那様や恋人のいる女性が、左手にはそうではない女性が座る、という暗黙の了解があったの。皆知ってた」
私は、いつもママと一緒だからもちろん左側に座っていたの。
だから私は、その日は本当に思い切って、左側に座ったの。
今でも覚えています。
私はその日は、水色に黄色の水仙の旗袍を着ていた。
ママが持っていた一番襟の高い流行りのものです。
ママが年下の青年を誘惑する未亡人の役をやった時の衣装でね。
ママが珍しく気に入って手元に残していたの。
これに、ほら。玉花が持って行ってしまった大きなルビーの指輪をしていた役なの。
ね、全くサマになるでしょ?
私は黒いエナメルのハイヒールを履いた。
そんなに高いヒールを履いたことがないから足が痛くて仕方なかった。
緊張していたのと、呆れていたのが半分づつ。
・・・・なんてバカなことをしているんだろう。わざわざこんな格好でここまで来て。そして、結局、ただお茶を飲んでいるだけ。
もう帰ろうかしら、と思った時、声をかけられた。
・・・実はそれを待っていたのよ。
私は、此の期に及んで、どうしよう、と思いながら顔を上げた。
だって考えてみて。
知り合いかもしれないんだもの。
この狭い街でママと大哥を知らない人なんていないわ。そしたらすぐにばれてしまう。
ああ、でもね。
男性は、香港人ではない、とすぐに分かった。
・・・・日本人ね。
日本人も香港人もせっかちだけど、日本人の男の方って、どんな方も、ちょっとぼんやりしているのよ。
香港人は考えるのも話すのも動き出すのも同時だもの。
「お嬢さん、お一人ですか」
そう彼は言ったの。
なんて下手くそな広東語。
「・・・・英語の方がよろしい?」
私がゆっくりとした英語でそう言うと、ほっとしたように彼は頷いた。
それが、とっても素敵だったの。
顔見知りのベルボーイが、私に気付いて、支配人を呼び出した。
そう、香港に来た初日に会ったあのマネージャーです。
「・・・お嬢様、大変失礼ですが、お席をお間違えではないですか」
マネージャーは、そっとそう囁いた。
私は、決然といいえ、と言った。
あんなに緊張して、でも自分で覚悟を決めて言ったNoは今までありません。
「いいえ、間違えていませんわ。・・・・ありがとうございます」
驚いたように、困ったように彼は眉を寄せたが、それ以上は口を挟まなかった。
彼、とっても複雑な表情をしていてね。
今でも私、思い出すとなんだか居心地が悪いわ。
後からママや大哥に文句を言われるのだろうと思っていたのに違いないわ。
でもとにかく、私たちは出会ったわけね。
「・・・・そのひとが、桜子ちゃんのお母さんの、パパです」
「ええ?!」
桜は驚いて目を丸くした。
「そうよ。おばあちゃんの知らないうちに決まっていたの」
すごい、大昔みたい。いや、大昔か。
と桜は変に感心した。
そう、桜からしたら大昔なのだ。
「それで、おばあちゃんは、不良になったのね」
「そうです」
と、怜月は嬉しそうだった。
でもね、不良ってどうなっていいのやら。
「だって、今すぐ、その日のうちに、不良娘になってしまいたかったの」
そして私は、半島酒店に行ったの。
「ホテルに?どうして?不良は高級ホテルには行かないでしょう?」
不良は、きっと夜中のコンビニやケームセンターとかに行くのだ。
ふふ、と玲月は笑った。
「だって、コンビニもゲームセンターもないもの。・・・昔は、半島酒店のロビー。あの、入り口から右手は、旦那様や恋人のいる女性が、左手にはそうではない女性が座る、という暗黙の了解があったの。皆知ってた」
私は、いつもママと一緒だからもちろん左側に座っていたの。
だから私は、その日は本当に思い切って、左側に座ったの。
今でも覚えています。
私はその日は、水色に黄色の水仙の旗袍を着ていた。
ママが持っていた一番襟の高い流行りのものです。
ママが年下の青年を誘惑する未亡人の役をやった時の衣装でね。
ママが珍しく気に入って手元に残していたの。
これに、ほら。玉花が持って行ってしまった大きなルビーの指輪をしていた役なの。
ね、全くサマになるでしょ?
私は黒いエナメルのハイヒールを履いた。
そんなに高いヒールを履いたことがないから足が痛くて仕方なかった。
緊張していたのと、呆れていたのが半分づつ。
・・・・なんてバカなことをしているんだろう。わざわざこんな格好でここまで来て。そして、結局、ただお茶を飲んでいるだけ。
もう帰ろうかしら、と思った時、声をかけられた。
・・・実はそれを待っていたのよ。
私は、此の期に及んで、どうしよう、と思いながら顔を上げた。
だって考えてみて。
知り合いかもしれないんだもの。
この狭い街でママと大哥を知らない人なんていないわ。そしたらすぐにばれてしまう。
ああ、でもね。
男性は、香港人ではない、とすぐに分かった。
・・・・日本人ね。
日本人も香港人もせっかちだけど、日本人の男の方って、どんな方も、ちょっとぼんやりしているのよ。
香港人は考えるのも話すのも動き出すのも同時だもの。
「お嬢さん、お一人ですか」
そう彼は言ったの。
なんて下手くそな広東語。
「・・・・英語の方がよろしい?」
私がゆっくりとした英語でそう言うと、ほっとしたように彼は頷いた。
それが、とっても素敵だったの。
顔見知りのベルボーイが、私に気付いて、支配人を呼び出した。
そう、香港に来た初日に会ったあのマネージャーです。
「・・・お嬢様、大変失礼ですが、お席をお間違えではないですか」
マネージャーは、そっとそう囁いた。
私は、決然といいえ、と言った。
あんなに緊張して、でも自分で覚悟を決めて言ったNoは今までありません。
「いいえ、間違えていませんわ。・・・・ありがとうございます」
驚いたように、困ったように彼は眉を寄せたが、それ以上は口を挟まなかった。
彼、とっても複雑な表情をしていてね。
今でも私、思い出すとなんだか居心地が悪いわ。
後からママや大哥に文句を言われるのだろうと思っていたのに違いないわ。
でもとにかく、私たちは出会ったわけね。
「・・・・そのひとが、桜子ちゃんのお母さんの、パパです」
「ええ?!」
桜は驚いて目を丸くした。
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